雨が降るのは政治が悪いから……。まぁ、そんなことはあるはずはないと普通なら思います。ちょっと考えなくともわかることです。

けれど、もしかしたら考えていない、つまり思考の及び届かない無意識の部分では、人は悪天候を政治のせいにしているかもしれないのです。

We find that voters regularly punish governments for acts of God, including droughts, floods, and shark attacks.

この研究論文の筆頭著者はクリストファー・アーヘン氏。彼は1896年から2000年までの大統領選挙とその年の天候を綿密に調べ、前回の得票率など様々な要素を踏まえて、擬似的に『もしその年の天候が悪かった時』あるいは『もしその年の天候が良かった時』の現職の大統領がいる党に所属している候補の得票率を割り出しました。

それにより、現職の大統領のいる党への投票率とその年の干ばつや大水などの天候の良し悪しに相関があることがわかったのです。論文によると、2000年にあったジョージ・W・ブッシュ知事とアル・ゴア副大統領を筆頭候補とした大統領選挙時は最大で3.6%の人々が悪天候によって当時現職の党に所属していたアル・ゴア副大統領に反対票を投じていた、という結果が出ています。

ううむ……。

でも、どうにも天災が起きることと得票数が変わることに相関があるとは思えません。風が吹けば桶屋が儲かるとかバタフライ・エフェクトのような飛躍のある話のような気がします。そこに無意識では選択をしている、相関関係がある、と数字で言われてもやっぱり意識では納得がいきません。なので、少しばかり雨や日照りで得票数が変わる理由を考えてみようと思います。

雨が降ると得票数が変わる。

雨が降ったら投票率が減るのはわかるが……。

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『雨が降ると得票数が変わる』

行動免疫系

behavioural immune systemというものがあります。あえて訳すのなら行動免疫系でしょうか。行動免疫系は生物が病気などの原因となりそうな脅威(悪臭など)にさらされた時に、その原因と思われるものを排除しようとする心理学的な機構を指します。

脅威(天災)にさらされると原因と思われるもの(現職)を排除しようとする。これはかなり『雨が降ると得票数が変わる』理論の説明が期待できそうです。

行動免疫系はあらゆる生物に見られる機構ですが、人間の行動免疫系では少しばかり他の生物とは違った行動を示します。人の場合、病原菌などの脅威にさらされると病気であるなしに関わらず見た目などで人を判断し、排他主義で自民族中心主義的な傾向を持つようになります。その他にも人は脅威にさらされることで伝統的な社会慣習を重んじ、性差を厳しくし、保守的になる傾向があることがわかっています。

あいつ赤いから排除しようぜ!

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つまり雨が降ると保守的になる、ということのようです。これでは現職の大統領がいる党への投票数が減る、つまり対抗勢力に有利に働くという先の論文とは矛盾を成します。……とりあえずこの矛盾は一旦置いておいて別の方向から考えてみようと思います。

政治家という目に見える敵

一般的に災害と呼ばれるような大雨や日照りは人を不快な気分にさせます。そういった時、人はどのようなことを考えるでしょうか。科学が発展する以前、昔の人々は死や天災など、どうしようもなく不可解なことを神の仕業としてきました。理不尽でとらえどころのない現象を『神』と『擬人化』したといってもいいでしょう。姿の見えない概念を理解するのは難しいですが、それに形を与えると理解を容易にします。

イエス・キリスト

神の子ではあるが、イエス・キリストも容易に理解できる神の擬人化としてシンボル的に使われる。人の罪を背負って死んだ、というエピソードもスケープゴート的ではある。

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形があると見なすと理解がしやすいのは、概念が理性で理解をするもので形が本能でも理解ができることだから、といえるでしょう。さらにいえば本能は直感的であり、無意識的であるといえます。そういった無意識によって理解できる形を持った神が、ある意味でスケープゴートとして利用されてきたのです。

話は少し戻り、大雨や日照りが起きると農作物に被害が及び、野菜の値段を高騰させます。野菜の値段は家庭の経済に直接影響を与えます。野菜による支出はどうしようもないものなので、人はバランスを取るように収入が増えることを望むようになります。つまり、こんな風にです。

もっと収入が増えれば、会社が給料を上げてくれれば、景気がもっと良くなれば……。

先日も季節外れの雨続きによって野菜の値段が高騰した。

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景気が良くならないのは誰のせいでしょうか。本来ならばたくさんの要因があり、それらが複雑に絡み合い原因をわかりにくく、またひどく大きな物にしています。先程も述べたように、そうした問題に直面した時、人は可視化できる、大きなシンボルを標的とします。神様に文句を言うのも悪くはないと思いますが、神が現れてすべてを良い方向に向かわせる『デウス・エクス・マキナ』は物語の中でしか登場しないようなので、もっと現実的になんとかしてくれそうな政府に文句の標的が向かうこととなります。

今の政治は景気を良くしてくれない、自分たちの生活を守ってくれない、ならば、新しい政府にしなければならない。

雨が降るのはお前らのせいだ!

