米イリノイ州のノースウェスタン大学の研究により、カエノラブディティス・エレガンス(C・エレガンス)という線虫の、老化に関わる遺伝子を発見しました。この遺伝子はC・エレガンスだけでなく、人間を含んだその他の動物にも存在することから、将来的に人間の老化を遅らせる手助けとなるのではないか、と研究者は述べています。

When does aging really begin? Two Northwestern University scientists now have a molecular clue. In a study of the transparent roundworm C. elegans, they found that adult cells abruptly begin their downhill slide when an animal reaches reproductive maturity.

ミトコンドリア変異説

老化という現象はあらゆる生物に見られるものでありながら、その原因、メカニズムは未だに特定されていません。細胞内のミトコンドリアのmtDNAが活性酸素により突然変異を起こし、その結果ミトコンドリアの機能が低下し、ひいては細胞の機能が低下する、というミトコンドリアの変異が老化の原因であるという説が非常に有力となっております。つまり、今まで老化という現象は突然変異という非常にランダムな要素により起こるものと考えられていました。

遺伝子的にプログラムされた老化

研究によれば、C・エレガンスの生殖機能が成熟期に達する生後8時間ほどの頃、老化に関わる遺伝子が機能し、スイッチを切るかのように遺伝子が細胞の熱ショック応答を停止させてしまうようです。細胞の熱ショック応答は細胞、細胞内のタンパク質の機能を保つために重要な役割を果たしているものですので、熱ショック応答ができなくなった細胞は機能が低下することとなります。

熱ショック応答

細胞内のタンパク質は熱に非常に弱く、簡単に変性を起こしてしまい機能を低下、停止させてしまうが、熱ショックタンパク質と呼ばれるタンパク質がこの変性を防いでいる。これを熱ショック応答という。

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June | 2010 | HOPES

つまり、この研究結果は、老化のプロセスはある程度、遺伝子的にプログラムされたものであることを示しています。

老化はなぜプログラムされている?

研究の上席著者であるリチャード森本氏はさらに研究が進めば老化による病気の予防や、さらなる長寿の実現可能性を語っています。たしかに、もし今回発見された遺伝子が機能するのを止めることができれば少なくとも私たちは恐らく今よりもずっと老化を遅らせることができるようになるでしょう。

しかし、どうにも少しばかり不安があります。というのも、なぜわざわざこのような老化を進めるような機能をあらゆる生物が備えているのか、という疑問が残るからです。

進化論的に考えるのならば、今、現在の生命が持っている体、その素となる遺伝子は自然淘汰の結果、得られた環境に適応した状態となっているはずです。それならば、この老化のシステムさえも何かしら、遺伝子が保存されるにあたって非常に有効な理由があるはずです。

しかも研究によれば老化のシステムはあらゆる生物に備わっているという。あらゆる生物が老化を進める機構を備えているのなら、確実に何かしらの理由はあるはずである。

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仮に、この遺伝子を持たない、老化を限りなく遅らせる生物種がいたと仮定して、逆説的に老化の遺伝子がなぜ必要なのかを少し考えてみましょう。

老化しない種はエサを摂りすぎる?

もしこの種が肉食動物であったなら、歳をとっても獲物を狩る能力が衰えることがほとんどなく、しかも他の生き物の数世代も長生きするわけですから、恐らくその周辺にいる草食動物たちは即座に絶滅します。

草食動物がいなくなれば、この長寿な種は食糧がなくなりいずれ餓死していきます。たとえ老化をしなかろうと、食糧がなければ生き物は生きていくことができません。

ならばこの長寿な種が存在しないのは、限られた食糧を摂り過ぎてしまうがゆえなのでしょうか。

しかし、少なくとも記者は長い生物史の中で、老化しなかったがために食糧を摂り過ぎて絶滅した生き物というものを聞いたことがありません。それだけ他の種に比べて圧倒的優位に立った生物種ならばあっという間に他の生物を絶滅させてしまうはずですし、その痕跡だって残っていたでしょう。それに、老化をすることなく他の個体に比べてはるかに長生きする突然変異体という例も見たことがないように思えます。

死なないクラゲもいる?

ベニクラゲは成熟期に達してから再びポリプ期に戻ることから『不老不死』のクラゲと言われている。しかし、ベニクラゲの場合は老化が遅れるわけではなく『若返り』が行われているので、今回の老化とは少しばかり勝手は違うようだ。また、ベニクラゲが復活できるのは多くても10回程度ほどのようで、不老不死というわけではない。

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それに、なんとなくあらゆる生物が老化する遺伝子を得ることを選択したというのは不思議な話に思えます。むしろ、あらゆる生物が老化する遺伝子を持っていない方が『自然』なことのように思えます。

もしかしたら、老化というプロセスは逆に、長く生きるために必要なことなのかもしれません

老化がなぜ長生きのために必要なのかはわからない。代謝を遅らせることで細胞分裂の頻度を減らしているのかもしれないし、老化しない細胞はがん細胞になりやすいのかもしれない。あるいは全く別の理由かもしれない。ただ、自然淘汰により『老化』を選択した生物がほとんどということは事実だ。

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今回の研究は老化の遺伝子を発見したということまでで、遺伝子の機能を止める、つまり老化を実際に止めることには未だに触れられていません。C・エレガンスの老化が遺伝子的に止められた時、なぜ地球上の生命が老化すること選んだのか、その理由がもしかしたらわかるかもしれません。

REFERENCE:

Simple Flip of Genetic Switch Determines Longevity in Animals: Northwestern University News

Simple Flip of Genetic Switch Determines Longevity in Animals: Northwestern University News

http://www.northwestern.edu/newscenter/stories/2015/07/genetic-switch-determines-longevity-in-animals.html

|健康長寿|

http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc3/doc3-03-1.html

熱ストレス応答による恒常性維持の機構

http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/81-06-04.pdf

Heat shock – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Heat_shock

ベニクラゲ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B2

「若返り」を研究する京大准教授 クラゲを若返らせることに成功 – NEWS | 太田出版ケトルニュース

http://www.ohtabooks.com/qjkettle/news/2013/01/28111848.html