世界三大珍獣のひとつ、ジャイアントパンダ。これまで彼らは、基本的に群れや家族を形づくらず、単独行動を好む動物として知られてきました。

しかし、ついにそのイメージが崩壊する出来事が起きてしまいました。このたび行われた「5頭のパンダをGPS付きの首輪で追跡する」という調査の結果、彼らが『思ったより社交的』だったことがわかったのです。

They are one of the rarest bears on Earth, and little is known about their private lives.
However, reclusive giant pandas may not be quite as solitary as we thought.
Researchers say that in fact, they can be sociable

「自分、一匹狼なんで」

嘘だった。

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パンダの生態に迫る

2010〜2012年、ミシガン州立大学の研究チームは、中国南西部の臥龍自然保護区で、野生のパンダ5頭にGPS付きの首輪を装着、その生活を追跡していました。首輪は4時間ごとに緯度・経度・標高を計測し、また5分ごとにパンダの頭部の動きを記録していたのです。

首輪の付けられたパンダは、大人のメス3頭と若いメス1頭、オス1頭の合計5頭でした。これまで10年以上、中国政府はパンダの保護のため、GPSの装着を禁じてきました。過去にもパンダの追跡は行われていたものの、科学技術がパンダの生態を明らかにするために使用されたのは初めてだといいます。

臥龍自然保護区にて

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その結果、研究チームはパンダの生態にとても驚かされたようです。研究員のチャン・シンドン氏は「これまで考えられていたほど、パンダは孤独ではないのかもしれない」と述べています。そんな、パンダの『思ったより社交的』なコミュニケーションとは、一体どんなものだったのでしょうか?

パンダたち、ゆるく頑張る

彼らが最も驚いたのは、しばしばパンダたちが団結しているように見えたことでした。たとえば、大人のメス・メイメイと若いメス・ロンロン、オスのチュアンチュアンの3頭は、秋の数週間と春の繁殖期でない時期に、ほとんど同じ場所で生活していたことがわかったのです。

緑がメイメイの移動範囲。

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赤がロンロン、黄色がチュアンチュアン。

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研究員のヴァネッサ・ハル氏は「私たちが予想しなかったような長い時間を、彼らはともに過ごしていました」と話しています。しかしパンダたちは、それでも常に一緒というわけではありません。1年のうち数週間だけを近くで過ごすのが、彼らの距離感と生活スタイルなのだといえるでしょう。

また、メスのパンダが約4.38km²の範囲を移動していたのに対し、オスは約6km²とさらに広い範囲を歩き回っていたことが判明しました。研究チームは、オスのパンダはまず周りのメスについてあれこれ調べてから、マーキングによって自分の存在をアピールしていたのではないかと推測しています。

足を使って市場調査。

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多くの野生動物は、自らの『生活圏』のなかに『コア・エリア』を持っています。彼らはあちこち移動しながらも、頻繁にその場所に戻っているのです。パンダの場合、その『コア・エリア』が最大20〜30ヶ所存在する可能性があります。それは、彼らが食事を摂るためのものだといいます。

パンダは竹が主食のため、ひとつの場所でそれらを食べきってしまうと、また別の場所へ移動しなければなりません。しかし彼らは『コア・エリア』を一度去っても、遅くても6ヶ月後には再び戻ってくるのです。つまり、パンダは自分の食事について覚えていて、竹の成長を見越して移動しているのだと考えられています。

いつも新しい場所を探すのは大変。

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また、研究チームは「彼らが別のパンダと交流することは、その場所に再び戻るために重要なこと」だと指摘しています。彼らがある時間をともに過ごすのは、生活のために必要な手続きなのです。

パンダに学びたい

孤独な動物だと思われていたパンダは、人間には見せなかっただけで、実は彼らなりの方法でコミュニケーションを取っていました。その社交性は、このように言い換えることができるでしょう。

・仲間とは付かず離れずの関係を築く
・まずは周りを知ってから自分を売り込む
・自分の足で動きながらも、きちんと戻る場所を決めておく

こうしてみると、あまりにも堅実な社交性です。しかしパンダたちはいま、その『堅実さ』から逃れられない状況にあります。

パンダのゆるくない現実

パンダは1日のうち約14時間を食事によって過ごし、また睡眠にも長時間を費やす動物です。しかし、「よく食べてよく眠り、群れをつくらず悠々自適な毎日を送る」といえば聞こえはよさそうですが、パンダはいま絶滅の危機に瀕しています。

もともとパンダは繁殖力が低いうえに、人間がその個体数を減らしてしまいました。森林開発によって生息地は激減、残った場所もいくつかに分断されてしまっています。また密猟は、規制や懲罰の厳しい現在もあとを絶たないということです。2015年2月、中国政府はジャイアントパンダの推定個体数を1,864頭と発表しています。

それでも約10年で200頭ほど増えた。

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パンダたちは確かに『思ったより社交的』ですが、その社交性はけして前のめりなものではありません。絶滅の危機下にあって、彼らのコミュニケーションは、摂食や生殖といった『生存』そのものに直結しているのです。私たちがイメージできる『社交性』とギャップが生じるのは、やむを得ないことかもしれません。しかし、だからこそ私たちがパンダに学べることはないものでしょうか……。

つながりすぎないために

最後に、無理やり人間社会に目を転じてみましょう。哲学者の千葉雅也氏は、現代社会の特徴を『接続過剰』だと述べています。

今のネット社会では、ささいなことまでソーシャルネットワーク(SNS)などで「共有」され「可視化」されている。スマホも普及し、生活の細部と細部がかつてない規模でつながる。「接続過剰」とはそういう意味です。接続が過剰になると、相互監視に等しくなってしまう。
つながりすぎ社会を生きる 浅田彰さん×千葉雅也さん

その状況下で、千葉氏は「自分を他者に関係づけすぎない」ことを訴えています。他者へ関心を向けるのをやめるのではなく、あくまで接続を過剰化しないことについて述べているのです。

この一点においては、パンダの『思ったより社交的』なコミュニケーションの方法が、私たちにも現実的なものとして迫ってくる……などというと、言い過ぎになるでしょうか。

しかし、パンダのコミュニケーションが自身の『生存』に直結するのと同じように、私たちのコミュニケーションも時として『生存』を左右します。身近な相互監視のなかでトラブルに巻き込まれた……そんなニュースを聞いたり、あるいは経験をしたことのない人はいないでしょう。

周囲と付かず離れずの関係を結びながら、それでも活動することはやめないで、自分の『コア』をきちんと持っておくこと。『思ったより社交的』になることは、もちろん簡単なことではないでしょう。必要以上に前のめりにならず、けして無理することなく、パンダのような足取りで、この社会をうまく渡り歩いていきたいものです。

REFERENCE:

Pandas get lonely too: Study finds elusive bears more sociable that thought

Pandas get lonely too: Study finds elusive bears more sociable that thought

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3015391/Pandas-lonely-Study-finds-elusive-species-sociable-thought.html

パンダの保護活動

http://www.wwf.or.jp/activities/wildlife/cat1014/cat1069/

その数1,864頭 ジャイアントパンダの最新の推定個体数

http://www.wwf.or.jp/activities/2015/03/1252807.html

ジャイアントパンダ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80

つながりすぎ社会を生きる 浅田彰さん×千葉雅也さん

http://www.asahi.com/articles/TKY201312100317.html

【じんぶんや第93講】千葉雅也選『切断と接続のスタイル』

https://www.kinokuniya.co.jp/c/20131217142406.html