人間が宇宙に憧れを抱きはじめてから、もう何年になるのでしょうか。かつてSF小説に書かれた宇宙への旅、ほかの惑星への移住といった『夢』が現実になる日が少しずつ近づいています。2024年、火星への移住者を4人乗せた宇宙船が発射されるのです。ただし、彼らが地球に帰ってくることはないのですが……。

The launch date is still a decade away but preparations are underway for the first human expedition to Mars. Here we explain about the mission, Mars spacecrafts and selecting volunteers to establish a colony on the planet

火星への片道切符

オランダの起業家バス・ランスドルプ氏の発案によるプロジェクト『Mars One』は、火星行きの宇宙船に地球からの移住者を載せ、そのまま永住させてしまうというプロジェクトです。移住希望者は全世界に募られ、応募者は厳しい審査を経て最終的に24人が選ばれる予定です。その24名は訓練ののち、男女2人ずつの4人1組で、2024年より隔年で火星に送られることになります。

これまで有人火星探査がなされていないのは、地球との往復と滞在に1年強から3年弱もの期間が必要であることと、それに伴う予算が大きな理由でした。そこで、火星への往路と滞在設備を用意してコストを大幅に抑えようというのが『Mars One』です。その条件ならば、今ある設備でも十分可能だとバス氏はいいます。

バス・ランスドルプ氏

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WIRED

とはいえ火星への移住には、初期投資だけで約60億ドルを必要とします。そこで資金調達の方法として提案されたのが、『Mars One』をリアリティTVとして放送することでした。移住者決定までの流れ、訓練や火星での生活の様子など、すべてをコンテンツとして発信して、スポンサーからの資金提供や寄付金、その他収益を得るそうです。

『テラスハウス』

共同生活の様子をショーにする例。

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©フジテレビ

『痛快!ビッグダディ』

ある大家族の様子をショーにする例。

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©テレビ朝日

移住者選抜戦

この荒唐無稽なプロジェクトには、すぐに熱狂的なリアクションがありました。2013年、火星への移住希望者募集に対して、140ヶ国以上から20万2586人もの応募があったのです。候補者は一次審査で1,058人に、続く2014年5月の二次審査では705人まで絞り込まれました。そして、先日(2月16日)発表された三次審査の結果、候補者はすでに残り100人になっているのです。

『Mars One』コミュニティサイト

候補者のプロフィールが公開されているほか、支援者同士で交流もできる。

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Mars One

候補者イーサン氏(22歳)

自己紹介ムービーも見られる。

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Mars One

次の審査では、火星永住の苦難に耐えられるかどうかが焦点になります。彼らは火星での生活のシミュレーションに参加し、チームでの活動の適合性を試されるのです。審査を担当するノルベルト・クラフト博士は、「優れた個人が集団で最良のプレイヤーだとは限らない。候補者の成長と、課題での連携作業を楽しみにしている。」と話しています。

地球上のシミュレーション施設(イメージ図)

候補者の学習と訓練のための場となる。

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Mars One

うまくいくのか移住計画

『Mars One』の今後の展開は以下の通りです。運営陣がリアリティTVにしたくなるのもわかるくらいの充実ぶり、全部実現すればまさに夢のような出来事だといえるでしょう。

◆2015年
農業や医療の技術や、住居および火星探査機の修理技術の習得のため、地球上の施設で訓練が開始されます。1度目は火星に似た地形の土地で行われ、2度目は北極などの遠隔地で実施される予定です。

◆2018年
1つめの通信衛星が打ち上げられます。火星の静止軌道(自転周期と一致。ここを移動する衛星は自転と並行して動く)に位置する予定で、地球と火星を常に通信できる状態にするほか、火星から写真やビデオを送ることもできるようになります。

通信衛星(イメージ)

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Mars One

◆2020年
1つめの火星探査機と、2つめの通信衛星が打ち上げられます。探査機は移住者が生活するにふさわしい場所を探して火星を走り回ります。2つ目の通信衛星は太陽の軌道付近に位置し、太陽が地球と火星の間にある場合も、安定した通信を保証するものです。

火星探査機(イメージ)

生活にふさわしい場所の条件は、土壌に水分が十分含まれており、平らで住居が建てられること、また太陽光発電のための採光が可能で、しかもソーラーパネルを置ける広さがあること。

