今や聴く機会もなくなってしまいましたが『笑っていいとも』でタモリが「髪切った?」とよく訊いていました。あれは話すことがない時の常套句だったらしいですが、ともあれ、そういった細かな変化に気付く人と気付かない人がいます。一般的に、このような細かな変化に気付く人はマメで気配りの利く人として人に好かれやすいです。

さて、この変化に気付きやすい人と気付きにくい人の間にはどのような差があるのでしょうか。ワシントン大学の研究により、見慣れた者と新しい者を見分ける脳のネットワークが特定されました。

washingtonuniv

ワシントン大学

『ワシントン』というが、場所はワシントン州にもワシントンD.C.にもなく、ミズーリ州にある。

image by

ワシントン大学 (セントルイス) – Wikipedia

Now, new research from Washington University in St. Louis has identified a novel learning and memory brain network that processes incoming information based on whether it’s something we’ve experienced previously or is deemed to be altogether new and unknown, helping us recognize, for instance, whether the face before us is that of a familiar friend or a complete stranger.

PMN

そのネットワークは左半球の頭頂皮質と楔前部、角回の三つの領域から見つかりました。研究者はこのネットワークにParietal Memory Network(PMN)と名付けました。研究者はPMIを今までに研究に使用された膨大なfMRI画像を観察することで発見したようです。

PMNの挙動

PMNは人であれ物であれ、見慣れたものを見た時に強い反応を示します。対象が慣れ親しんだものであればあるほどPMNが強く活動し、逆に初めて見たものではPMNは活動しません

PMNの特徴

PMNは他の脳の部位と違い、少々特殊な活動をします。たとえば、たくさんの単語を覚える時とたくさんの人の顔を覚える時、この二つの作業は非常に似通ったものに思えますが、その時使われている脳の領域はそれぞれ違うものになっています。しかしそれに対してPMNは単語であれ人の顔であれ、あらゆる『見慣れたもの』に対して反応を起こします。PMNは『知っているもの』『知らないもの』という一般的な記憶の認識の根幹に関わる部分にあるわけです。

PMNを発見した研究室は以前にもDefault Mode Network(DMN)と呼ばれる何もしていない時に活動する脳のネットワークを発見しており、PMNとDMNの領域は一部重なっているようなのですが、恐らくPMNとDMNとの関わりはないであろう、と述べています。

DMN
DMNとは人が『ぼんやり』している時に働く脳のネットワークを指す。人が何もしていない時、脳も何もしていないように思えるかもしれないが、きちんとその時にも脳は絶えず働き無意識のうちに内省のようなことをおこなっている。これをおこなうことで他者への理解を深めたり情報の整理をおこなっているとされている。眠っている時とDMNが働いている『ぼーっ』としている時とは別のものなので、『ぼーっ』とする時間は意外にも必要なことがDMNの発見により明らかになった。

研究者はPMNの示す一般性から教育やアルツハイマー病の研究、あるいは記憶力の向上などに役立てる研究を進める予定です。

PMN=好感度?

もう少し詳しくPMNについて考えみてようと思います。

PMNは知っているものと知らないものを見分ける脳のネットワーク、とは言っていますが、記憶といえば既に海馬が長期記憶を保存する場所として知られています。だとしたらPMNそのものに『知っている』という情報が含まれているというより、PMNは見たもの、触れたものなどが海馬などに保存された記憶と合致した時に『これは記憶にありますよ』と脳の他の領域に送る記憶の認識を送る経路であると考えた方が良さそうです。

ではなぜ『知っている』という情報を脳の様々な領域に送る必要があるのでしょう。なぜ、見慣れたものであればあるほどPMNは強く反応するのでしょう。

理由はわかりませんが、非常に似通った心理学的な現象があります。

単純接触効果

動画配信サイトや音楽配信サービスが豊富にある現代の中高生にはあまり馴染みにない体験かもしれませんが、少ないおこずかいで買ったCDが全然好みではなかった時など、まぁそれでもせっかく買ったのだから、と仕方なく何度も聴いているうちに段々と好きになって「これはスルメCDだ!」と絶賛するようになるという体験をした成人の方も多いと思われます。

granpa image by

Getty Images

こういった『何度も繰り返し触れているうちにだんだんと好感を抱くようになる』という現象は心理学で単純接触効果と呼ばれています。

この『何度も繰り返し触れているうちにだんだんと好感を抱くようになる』という単純接触効果と『見慣れたものであればあるほど強く活動する』というPMNの挙動は奇妙なほどに一致します。おまけに単純接触効果は図形や、漢字、衣服、味やにおいなど様々なもので起こることが確認されており、その点でもPMNの一般性と非常によく似通います。このことから簡単に決めることは危険なことかもしれませんが、PMNの挙動は何かしら人の好感度に関わりがある、と推測することはさほど突飛な発想ではないでしょう。

PMNの今後

この推論をたしかめる、というわけではありませんが、この推論を基にPMNのさらなる実験を考えてみると人間の認識に関して様々なことがわかる可能性が見えてきます。

まず同程度に見慣れていて好きな物と嫌いな物の二種類の物を見せてみるという実験が思い浮かびます。好きな物と嫌いな物でPMNの活動、あるいは経路などがどのように変わるのかがわかれば『好き』『嫌い』という感情が脳を観察するだけで見えるようになるかもしれません。

実験が困難なため現実に実行するのは難しいでしょうが『一目惚れ』の瞬間の脳を観察するのも面白そうです。この時、PMNが活発に活動したとすればPMNは好感度と強い影響があることがわかるでしょうし、あるいは卵が先か鶏が先かという話になりますが好感度は『見慣れたものとの類似度』によって成り立っている、という証拠に成り得るかもしれません。

研究者も述べていたことではありますが、アルツハイマー病の患者のPMNを観察するのは非常に有用なものとなるでしょう。アルツハイマー病の患者は重度であれば、親しい人であっても誰なのかわからなくなることがありますし、目の前にしている相手を違う人と間違えるということがよくあります。この時にPMNがどのように活動しているかを見れば『思い出せない』という現象が脳のどの段階で起きているのかをかなり限定することが可能になり、アルツハイマー病の治療に大いに役立つこととなるでしょう。

PMNの今後の研究に期待が高まります。

REFERENCE:

Newly discovered brain network recognizes what’s new, what’s familiar | Newsroom | Washington University in St. Louis

Newly discovered brain network recognizes what’s new, what’s familiar | Newsroom | Washington University in St. Louis

http://news.wustl.edu/news/Pages/new-memory-brain-network-discovered.aspx

Strangers, not friends, light up this brain network – Futurity

http://www.futurity.org/brain-new-memory-980862/

場末P科病院の精神科医のblog

http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/27824447.html

単純接触効果 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%98%E7%B4%94%E6%8E%A5%E8%A7%A6%E5%8A%B9%E6%9E%9C

What is the Default Mode Network?

http://neurology.about.com/od/Radiology/fl/What-is-the-Default-Mode-Network.htm