握手。それは挨拶や親愛の感情を表す行動のひとつであり、かつては武器を持っていないことをお互いに示すために手を握り合ったともいわれています。最近は日本でも、しばしば握手の光景が見られるようになってきました。

しかし、とんでもない事実が明らかになりました。このたびの研究によると、なんと握手によって私たちの『情報』が相手に漏れ伝わっていたというのです。

according to a team of neurobiologists from Israel’s Weizmann Institute, the original handshake was all about smell.

右手でするのがマナー。

image by

Getty Images

握手と『におい』

イスラエルのワイツマン科学研究所によって行われた研究によると、握手は「においを嗅ぐため」に行われているのだといいます。それも、においを嗅ぐことで、手のひらから手のひらへと受け渡された化学物質の情報を判別しようとしているというのです。

約280名が参加した実験では、被験者の姿がこっそりと撮影されていました。はじめ、彼らはひとりずつ部屋で待たされています。研究者はそこにやって来ると、握手をするか、もしくは握手をしないまま再び部屋を出て行くのです。

驚くべきことに、部屋で待たされている時間の約20%を、被験者は「鼻に手を近づけたまま」過ごしたといいます。これは、その後に彼らが握手を求められたかどうかには関係のないことでした。

空気の動きを測定した結果、手が鼻に近いとき、普段より空気を2倍多く吸い込んでいることが判明。無意識に嗅いでいる……。

image by

eLIFE

さらに実験の終了後、同性と握手をした被験者は「鼻に右手を近づける時間」が倍増したといいます。奇妙なのは、異性と握手をした被験者は「左手」を鼻に近づけていたことでした。握手に対して、より安心する行動を選んでいる可能性があると研究者たちは推測しています。

握手すると、

image by

eLIFE

つい嗅いじゃう。

image by

eLIFE

しかし、本当に握手だけで情報は得られるのでしょうか? そこで、研究者たちは手術用手袋を用いて10人の被験者と握手をしました。すると手袋からは、人間の身体に分泌される化合物(化学シグナル)が3種類検出されたといいます。どうやら、握手によって私たちの『情報』が相手の手のひらに移っていくのは間違いないようです。

持っている化学シグナルは個人によって異なる

まるで指紋のよう。

image by

Getty Images

においと情報

ユトレヒト大学のガン・セミン教授によれば、私たちは化学シグナルをただ受け取っているのではなく、むしろ能動的に受け取りに行っているといいます。しかし、それは人の権力や健康状態などの情報を得るためではなく、人と親密になるための行動のようです。

実際に私たちは「におい」から化学シグナルを受け取り、影響を受けていました。たとえば、ある人が恐怖を感じてかいた汗のにおいを嗅ぐと、同様に恐怖を覚えることがあるといいます。また、女性の涙に含まれる化学シグナルは、男性の性的興奮を抑える効果があるようです。

image by

Getty Images

一方で私たちは、自らのパートナーを探す際に、その可能性を脇の下のにおいで判別しているといいます。たとえば遺伝的に相性がいいか、優れた遺伝子の持ち主か、子供をどれだけ産めそうか……そんな情報を化学シグナルから得ているというのです。また、女性は同性の『競争相手』のにおいにも敏感に反応するといいます。

全人類が変態?

握手も本来は、情報をめぐるこのようなやり取りのひとつだったのでしょう。ワイツマン科学研究所のノーム・ソーベル教授は「犬や猫とは違い、私たちにはお互いのにおいを嗅ぐという行為が社会的に許されていない。それでも情報を集めるために発明した方法が握手だと思う」と述べています。

また、研究を主導したイダン・フルミン博士も「西洋文化では親密な身体的接触は一般的ではない」といい、「握手は人に触れることで化学物質を受け取れる、基本的に唯一許された行為だ」と説明しています。もしかすると握手とは、「においを嗅げない」という抑圧のもとで、欲望がいびつに育って生まれたものだといえるのかもしれません……。

見ようによってはアダルト画像

image by

Getty Images

一方で、キスも本来は握手と同じ種類の行為だったと考えられています。キスはもともと、愛する人の頬のにおいを嗅ぐものであり、唇よりもむしろ鼻でするものとして伝わってきた可能性があるというのです。

ゆるやかに欲望が解き放たれてきたのかもしれない。

image by

Getty Images

言葉では伝えられない

もちろん、握手はいまや「におい」を嗅ぐための行為ではありません。ノーム教授も「力の強さや持続時間、人の姿勢によって変化する」と述べているように、握手とは、実に膨大な情報が人から人へ手渡されるものです。化学物質やそのにおいが伝わったところで、それが膨大な情報のひとつに過ぎないのもまた事実でしょう。

『キスの科学』を著したシェリル・キルシェンバウム氏は、「人類がよりよい言語を発明したことで、他者を認知するものとしての『におい』の必要性は失われてしまった。しかし、人々の絆を強くするための大切な手段として(キスは)残っている」といいます。おそらく、握手も同じような変遷をたどってきたといえるでしょう。

しかし単に手続きとして行われることも多い。

image by

Getty Images

人類の進化とともに本来の役割を終え、別の意味とともに形式は残った。握手という行為は、その典型例なのかもしれません。しかし、たとえ認知できなかったとしても、私たちは握手によって自分の情報を相手に開示しているのです。そう考えると、握手がかつて『武器を持っていないことをお互いに示す』ために行われ、現在では挨拶や新愛の感情を表す行為となっているのは自然なことといえるでしょう。

まぎれもない自分自身の、自分しか持っていない情報を相手に受け渡すことで、相手に対する『信頼』を証明する儀式……。たとえばそう考えると、単なる手続きの握手でさえ、少し感じ方が変わってくるような気がします。

REFERENCE:

What a Handshake Smells Like