もしも明日、戦争がはじまって、この国が戦場になってしまったら? 絶対にありえない、とは言い切れないことです。誰もが平和を望んでいるはずが、世界中ではなぜか争いが絶えることなく起こっています。どうすればその連鎖を止めることができるのか、その答えを知っている人はおそらくいないことでしょう。

では、もしも明日、『人類共通の敵』が現れたら? そのとき私たちは、世界中の国々は、その敵を倒すために一丸となることができるのでしょうか。

『進撃の巨人』

人類を捕食する巨人たちが突如襲来。兵士たちは人類を守るべく絶望的な戦いに挑む。

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©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

人類共通の敵

この記事をお読みの皆さんは、『人類共通の敵』と聞いて何を想像するでしょう。現実的に考えて、理想のために殺人や犯罪を厭わないテロリストたちでしょうか。壁の向こうから突然顔を出す巨人でしょうか。見たこともない武装で空から攻めてくるエイリアンでしょうか。いや、我が国に損失をもたらそうとするあの国の人間だ……なんてことを考えるような人もいるかもしれません。

しかし現実に、すでに『人類共通の敵』だと考えられている存在があります。海賊です。古くから海は多国間の交易の場とされており、そこで暴力や略奪を繰り返す海賊たちは『人類共通の敵』とみなされてきたのです。現在も、その考え方は決してなくなったわけではありません。

現在、公海(いずれの国の支配下にもない海)を航行する船舶の活動を規制・保護するのは、その船舶が所属する国旗国です。逆にいえば、公海であれば、いかなる船舶の活動も、その船舶の旗国以外の国は活動を規制することができません(旗国主義)。しかし海賊の場合はこの原則が適用されず、海賊船に遭遇した船舶は、いかなる国籍であっても海賊行為を取り締まることができるのです。

海賊旗

いかなる国にも属さないことを示す。

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Getty Images

いまだ海賊行為の定義が難しいという問題はあれども、その行為が多国に共通する利益を損じるという点で、海賊は『人類共通の敵』である……。このことは、いかなる船舶が海賊を拿捕する場合も、それによってどこかの国に利害が生じることはなく、したがって国際的な紛争にも発展しない、ということでもあります。しかし、この『人類共通の敵』が出現しても、世界各国が団結することはないでしょう。

では、どのような『人類共通の敵』ならば、地球に世界平和をもたらすことができるのでしょうか?

ある大統領

今から20年前、ひとりのアメリカ大統領が『宇宙人襲来』の可能性を本気で訴えたことがありました。彼の名前はロナルド・レーガン。2度の出馬を経て、1980年の大統領選で3度目の正直ともいうべき当選を果たしています。就任当時、アメリカとソ連は冷戦関係にあり、しかもソ連の軍事力はアメリカを凌駕せんとする勢いでした。

ロナルド・レーガン大統領

1983年にソ連を「悪の帝国」と名指しで批判した。

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the WHITE HOUSE

これに対して、レーガン大統領がはじめに採った外交戦略は、ずばりソ連と真っ向から対立しようというものです。それは、国防予算を拡大して『スター・ウォーズ計画』(アメリカへ飛来するミサイルを、人工衛星が宇宙空間から迎撃・破壊する計画)を推進、これに追いつこうとしたソ連はひっ迫した経済状況のために財政破綻を起こし、ソ連国民は政権に見切りを付ける……という筋書きでした。

その予測は見事に的中し、1980年代半ばに、早くもソ連の財政赤字は肥大化しています。そして、ミハイル・ゴルバチョフが書記長に就任した1985年の11月、レーガン大統領は、スイス・ジュネーブで初めての首脳会談に踏み切ったのでした。このときの彼の目標は、平和のためにゴルバチョフ書記長を説得することだったといいます。

記念すべき初会談。

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WIKIMEDIA COMMONS

レーガン大統領は、会談のはじめに「アメリカとソ連は地球上で最も大きい国であり、第3次世界大戦をはじめられる、世界でただ2つの国だ。しかし、世界を平和に導くことのできるただ2つの国でもある」と述べたといいます。そのあと彼は、ついに宇宙人の存在に言及したのでした。

「もしも地球が宇宙人に侵略されたなら、私は2つの超大国がともに動くことを確信している」

これを聞いたゴルバチョフ書記長は面食らい、さりげなく話題を変えたといいます。また、国家安全保障問題を担当していたコリン・パウエル大統領補佐官(当時)は、大統領の発言にはぞっとした、と語りました。のちに彼は、アメリカでも、レーガン大統領が高校生に同じことを熱弁する様子を目撃したようです。

