国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

日本語に限らず、あらゆる言語には上手いと言われる文章と下手と言われる文章があります。上手い方がいいか下手な方がいいかと問われたら上手い方がいいに決まっているので、できるならば文章は上手くなりたいものです。

ただ、時たま『言葉なんて意味さえ通じればいい』という意見も見受けられます。たしかに、文学作品などのようなものは音韻のリズムや比喩の巧みさなどといった文章の巧拙が評価の要素になってくることもあるでしょうが、説明書や理系の教科書で遠回しな比喩を使われていても、わかりづらいだけで実用的なものにはならないでしょう。そのように考えれば、意味さえ通じればよい文章というのも数多く存在します。

しかし、世の中にはそんな意味さえも伝わらない『読みづらい文章』というものがあります。言葉というものは意味を伝えるために発達したものなので、意味が伝わらなければどうしようもありません。読みやすい方がいいか読みづらい方がいいかと問われたら読みやすい方がいいに決まっているので、できるならば文章は読みやすくありたいものです。

tumblr_lfan8d662v1qzjmzfo1_400

読みづらい文章

もはや読めない。

image by

captcha FAIL

ならば読みやすい文章と読みづらい文章の差はどこにあるのでしょうか。マサチューセッツ工科大学の研究によって、数多くの言語に通じる、読みづらい文章の法則が発見されました。

Now a new study of 37 languages by three MIT researchers has shown that most languages move toward “dependency length minimization” (DLM) in practice. That means language users have a global preference for more locally grouped dependent words, whenever possible.

英語にはdependency lengthという概念があります。日本語での訳が確認できなかったのですが、あえて訳すのならば『係り受け長』となるでしょうか。dependency lengthとは二つ以上の単語が関連して一つの意味をなす、イディオムなどの単語間の長さを指す言葉で、これが長い文章ほど読みづらいものとされています。

論文のプレスリリースに倣い、実例を見ていただこうと思います。以下に書かれた二つの英文の、どちらの方が読みやすい英文でしょう。

(1) “John threw out the old trash sitting in the kitchen.”
(2) “John threw the old trash sitting in the kitchen out.”

どちらも日本語で直訳すると『ジョンはキッチンにあった古いゴミを捨てた』という意味になってしまうので、違いを明確にするために単語ごと逐次訳してみましょう。以下のようになります。

(1) 「ジョン 投げ捨てた 古い ゴミ 中 キッチン」
(2) 「ジョン 投げた 古い ゴミ 中 キッチン 捨てた

やや原住民チックな表現となってしまいましたが、後者の文章は文章の最後までジョンはゴミを『投げた』のか『投げ捨てた』のか判別することができず、『投げた』という情報を『捨てた』という情報が出るまで覚えておかなければならないことがわかると思います。

この場合『throw…out』が『投げ捨てる』というイディオムで、『…』の部分がdependency lengthにあたります。前者の文章にはthrowとoutの間に一つも単語が含まれていないのに対して、後者は『the old trash sitting in the kitchen』と8ワードもの語が含まれています。たしかにdependency lengthが短い方が意味の通りやすい文章であるようです。dependency lengthを短くした文章を心がけるのは意味の通りやすい文章を書くにあたって必要な行為といえるでしょう。

iStock_000014396445_Small

外した時のためにoutを最後まで言わないのもアリかもしれない。

image by

Getty Images

少なくとも英語では、ですが。

研究者はこのdependency lengthを短くする傾向が全世界的に見られるものなのか、37ヶ国語にわたる文章のデータベースを利用して調査しました。結果、dependency lengthを短くする傾向は非常に多くの国で見られることがわかりました。他にも、文構造が入り組んでいてよくわからないと言われがちなドイツ語はdependency lengthが英国などに比べて長いことがわかっており、dependency lengthの長さが文章の読みやすさと強い関連を持っていることがうかがえます。

では日本は?

気になる日本のdependency lengthですが、日本語や韓国語やトルコ語などの動詞が文末に来る言語は長いdependency lengthを持っているという研究結果が出ています。

ならば日本語は読みづらい文章なのでしょうか。どうやらそういうわけではなさそうです。研究者はこの傾向に対して日本語や韓国語は格助詞などの単語同士の関係性を表す語が非常に豊富なためdependency lengthが長い欠点を補っているのだろう、と述べています。

ということは日本語ではdependency lengthを意識してもあまり文章の読みやすさは変わらないようです。少々期待はずれ感のある研究ですが、とはいえ、『道草を食う』という慣用句にあえてdependency lengthを入れてみようとすると『旅の途中で道草を食う』から『道草を旅の途中で食う』と、悠々自適なのかよほど金に困ったのかわからない文章になりかねないので、多少極端な例ではありましたが日本語でもdependency lengthを意識することは大事なことかもしれません。

REFERENCE:

How language gives your brain a break | MIT News

How language gives your brain a break | MIT News

https://newsoffice.mit.edu/2015/how-language-gives-your-brain-break-0803