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Mars One

◆2022〜2023年
2つめの火星探査機と、『居住ユニット』および『生活支援システム』2つずつが打ち上げられます。信号を受け取り、移住者の生活する場所に着陸すると、『居住ユニット』と『生活支援システム』は探査機によって組み立てられる予定です。

『居住ユニット』は膨張式の住居で、シャワーとキッチンが完備され、部屋にはコンセントもある。また『生活支援システム』は、発電のほか、500日につき1,500リットルの水と120キロの酸素を生成できる。大気から窒素を抽出して生活空間に注入したり、水の浄化や二酸化炭素の除去もしてくれる。

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Mars One

◆2024年〜2025年
最初の移住者4名が火星に移動します。同じころ、次に移住する4名のための『居住ユニット』と『生活支援システム』も火星へ向けて打ち上げられます。火星に到着した4名は、新生活の準備をしながら、数日をかけて新たな環境に適応しなければなりません。

どんどん増える予定。

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Mars One

これらの計画は、本当に『Mars One』の発表しているスケジュール通りに進んでいくのでしょうか……。そもそも資金を調達できるとは思えないという指摘の一方で、マサチューセッツ工科大学の研究者も現在の計画の実現性を疑問視しており、非常に危険だという見解を示しています。また『片道切符』という発想そのものにも、倫理的側面から批判が集まっています。

確かに、語られている内容はまさにSFそのものの派手さで、その割には予定の年号が今から近すぎる気はします。10年後に火星への移住者が出る……さすがにちょっと信じられません。

野口聡一氏、ディスカバリー号で宇宙へ。

10年前、2005年の出来事。

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Wikipedia

それでも、少なくない数の候補者が「もし死んでしまっても悔いはない。」といったことを口にするあたり、彼らにとっては命を賭けることすらデメリットではないのかもしれません。もう、候補者も運営陣も全員SF映画のテンションなんじゃないかと思えてきました。

『アルマゲドン』

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POPULARSCIENCE

開拓者精神と人身御供

『Mars One』発案者のバス・ランスドルプ氏はこう語っています。

「かつて北米への移住者を、ヨーロッパに残った人々は“変わり者”扱いしました。教育も医療も整っていない、住環境も良くない場所になぜ行くのか、と。しかし、彼らを止めることはできなかった。(中略)世界にはフロンティアを発見し、開拓し、定住したいと思う人々がいるのです。」

また、アリゾナ州立大学のローレンス・M・クラウス教授も「歴史的にも、多くの入植者や移住者たちは帰り道を考えず新世界へ旅立った。」と述べてこの計画を評価しています。

アメリカ大陸に上陸するコロンブス

決して幸福な出来事ばかりではなかった。

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Wikipedia

遠い昔、人間は生け贄を捧げながら神に祈ってきました。かつてアメリカ大陸では『太陽の不滅』のため、人間の心臓が神殿に捧げられたといいます。また、インカ帝国では生け贄がそれぞれの村から募集され、神への供物として一定の年齢まで大切に育てられていたようです。ただしその中には、生き延びて一般社会に戻った者もいるということです。

神話学者の高木敏雄氏は、「すべての水界と空中界と、まだ人類の勢力範囲になっていない陸界の一部分は神の領分」であり、人類社会の発展はこれらの圧迫であり神への侵害であると述べています。しかし、そのときに「人の生命または身体が犠牲にされることは、人類史上の現象として一般的」だというのです。

火星ははるか遠くにあり。

おそらくまだ『神の領分』。

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THE HUFFINGTON POST

『Mars One』の移住候補者たちは、自ら志願して『片道切符』を手に入れようとしています。しかし行ってしまえば地球には帰ってこられないばかりか、そもそも火星で生きていける保証もまだありません。その意味で、彼らは明らかに『自らの身体と生命を捧げて』います。

しかし、いわゆる生け贄や人柱と異なるように思われるのは、候補者も運営陣も、かつての開拓者たちと同じように、『片道切符』に祈りどころではない『希望』を見ていることでしょう。もしすべてが予定通り実現したら、2024年以降、人類はまったく新しい世界を切り開くことになるのかもしれません。

REFERENCE:

Mars One mission: a one-way trip to the red planet in 2024