コリン・パウエル氏(右)とレーガン大統領

会談以降、彼には「大統領の演説記録から宇宙人に関する発言を削除する」という仕事が加わった。

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abcNEWS

大統領は奇人か

もともとレーガン大統領は、かつて1930年代より、ハリウッドで俳優として活動していました。映画スターとしての知名度が高かったこと、またラジオアナウンサーの経験を活かした話術から、1950年代までテレビ番組の司会なども務めています。まだ政治の世界に染まりきっていなかったロナルド・レーガン氏は、その活動のなかで、熱心なSFファンになっていったようです。

俳優ロナルド・レーガン

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Wikipedia

大統領になってからも、その趣味が変わっていなかったことを示すエピソードがあります。1982年、レーガン大統領は裁判官や宇宙飛行士、その他VIPたちをホワイトハウスに招くと、映画『未知との遭遇』を個人的に上映したというのです。やはり、彼がゴルバチョフ書記長に語った『宇宙人襲来』は、ただのSF愛好家の妄言だったのでしょうか?

時代と祈り

アメリカ人の宇宙人への信仰を研究したデヴィッド・クラーク博士は「レーガン大統領は、映画『地球の静止する日』(1951)に影響を受けていた可能性がある」と述べています。アメリカに銀色の円盤で降り立った宇宙人クラトゥが、無敵のロボット「ゴート」によって人類の争いを止めようとする、というこの作品は、冷戦下の世界情勢を反映してつくられたものです。

映画『地球の静止する日』(1951)

クラーク博士は「爆弾の恐怖のもとに暮らした世代にとって、宇宙人の救済のメッセージは、行き詰まっていた冷戦に対する喜ばしい代案だった」と語る。

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SCREEN MUSE

ロナルド・レーガン氏が大統領に当選した1980年は、映画『未知との遭遇』(1977)の大ヒット後でした。当時の世論調査では、アメリカ人の57%が「UFOの存在を信じる」と答えています。ともすれば彼の発言は、当時の大衆の声を少なからず意識したものだったのかもしれません。また大統領は、自身が強硬外交や軍拡政策を採ったのに対して、意外にも核兵器の廃止を主張していました。荒唐無稽と揶揄された『スター・ウォーズ計画』も、実現すれば核兵器の廃絶につながると本人は信じていたようです。

とはいえ、レーガン大統領が『宇宙人襲来』を語った1985年の会談では、ゴルバチョフ書記長は好戦的態度で、また大統領自信も自らの主張を曲げなかったといいます。しかしこのとき、2国は共同声明を発表するに至っていますし、その後もふたりは合計4回にわたって会談に臨んでいます。もっとも、『宇宙人襲来』が一連の会談にいかなる影響を与えたのかは定かではありませんが……。

1989年、マルタ会談にて、44年間の東西冷戦が終結

当時のアメリカ大統領はジョージ・H・W・ブッシュ。

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Reconsidering Russia and the Former Soviet Union

映画『地球の静止する日』が世界情勢を反映してつくられたのと同じように、いつの時代も、フィクションには作家たちの祈りが込められているものです。かつて映画の世界で生きていたレーガン大統領は、きっとそのことを知っていたのでしょう。

極度の緊張を経て、冷戦が終結に向かう1980年代、彼は自らの『敵』を地球の内側に見出すのではなく、あえて地球の外側に想定したのかもしれません。おそらく大統領にとって、『人類共通の敵』である『宇宙人』が襲来するという物語は、人類の平和に対する、彼なりの『祈り』にほかならなかったはずです。

REFERENCE:

All the president’s (little green) men: How Ronald Reagan asked Soviet rival Mikhail Gorbachev for help fighting alien invasion

All the president’s (little green) men: How Ronald Reagan asked Soviet rival Mikhail Gorbachev for help fighting alien invasion

http://www.dailymail.co.uk/news/article-3045894/How-Ronald-Reagan-asked-Soviet-rival-Mikhail-Gorbachev-help-fighting-alien-invasion.html

国際法上の海賊の定義 ― 「人類共通の敵」?

http://www.oa.u-tokyo.ac.jp/rashimban/kaizoku/cat61/post-24.php

ロナルド・レーガン – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/ロナルド・レーガン

ミハイル・ゴルバチョフ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/ミハイル・ゴルバチョフ

Geneva Summit (1985) – Wikipedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Geneva_Summit_(1985)

冷戦 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/冷戦

スターウォーズ計画とは – 航空軍事用語 Weblio辞書

http://www.weblio.jp/content/スターウォーズ計画

アメリカ合衆国現代史(第11回 レーガン大統領とスターウォーズ計画)

http://www.uraken.net/rekishi/reki-ame11.html

マルタ会談 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/マルタ会談