年がら年中あくびばかりしている人は共感能力の高い人、なのかもしれません。

アメリカのベイラー大学の研究により、共感能力の低い、冷酷な人はあくびが伝染しない傾向にあることがわかりました。

We found that scores on the PPI-R subscale Coldheartedness significantly predicted a reduced chance of yawning.

研究はPsychopathic Personality Inventory-Revised(PPI-R)と呼ばれる自己中心性、冷酷さ、無責任な無計画性、恐怖心(のなさ)など、サイコパス的な人格を持っているかどうかを調べる自己診断テストで要件を満たした(サイコパス的と診断された)学生135名を対象におこなわれました。

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一つの大学にサイコパス的と診断される人間がいるのは少々多いように感じられるかもしれないが、ベイラー大学は在籍者数は約16000人なので、サイコパス的な傾向を示す人間は1%にも満たない。

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研究者は被験者に様々な表情が出現する映像を見せました。その結果、PPI-Rで『冷酷さ』のスコアが高い人はあくびをする映像が流れた時につられてあくびをすることが少ないことがわかりました。

なぜ『あくび』?

研究者はこの結果に対して「あくびの伝染は共感能力に大きく関わることを示す重要な証拠である」というようなことを述べています。

なんだか突拍子もない結論のような気がします。なんとなくですがそんなに結論を急いでもいいのだろうかという飛躍を感じます。結果がそう示していると言われてもスタート地点から一気にゴールにワープされたような、そんなモヤモヤを覚えます。こういった疑問への説明が為されないことが学問ひいては科学への扉を重く閉ざされたもののように見せる原因なのではないでしょうか。言いすぎでしょうか。

ともあれ、『あくび』そして『あくびの伝染』について考えながらどのようにして『あくびの伝染が共感能力に関わる』という結論に至るのかの道筋を追ってみようと思います。

そもそも『あくび』とは

まず、あくびがどういうものなのか考えてみましょう。あくびが出るのは大体、授業中や仕事中、つまり退屈であったり疲れていたり眠かったりする時に出るものです。ならばあくびは『私は退屈です』ということを示すためのものなのでしょうか。しかし、あくびは人間だけでなく猿や犬、はたまた鳥、果てはまでにも見られている現象です。

社会性のある動物ならば『退屈である』『疲れている』というサインは何かしらの意味を持つかもしれませんが、集団行動をしない、非社会的な生き物である亀がそういったサインを出すのは無意味どころか外敵に襲われる危険を増やす危険な行為に思えます。

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亀のあくび?

哺乳類でないとあくびなのかそうでないのか判別しがたい。

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ということならば、何かしら違った意味があるはずです。実はあくびは眠気を覚ますための行為であるという説が非常に濃厚になっています。あくびのメカニズムについては諸説あり、いわく脳への酸素の供給であったり、脳を冷やす行為であったりと言われていますが、どちらも結論として『それゆえに眠気が覚める』というものなので、あくびは眠気を覚ますためのもの、と考えてよさそうです。

あくびの伝染

さて、あくびは様々な動物に見られることは先ほど書いた通りですが、犬などは他種のあくびでさえ(相手が人間でさえ)あくびが伝染するのに対して、亀はあくびが伝染しません。亀はあくびが伝染しないという研究は2011年にイグノーベル生理学賞を受賞しており、イグノーベル賞といえば『なんだかバカバカしい研究』というイメージが強いですが、研究背景を見てみるとなかなかに興味深いものが多くあります。

『あくび』という眠気を覚ますための現象と『あくびが伝染する』という現象は全く別の現象です。前者はただの内発的な行為なのに対して後者は他者のマネ、外発的な行為であるといえます。このことから研究者はあくびの伝染は他者がいる、あるいは他者と協力して生活することを前提とした集団行動をする、言い換えて社会性を持っている生物が持っている特性なのではないかと考えました。そこで社会性を持たない亀にあくびの伝染が起きるかを確かめたわけです。

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自然界であれば『眠気を覚ます』行為は『警戒心を高める』行為であるといえる。集団行動をおこなう動物は群れのうちの一体だけが生き残ってもそこからさらに長く生き延び続けることができる可能性は低い。ならば群れのうちのある個体が警戒心を高めた時に、それを見た他の個体も同じように眠気を覚まして警戒心を高めた方が群れが生き残る可能性は高くなる。

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結果として亀にあくびの伝染は起こらない、つまりあくびの伝染は社会性の表れである、という説がより強固なものとなりました。

社会性からさらに絞り込む

さて『社会性』と一言で言ってもそれには様々な要素があります。どのような要素が含まれるか、というのは人それぞれ違うような気がするので、ここは反社会性的な人格を持つサイコパスのテスト、PPI-Rでチェックする性質を調べ、逆説的にどのような性質を持っていると『反社会的である』と判断されるかを見てみようと思います。

PPI-Rで調べる性質は大きく分けて8つあります。

・社会的影響(他者を操る能力)
・大胆さ(恐怖を感じる度合い)
・抗ストレス力
・自己中心性(目的のためなら手段を選ばないか)
・反抗的非協調性
・避難の外在化(自己正当化をする能力)
・無責任な無計画性
・冷酷さ(共感性の有無)

つまり、他人を操る能力に欠けすぐに恐怖を覚えストレスに弱く他人のためにばかり生き協調を重んじ自分の非をまっすぐ受け止めて責任を持って計画を立てる穏和な人間が社会的な人間となるわけですね。こんな人間がもしもいたとしたらとてもじゃないですが健康的に生きていけなさそうなので、現代社会がいかに社会的でないかがわかりますが、さておき。

こういった性質を持つ人々を集め、どのような人々があくびにつられないかを調べれば、社会性の中のどの要素があくびにつられるかどうかに関わるかがわかるわけです。というわけで、やや違ったアプローチにはなっていますが今回の実験に繋がり、社会性の中から共感性があくびの伝染に大きく関わっているということがわかった、というわけです。

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亀の研究もそうだが、一見『なんでそんなことを調べようとしたのだろう』と思うような研究と結果でも、背景がわかると非常に理論的な筋立ての面白い道のりがあることがわかる。

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さて、最後に重要なことを一つだけ。この研究結果は『共感能力の低い人があくびが伝染らない傾向がある』ということを示しているだけで『あくびが伝染らない人は共感能力が低い』ということを示しているわけではありません。くれぐれもあくびをしない人、上記のPPI-Rのチェック項目に当てはまりそうな人をを「あいつサイコパスだぜ」と勝手に診断したりしないようお願いします。

REFERENCE:

Rundle, Brian K., Vanessa R. Vaughn, and Matthew S. Stanford. “Contagious yawning and psychopathy.” Personality and Individual Differences 86 (2015): 33-37.

Rundle, Brian K., Vanessa R. Vaughn, and Matthew S. Stanford. “Contagious yawning and psychopathy.” Personality and Individual Differences 86 (2015): 33-37.

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886915003645

Why Do We Yawn and Why Is It Contagious? | Science | Smithsonian

http://www.smithsonianmag.com/science-nature/why-do-we-yawn-and-why-is-it-contagious-3749674/?no-ist

Psychopathic Personality Inventory – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Psychopathic_Personality_Inventory

Friends and loved ones yawn together — ScienceDaily

http://www.sciencedaily.com/releases/2011/12/111212092649.htm

精神病質 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E8%B3%AA

ベイラー大学 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E5%A4%A7%E5%AD%A6

カメのあくび〜日経サイエンス2012年2月号より | 日経サイエンス

http://www.nikkei-science.com/?p=15372