果たしてこの研究がもたらすのは人類のさらなる繁栄か、それとも滅亡なのでしょうか。

フランス国立科学研究センターの研究チームがシベリアの永久凍土から発見された三万年前の巨大ウイルスを蘇らせる計画を発表しました。

Scientists say they will reanimate a 30,000-year-old giant virus unearthed in the frozen wastelands of Siberia

巨大ウイルスとは

巨大ウイルスと言われると一見なんだかすごそうな気もしますが、よくよく考えてみると大きかったからってだからどうなのだという気もします。人と同じくらいのサイズであったならそれは驚くべきことですが、所詮はナノやミクロの世界なのだからわざわざ大げさに巨大なんて言わなければいいのではないか、というような気もしますが、実際には大げさでもなんでもなく巨大ウイルスはウイルスの定義、ひいては生命の定義を覆しかねない特殊な存在です。

巨大ウイルスが如何に特殊な存在かを、ウイルスとよく混同される細菌との違いから見てみようと思います。

細菌とウイルス

まずは大きさの違いから。細菌と呼ばれる生物が大体1ミリの1000分の1、マイクロメートル(μm)サイズなのに対してウイルスは1ミリの100万分の1、ナノメートル(nm)程度のスケールでしかありません。また、大部分の生物がそうであるように細菌はDNAとそれを読み取りタンパク質へと変換するRNAの二つを持っていますが、ウイルスはDNAあるいはRNAの片方しか有していません。そして細菌は他の生物と同様に食物を摂取して代謝をおこない分裂を繰り返すことで繁殖をしますが、ウイルスは自分で栄養を摂取するということはなく、ただ他の生物に感染することで宿主の体がウイルスを自分の細胞と勘違いしてウイルスを増産することで増殖します

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全部宿主に作ってもらっている。

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生物の定義は様々ありますがよく挙げられるものとして『自己増殖能力(繁殖)』『エネルギー変換能力(代謝)』などがあります。ご飯を食べて子供を作る何かであれば生命というわけですね。となると、自分で栄養を摂取しないウイルスはその定義に当てはまりません。ならばウイルスは生物ではないと言っていいのでしょうか。しかしそれもなんとなく違和感が残ります。

このことは生物学者たちをひどく悩ませており、ウイルスが生物であるか非生物であるかは未だに結論が出ていません。

何かと巨大な巨大ウイルス

さて、そんなウイルスですが、巨大ウイルスは何が違うのでしょう。

まず、当たり前ですがサイズが違います。今回蘇らせる巨大ウイルス『Mollivirus sibericum』は600nmほど。これでもウイルスの中では超巨大な部類に入りますが、発見されている巨大ウイルスには1.5μmほどの大きさの種も存在します。大体、大腸菌と同じくらいの大きさです。

次に巨大ウイルスにはDNAとRNAの両方を持っている種が確認されています。おまけにタンパク質を『翻訳』する遺伝子を持っている種までもが存在します。遺伝子を『翻訳』するということはDNAをRNAに転写してそれをタンパク質に変えて、ということですから、宿主の体を騙すことなく自分の力で増殖することができる可能性を示しています。このように、巨大ウイルスは今までのウイルスの定義から外れ、より『生物』らしい特徴を示している存在なのです。

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だとするのなら巨大ウイルスは細菌と言ってもいいような気もするのですが、細菌が細胞を持っているのに対して巨大ウイルスは細胞がありません。細菌でもなくてウイルスでもないなら一体何なのだ、というわけで『巨大ウイルス』と細菌などと並び新たな存在として位置づけられたのでした。

蘇らせなくてもこのままだと同じ結果に

と、巨大ウイルスのことを知っていただいたところで改めて今回の計画を振り返ると、なんだか危ない予感がプンプンします。三万年もの間眠っていた細菌ともウイルスともつかない不思議な、生物といえるのかわからない不思議なものを蘇らせる……。研究者はこの巨大ウイルスに動物や人間への影響がないか調べてから蘇らせると言っているようですが、それでも不安は残ります。記者はこのようなシチュエーションを何度か映画のオープニングで見た記憶があります。何やらバイオハザード的なことが起きそうな予感がしますし、そういえば『ジュラシックパーク』も蚊が吸った血液から遺伝子を取り出し恐竜を蘇らせ、その結果あのような痛ましい惨劇が起きる話でした。

