2015年1月7日、フランス・パリの週刊誌『シャルリー・エブド』本社を武装したイスラム過激派2名が襲撃する事件が起こった。すでに事件発生から約1年が経過したものの、昨年11月13日にはISIL(ダーイシュ、自称「イスラム国」)の戦闘員によるパリ同時多発テロ事件が起きるなど、情勢は依然として緊迫したままだ。

奇しくもシャルリー・エブド事件と同日、作家ミシェル・ウェルベックが『服従』という小説を発表して話題を集めた。2022年のフランスにイスラム政権が樹立するというこの物語は、まさに「予言」となるかもしれない。アメリカの研究機関ピュー・リサーチ・センターによると、2050年にはイスラム教徒の人数がキリスト教にも並ぶというのだ。

ミシェル・ウェルベック『服従』

日本でも既刊。

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By the end of the century, Muslims could outnumber Christians for the first time in history, according to a report released by the Pew Research Center.

いらぬ誤解を招かぬために先に述べておけば、イスラム教の台頭は世界にとっての脅威を直接的に意味するものではない。フランスのオランド大統領も「敵はテロリストであってイスラム教徒ではない」というように、イスラム教徒の人数が増えることは暴力とテロが横行することに繋がらないし、イスラム教への恐怖や嫌悪を過剰に募らせるべきではないだろう(もっとも、この情勢下でその調査結果が発表されたことに作為がないと言い切ることこそ無理があろうが)

「私はシャルリー」

言論と表現の自由を守るべくデモが各地で行われたが、やがて『ひとつになるための合い言葉』としての側面が強まるにつれて、逆に権利を奪う同調圧力になっているという批判も出た。

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2010→2050

現在、世界で最も多くの信者を持つ宗教はキリスト教であり、全人口の31.4%にあたる約22億人が信者であるといわれている。これに対してイスラム教の信者は全人口の23.2%にあたる約11億人だ(ともに2010年のデータ)。イスラム教が成立したのは7世紀であるから、じつに約700年ぶんの差があと35年ほどで詰まることになる。

調査によれば、現在の統計にみられるペースがこのまま維持される場合、2050年の世界人口は約93億人になると想定されている。その時、キリスト教徒の割合は全体の約31.4%と現在から変化しないにもかかわらず、イスラム教徒の割合が約29.7%と迫ってくるという。もちろん、キリスト教徒の総数が減るというわけではない。とにかくイスラム教徒の増加ぶりが著しいのだ。

2050年、キリスト教徒は約29.2億人、イスラム教徒は約27.6億人。仏教徒のみ人口減の予想。

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3つの要因

なぜキリスト教が停滞してイスラム教が台頭するのか? あくまで統計上の予測ではあるものの、これには大きく分けて3つの理由が想定されている。ひとつは出生率と年齢分布、もうひとつは信仰の『鞍替え』、そして移民の問題だ。

若いイスラム教、高齢化する他宗教

イスラム教の特徴は、世界的にみてその出生率の高さにある。総人口を維持するのに必要な出生率は女性ひとりにつき2.1人だというが、イスラム教徒の女性はひとりにつき平均3.1人を出産しているのだ。これは全宗教で1位であり、キリスト教はそれに次ぐ2.7人である。

また年齢の分布に注目すると、現在のイスラム教は15歳未満が全体の34%、15歳~69歳が60%を占める。キリスト教もそれぞれ27%・60%と大きな差ではないが、こちらは70歳以上が全体の14%とやや高齢化が進んでいるといえるだろう(イスラム教は7%)。世界全体のペースより緩やかに高齢化するのは、イスラム教とヒンドゥー教のみだと予測されている。

仏教は20%・65%・15%の比率で分布。しかし出生率はひとりにつき1.5人と非常に厳しい状況。

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信仰の『鞍替え』

自分が信じる宗教を変えるという行為には、国によってさまざまなケースがある。いたって普通に『鞍替え』できる国もあれば、違法とされてしまう国もあるのだ。今回は、対象者の『子どもの頃の宗教』と『現在の宗教』を調査することから今後の予測がなされている。

信仰の『鞍替え』予測表

左から「入ってくる数」「出て行く数」「差し引きした数」。

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驚くべきは、キリスト教を信仰しなくなる者があまりに多いことだろう。約4,000万人が『鞍替え』する一方で、1億人以上が離れていくため、2050年までにキリスト教徒は約6,600万人も減ってしまうという。次に大きな変化を見せるのは「特定の宗教を信仰しない」人々で、2050年までに約6,150万人増える予想だ。なおイスラム教はそれに次ぐ変化で、2050年までに約322万人増える予想である(※1)

移民を予想できるか?

現在の世界情勢において大きなトピックである『移民問題』だが、今回の調査では過去のデータをもとに今後数十年間にわたる移民の宗教的構成が予測されている。

たとえばヨーロッパにおけるイスラム教徒の割合は、2010年の時点で5.9%だったのに比べて、2050年には10.2%とおよそ倍近くにまで増加する予想だ。もちろん前述の出生率や年齢分布によるところも大きいが、移民も重要な要素だという(移民を抜きにした場合、2050年には8.4%)

移民の状況は各国の政策や国際的な出来事の影響を受けやすいため予測困難ともいわれる。

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出生率・年齢分布・移民、この3つの要因によってイスラム教徒は今後急激にその数を増やしていくという。そのままペースが落ちなかった場合、2070年ごろにはキリスト教徒と同じ割合になり、2100年には追い抜くことになる計算だ。

しかし世界情勢は日々変化しており、戦争やテロ事件の勃発、政治の変化など『予想していなかった出来事』が毎年のように起きる状況である。それによって国や人々の動きが変われば、もちろん小さくとも宗教人口に変化が起きるだろう。またこの調査は2015年5月に行われており、すなわち11月のパリ同時多発テロ事件はまだ起きていない。ともすれば現在の状況は、すでに調査当時とは変わっているかもしれない。今後も継続的な調査が望まれるところである。

REFERENCE:

A Religious Forecast For 2050: Atheism Is Down, Islam Is Rising

A Religious Forecast For 2050: Atheism Is Down, Islam Is Rising

http://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2015/12/25/460797744/a-religious-forecast-for-2050-atheism-is-down-islam-is-rising

The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050

http://www.pewforum.org/2015/04/02/religious-projections-2010-2050/

Chapter 1: Main Factors Driving Population Growth

http://www.pewforum.org/2015/04/02/main-factors-driving-population-growth/

Appendix A: Methodology

http://www.pewforum.org/2015/04/02/appendix-a-methodology-2/

浅田彰「パリのテロとウエルベックの『服従』」

http://realkyoto.jp/review/soumission_michel-houellebecq/

  1. 注意しなければならないのは、イスラム教徒の多い国々では『鞍替え』がそもそも少なかったことだ。そうした国々において『背教』は法的・社会的影響がたいへん大きく、ともすれば死刑にすらなってしまう。今後そうした制度が変わる可能性はあるが、今回の調査では鑑みられていない。今回の結果はそういった点も踏まえて理解すべきだろう。