私たちがなにかを『美しい』と認識するとき、一体なにが基準になっているのでしょうか? それが個人の主観であることは、いうまでもありません。しかし、絵画や建築などを見る限り、ひとつの客観的基準があるようです。

黄金比とは、数学的に導き出された、いわば『美しさを定義するもの』といってよいでしょう。しかし、紀元前にはすでに用いられていたこの考え方が、実はまったくのデタラメではないか……という議論が巻き起こっています。

the widespread belief that the golden ratio is the natural blueprint for beauty is pseudo-scientific “hocus-pocus” and a “myth that refuses to go away”, according to leading mathematicians.

モナ・リザ

黄金比が使われているという。

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『人の美しさ』と黄金比の論争

「黄金比がでたらめではないか」という問題については、これまでにも議論がなされてきました。今回その問題が再燃したのは、米国有数の科学機関・スミソニアンが、4月上旬にワシントンで行われた“National Math Festival”(全国数学大会)で、黄金比についての議論を促したためです。

ランドルフ・マコン大学のイブ・トレンス教授は、スミソニアン側の主張を聞いて愕然とした、といいます。彼らの考え方が「黄金比は人間の身体にもみられる」というものだったからです。

イブ教授は、この考え方に激昂しました。彼女は、「これは黄金比に基づいていて完璧だ、そして人間の身体にも表れている……という発想は、最も愚かな考え方のひとつ。人間の身体には様々な比率と割合が存在するが、それらは黄金比ではない」と述べているのです。

イブ・トレンス教授

「まったくふざけたインチキ科学」とお怒りのご様子。

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黄金比とは

人間の身体に存在するかどうかはさておき、『黄金比』という比率は存在し、数学がその考え方の基本となっています。

古代ギリシアの数学者・エウクレイデス(ユークリッド)は、『ひとつの線分をふたつの等しくない線分に分けたとき、線分全体と長い部分の比が、長い部分と短い部分の比に等しくなれば、その線分は黄金比で分けられている』と定義しました。

たとえば長方形の場合

比率はおよそ1.618:1。

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Wikipedia

『美』と信仰

スタンフォード大学の数学者、キース・デブリン教授は、そもそも黄金比が美しさの基準になることにも疑問を投げかけています。彼によれば、「エウクレイデスは、黄金比が美的な質を持つとは主張していない」というのです。

実際、黄金比と『美しさ』についての考え方をまとめたのは、19世紀の心理学者グスタフ・フェヒナー氏です。彼は実験心理学的美学の立場から、人々が黄金比を好むことを統計的に示しました。しかし、その結果も賛否が分かれています。

そもそもキース教授は、黄金比に関する『神話』には懐疑的な立場を取っています。

たとえば、一般的にいわれる『人間の身体はヘソの位置で黄金比に分かれている』という説についても、彼は「近い数値ではあるが、少なからぬ違いが認められるので間違い」だと述べているのです。

キース・デブリン教授

「黄金比は無理数であるため、現実に存在するものを黄金比にあてはめることは、厳密には不可能」

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また彼は、『パルテノン神殿やピラミッドは黄金比に従っている』という説にも現在は反証が出ているといいます。いわく「黄金比だといわれるものは、宗教的な信仰の領域にある。信じる者はそれが真実だと主張するだろうが、それだけで事実だということにはならない」というわけです。

ギリシャ・パルテノン神殿

かつて中世では、黄金比は『神授比例法』と呼ばれ、神秘化されていた。

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『美しさ』と黄金比

しかし、形成外科医のスティーブン・マーコート博士は、キース教授らの意見に対立の立場を取っています。彼はいわゆる『美しさ』を分析することで、黄金比に基づいた『美容マスク』を開発した人物です。このマスクを利用すれば、美容手術やメイクがより確実性を増すといいます。

『美容マスク』

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©MBA – RF Mask

オードリー・ヘップバーンの顔に当ててみる

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Glamour Daze

しかし、スティーブン博士の思惑とは別のところで、いまや『黄金比』という言葉はそれ自体がひとり歩きをしています。

現在、エウクレイデスの定義とは異なった使われ方の例を見つけることは、さほど難しいことではありません。たとえば『メイクの黄金比率』という言葉が、必ずしも本来の『黄金比』と同じ意味であるとは限らないのです。しかも、もはやそんなことは問題ではなさそうです。

定規とシール。

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そのように考えると、もはや黄金比とは、本当に『美』の基準である必要はないのではないか、という気すらしてきます。たとえば「自分が美しくありたい」と思うとき、そのための拠り所として黄金比が、もっといえば『黄金比』という言葉が使われているとしたら?

そのとき「黄金比は人間の身体にはない、厳密には一致しない」という指摘は、『拠り所』としての黄金比を信じている人々に、一体どんな影響を与えるでしょうか。たとえば、信じるものの不安定さを突きつけられることになるのか、それとも一切の影響を受けないのか……。キース教授の「黄金比だといわれるものは、宗教的な信仰の領域にある」という言葉は、もしかすると真理を突いていたのかもしれません。

REFERENCE:

Mathematicians dispute claims that the ‘golden ratio’ is a natural blueprint for beauty

Mathematicians dispute claims that the ‘golden ratio’ is a natural blueprint for beauty

http://www.independent.co.uk/news/science/mathematicians-dispute-claims-that-the-golden-ratio-is-a-natural-blueprint-for-beauty-10204354.html

黄金比 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E9%87%91%E6%AF%94

黄金比:現代美術用語辞典|美術館・アート情報 artscape

http://artscape.jp/dictionary/modern/1198386_1637.html

黄金比 | 現代美術用語辞典ver.2.0

http://artscape.jp/artword/index.php/%E9%BB%84%E9%87%91%E6%AF%94

Puerto Rican model has ‘planet’s most perfect face’? We find out

http://www.latimes.com/nation/la-sh-joan-smalls-perfect-face-20140108-story.html

The Golden Ratio: Design’s Biggest Myth

http://www.fastcodesign.com/3044877/the-golden-ratio-designs-biggest-myth