たとえそれが生命の定義に迫るものだとしてもそのような未知の何かを蘇らせるようなことはしなくてよいような気がするのですが、遅かれ早かれこの『何か』は目覚めてしまう可能性を秘めています。

Mollivirus sibericumが見つかった場所はシベリアの永久凍土ですが、実は永久凍土は地球温暖化の影響か今までに比べ、非常に早い速度で融けていることがわかっています。

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『永久』凍土とはいうが、永久凍土の定義は『2年以上連続して凍結した状態の土壌』を指すので当たり前だが表面の方は融解と氷結を繰り返している。

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研究者はこのことから環境破壊への警鐘を鳴らしています。永久凍土が融けることとなればMollivirus sibericumに限らず未知の太古の病原菌、そして絶滅させたはずの天然痘までもが永久凍土の中から再び人類に襲いかかる可能性を秘めています。天然痘といえば致死率4割を超えるといわれ、過去にイングランド女王や天皇をも死に至らしめた病です。1980年に根絶が宣言されていますが、まだ永久凍土の中には生きたまま凍りついた天然痘がいるかもしれないのです。

地球温暖化によって古代のウイルスが蘇るとは思いもしませんでした。地球温暖化は海面の水位が上昇することで大陸が沈没するというイメージばかりがありましたが、古代細菌の復活による人類の危機というシナリオもあるようです。

現在、確認されている巨大ウイルスは4種。私たちは巨大ウイルスについてまだ何も知らないといってもいいほどです。ならば巨大ウイルスが大量に蘇る前にその存在について詳しく知っておく必要があるでしょう。そのように考えると、今回の研究はいずれ迫り来る古代細菌と人類が戦うための予行演習といえるかもしれません。

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しかし、そうはいってもどうしても不安は残ります。天然痘も根絶の宣言がなされる直前の1978年に研究室から漏洩した天然痘により死亡者が出ています。古代の巨大ウイルスがやってくる前にちょっとしたミスで自滅、なんてことにはならないよう願いたいものです。

REFERENCE:

Siberian ‘soft virus’ could be just one ancient pathogen revived by climate change

Siberian ‘soft virus’ could be just one ancient pathogen revived by climate change

http://www.rawstory.com/2015/09/siberian-soft-virus-could-be-just-one-ancient-pathogen-revived-by-climate-change/

Scientists unearth ancient, giant virus from Siberia's frozen wasteland – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)

http://www.abc.net.au/news/2015-09-09/frankenvirus-emerges-from-siberia-permafrost/6760494

58.21世紀ウイルス学における新しい課題となった巨大ウイルス | 一般社団法人 予防衛生協会

http://www.primate.or.jp/serialization/58-21%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%B7%A8/

44.永久凍土内での3万年の眠りからさめた巨大ウイルス:ピソウイルス | 一般社団法人 予防衛生協会

http://www.primate.or.jp/serialization/zakki/44%EF%BC%8E%E6%B0%B8%E4%B9%85%E5%87%8D%E5%9C%9F%E5%86%85%E3%81%A7%E3%81%AE3%E4%B8%87%E5%B9%B4%E3%81%AE%E7%9C%A0%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%95%E3%82%81%E3%81%9F%E5%B7%A8%E5%A4%A7%E3%82%A6/

ウイルスとは

http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/topics/009virus/virus1.htm

RESEARCH:巨大ウイルスから見える新たな生物界の姿 緒方博之 | 季刊「生命誌」 | JT生命誌研究館

http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/084/research/1.html

永久凍土 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E4%B9%85%E5%87%8D%E5%9C%9F

天然痘 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E7%97%98

ウイルス – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

生物 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/生物