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そのような経緯を辿ると考えると、人は天災によって現政府へ反感を抱くようになるという現象を受け入れやすくなるのではないでしょうか。

また、この考えは先程の行動免疫系の説明に当てはめると脅威(財布事情の悪化)にさらされるようになり(自分たちの生活を)保守しようと働く(結果今の政党を除こうとする)、と言い換えることができます。雨という脅威から身を守るために対立候補を排他するよりも前者の方が免疫的な動きであることは疑いようもないでしょう。

様々な無意識への刷り込み

選挙の結果が天気で変わってしまうのは困るといえば困りますが、勝負は時の運。そういうことがたまたま起きても仕方がないといって諦めるしかないのかもしれません。けれど、もしこの無意識への訴えかけを人為的に引き起こそうとする人がいたとしたら、話は大きく変わります。人々の無意識へと訴えかけ自らの党へ投票させる行為は洗脳であり、洗脳のような方法で国民の支持を得る政党はしばしば独裁国家へと陥りがちです。

人為的な無意識への働きかけといえばサブリミナル効果を思い浮かべる方も多いでしょう。あるいは、似たようなものでプロダクトプレイスメントというものもあります。少し前に流行ったステマ、いわゆるステルスマーケティングも宣伝らしくなく宣伝を行うという意味では無意識への働きかけといえます。その他にも人は相手の良い情報よりも悪い情報の方をよく覚えるネガティブバイアスと呼ばれるものがあります。このことから対立候補を誹謗中傷によって貶めるネガティブキャンペーンも、無意識を利用した政治戦略のうちと考えることができるでしょう。あるいは何か特定の物の危険性を強く訴える声明も行動免疫系的に考えれば排除への傾向を強く煽るものと考えることができます。

このように少し列挙するだけでも如何に私たちの無意識が利用されているかがわかります。私たちは無意識に流されることなく正しい判断を下すことはできないのでしょうか。

サブリミナル効果

サブリミナル効果(サブリミナルこうか)とは、意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで表れるとされている効果のこと。有名なものとして映画の中に認知できない程の短いコマに商品のコマーシャルを混ぜるなどがあるが、現在はその有効性について懐疑的な意見が主要である。なお、画像は砂原良徳のアルバム『Subliminal』のジャケットより。このような宣伝行為と思われないような宣伝を行うことをステルスマーケティングと呼ぶこともあるが、頼まれたわけでも金銭のやりとりがあるわけでもないのでこれはただの宣伝あるいは応援である。

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©Ki/oon Records Inc.

プロダクトプレイスメント

プロダクト・プレイスメント(Product Placement)とは広告手法の一つで、映画やテレビドラマの劇中において、役者に特定の企業名や商品名(商標)を表示させる手法のことを指す。画像はコメディ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』の第2シリーズ第12話のラストに放送されたスケッチ『スパム』より。迷惑メールなどの「スパム」はここから取られている。

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©British Broadcasting Corporation

これに対する解答として無意識に流されぬように無意識への働きかけがあることを理解した上で改めて投票をする政党を考える、というものが考えられますが、しかし考えすぎても逆に細かな情報に囚われすぎて全体が見えなくなる、という研究結果も出ています。

experts who thought unconsciously were better at applying diagnostic information than experts who thought consciously or who decided immediately. The results are consistent with unconscious-thought theory.

つまり、考えても考えなくても勝手にバイアスがかかってしまう、ということです。ならばどうすればいいのでしょうか。考えるべきなのでしょうか、考えないべきなのでしょうか。あるいは自分の中でそれが正しいと判断ができればどちらでもいいのかもしれません。なぜなら私たちの誰も正しい判断ができないからこそ多数決による投票という制度を採用しているのですから。

REFERENCE:

Behavioral immune system – Wikipedia, the free encyclopedia

Behavioral immune system – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Behavioral_immune_system

ネガティブ・キャンペーン – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%B3

サブリミナル効果 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/サブリミナル効果

プロダクトプレイスメント – Wikipedia

スパム (モンティ・パイソン) – Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%A0_(%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%B3)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

Negativity bias – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Negativity_bias