台の上に置かれた32個のメトロノームを異なるタイミングで始動させます。バラバラに拍を刻んでいるメトロノームの中に、徐々に同じ動きをするものが現れ、しだいにその数が増していき、最終的には全てのメトロノームが全く同じ振る舞いを行います。

メトロノーム自身が意志を持って動きを揃えているか、あるいは各々がそれを放棄して全体として一つの意志をもっているようにも見立てることができますが、いずれにしてもまるで統率のとれた軍隊のようです。

この実験動画は埼玉大学工学部 池口研究室が公開したもの。

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最初はそれぞれバラバラに動いている。

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徐々にメトロノームの動きが揃ってきて……

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最終的には32個全てのメトロノームの動きが揃う。

どうして同期するのか

精度の問題ではない

動画からテンポを数えると、おおよそテンポ160(1分間に160拍)くらいだと思われます。電子式のメトロノームであれば、かなり正確にリズムを刻みますが、振り子式は、おもりの微妙な位置に影響されます。例えば、テンポ160とテンポ161のメトロノームの動きがどのようになるかを計算してグラフに書いてみました。最初は同じ動きをしていても、テンポがたった1つ違う(1000分の2秒という、きわめて僅かなズレ)だけで、数十秒経つと、メトロノームの動きがずれてしまいます。これでは、ずっと同期し続けている動画のような現象は起こりません。

1拍あたりの秒とその差
BPM 161 BPM 160
0.3727sec 0.3750sec 0.0023sec
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40秒の時点で、位相はおおよそ1/4拍ズレる。

メトロノームが置かれている台

メトロノームは水色の台の上に置かれています。画像の後ろのほうでわかりにくいのですが、水色の台は、ひも状のもので吊られていて、水平に動くようになっています。メトロノームの動きが完全に揃っている状態を見ると、メトロノームのおもりの動きと、台の動きは同じ向きに動いています。

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メトロノームの動きと台の動きの関係

吊り下げられている台もまた、振り子となる。

なぜ台が動いているかというと、メトロノームの振り子が原因です。振り子の反作用が地面である台に力を加えるため、台まで揺れ動いてしまうわけです。

同期の仕組み

メトロノームが同期するしくみを図に示します。まず、それぞれのメトロノームは一見バラバラに動いています(fig.aの状態)。

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fig.a

始動後、初期の状態。

しかしよく見ると、やや動きが近いものを見つけることができるはずです。(fig.bの青と赤のメトロノーム)。すると、台は青と赤のメトロノームの反作用に影響されて次第に同調します。

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fig.b

近似したグループと同調する方向に台が少し動きはじめる。

今度は台から力がフィードバックされ、青や赤のメトロノームは同調がより強まります。したがって、これらを繰り返して増幅した台の力が、近似度の低いオレンジ色をまでも停止させる方向に働いていきます。

一旦動きが小さくなったオレンジは、次は台の動きに合わせて動き出します。(fig.cの状態)。

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fig.c

台の動きに合わせて、別の動きをしていたメトロノームも同調する方向に動きが変わる。

こうして、全てのメトロノームが揃っていったというわけです。
振り子が繰り広げるこの不思議な現象は、メトロノームと台が互いに力を掛け合い続けることによって、他の全てのメトロノームが揃えさせられたというわけです。このような同期現象は実は17世紀から知られており、壁に掛けてある複数の振り子時計が、いつのまにか揃っていることに気付いたホイヘンスによって明らかになりました。この場合も同様で、振り子の反作用が時計を掛けている壁を通して、他の振り子と影響し合い続けたからです。