私たちの暮らす社会では、言うまでもない前提として、『差別』はいけないことであり、『偏見』は持つべきものではない、とされています。しかし、これは前提である一方、あくまで努力目標にすぎないのかもしれません。なぜならこの社会では、それを表すかのように、いまだ多くの差別が蔓延しています。人種・性別・メンタリティ・出身・学歴……。

では、なぜそうした問題はなくならないのでしょうか。ある『連想テスト』が暴いたのは、『偏見』は人々の無意識にこそ根づいているということでした。

無意識をあぶり出す

ハーバード大学・ワシントン大学・バージニア大学の社会心理学者が、ある『連想テスト』を共同で開発しました。このテストは、言葉と言葉、言葉と画像を結びつけるという簡単な行為だけで、私たちの無意識に宿る『偏見』や『先入観』を暴いてしまうのです。

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さらに複雑化する。誤答を少なく、かつ素早く答えるよう努めなければならない。

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結果発表

あなたの傾向が示される。アンケートに答えると、

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ほかの回答者の傾向を見ることもできる。

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このテストを用いた研究の結果、開発者たちはある事実に行き当たりました。それは多くの者が、本人の意識にかかわらず『偏見』を持ち合わせているということでした。たとえば、同性愛や有色人種にはネガティブな単語が結びつき、「女性」には「科学」ではなく「文学」が結びつく……といったように、テストは思わぬ差別の存在を暴きだしてしまったのです。

では、テストを受けてみた方はいかがだったでしょうか。あなたの無意識に、悪しき『偏見』はありましたか?その無意識は、実はあなたの言動を支えているものではないでしょうか……。

これまでの対策

もっとも心理学者たちは、そうした無意識の『偏見』を取り除く方法をさまざま試してきました。

オックスフォード大学での研究では、通常は血圧を下げるために使われる薬『プロプラノロール』が、無意識の人種差別を軽減する可能性があると報告されています。しかし、その結果は偶然にすぎないともいわれており、確かなことはわかっていません。

『差別』の特効薬はまだない。

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一方、かつてバージニア大学では、人々の先入観を是正するアイデアのコンクールが行われました。これには多くの研究者が集まりましたが、たとえ偏見や先入観を軽減することができても、その効果は低く、また長持ちもしなかったといいます。

脳と睡眠

このような流れのなか、『無意識の連想テスト』の開発者のひとり、神経科学・心理学者のケン・パラー氏は、睡眠を利用して偏見を是正することはできないかと考えました。

まず彼は、40名の被験者がそれぞれどのような偏見を抱いているか、事前に『連想テスト』で確認することにしました。そのあと、全員に対して『アンチ・バイアス・トレーニング』を受けてもらったのです。これは、たとえば有色人種にはポジティブな言葉、「女性」には「科学」を結びつけたものを見せるというかたちで行われました。

ポイントは、トレーニング中に被験者がある『音』を聴いていたことです。言葉や画像の組み合わせには、それぞれ決まった『音』が設定されていました。被験者たちは、トレーニングのあとに90分間の睡眠を取っています。だれもが眠りに落ちたあと、ケン氏らはこっそり、さきほどの『音』を鳴らしました。もちろん本人たちには悟られないように……。

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目覚めた被験者たちは、最初と同様に『連想テスト』を受けました。すると、彼らの偏見や先入観はそれ以前に比べて最大50%ほど軽減されていたのです。

ケン氏は「脳の働きを考えれば、これは驚くべきことではない」といいます。眠っているあいだ、脳はトレーニングの内容を復習し、自らに取り込む作業をしているのです。しかし、この実験には落とし穴がありました。なぜなら人間の脳は、学びたいと思ったことだけを保持するものであって、気に入らない情報はブロックされてしまうからです。

ケン・パラー氏

「この方法は協調性のある者にのみ機能するだろう」

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パラー氏によれば、この方法による無意識の『偏見』の改善は、最大で約1週間つづいたといいます。この数字は、決して成功とは言いがたいように聞こえるかもしれません。しかし、これは確かに大きな進歩だといえるでしょう。なぜなら、これまで行われてきた取り組みの効果は、数時間、長くて1~2日しか発揮されなかったのです。

無意識を鍛える

無意識の『偏見』は、それがあまりに深いところに根ざしているがゆえに、是正したり置き換えることが困難なのだといえるでしょう。しかし、この実験結果でもっとも重要なのは、おそらく効果の持続性ではなく、むしろ私たちが自らの無意識を鍛えうる可能性にこそあるはずです。つまり人々は、それぞれが本当に望むならば、自らの『偏見』を捨て去ることができるかもしれないのです。

もっとも、それは決して簡単なことではありません。かつての研究で、4~5歳の子どもが『偏見』をもつことが確認されたように、人々の先入観や偏見は非常に早い段階で形成されてしまうのです。たとえば私たちは、赤ちゃんだった頃から大人になるまでに、一体どれだけの先入観や偏見にさらされてきたでしょうか?

環境が人をつくる。

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また、『連想テスト』の開発をサポートした、ワシントン大学のアンソニー・グリーンワルド氏は、長年にわたって自分自身の無意識をテストしつづけてきました。しかしアンソニー氏は、自らの無意識の『偏見』が変わらず維持されつづけていることを明かしています。それでも彼は「自分が偏見をもっていることを好きになれない」というのです。

ケン・パラー氏は、一連の研究がまだ準備段階にあることを強調しており、その正確性のためには、より多くの人がテストを受ける必要があるといいます。彼は「テストの結果が変わることが、現実のふるまいを変えることを意味するのかどうか、私たちにはまだわからない」とも述べており、『偏見』を是正するまでの道のりはまだ先が長そうです。

もしも無意識の『偏見』で傷つけあっていたとしたら……。

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もっとも、仮に自分の『偏見』を取り除くことができなかったとしても、そのこと自体は否定すべきことではなく、また自身を責めるべきことでもないでしょう。それは環境や文化が生み出したものであり、必ずしも自分自身の『悪』を示しているわけではないはずです。とはいえ、無意識だからしかたない、といって諦めるべきでもないのですが……。

自分のなかに無意識の『偏見』があって、知らぬ間に他人を差別していたかもしれない。日ごろ、社会の前提としてそのことを憎んできた人こそ、その可能性を認めづらいところがあるでしょう。しかし、その無意識の『偏見』をいちど理解してしまえば、もはやそれは無意識のものではありません。いかにコントロールするのか、いかに付き合いつづけていくのか……。そう思考することは、たとえば睡眠中になんとかしてしまおうとするよりも、きっとはるかに理性的な営みに違いありません。

REFERENCE:

So You Flunked A Racism Test. Now What?