
牛の体温やゲップで発電、これからは牛力発電の時代が来るかも
2015/4/1722:40『出先なのにスマホの充電切れてしまった』という時、どうしますか。一旦家に帰りますか、コンビニを探しますか、どこかコンセントが使えるお店へ行きますか。これからは、牛を探す時代が来るかもしれません。
現在、ヘルシンキのアールト大学のLiva Kallite、Netta Korhonen両氏が牛の体温から発電をするベスト、その名も『Cowolt』を作る計画を立てています。
In some strange future, recharging your phone might not mean reaching for an outlet, but for a cow. That’s if the “Cowolt” ever takes off: a conceptual vest for ruminants that transforms body heat into a battery charge.
要するに、牛の体温を使って発電をするというのがCowoltの意図のようです。そんなこと出来るのか、と思われるかもしれませんが、異なる金属に温度差を設けると電圧が発生するというゼーベック効果を利用した熱エネルギーを電気エネルギーに変えるという熱電発電というものが既に存在し、クリーンな発電法として現在注目を浴びています。

Cowoltイメージ図
Cowoltは実用的か
温度差を利用するからといって、別に牛を冷やしたりするわけではありません。牛の体温は約38℃、普通に暮らしていても外気と温度差が発生します。なので、牛はちょっとした掛け物をするだけです。むしろ寒いところにいたらちょっとした服をもらえるくらいかもしれません。
気になる実用性はというと最大効率で一頭の牛を利用して26時間で12V、1000mAhのバッテリーを充電出来る程度とのこと。日本での一般家庭の電子レンジが100V、15Aなので、本当に単純にエネルギーだけで計算すると26時間かけて電子レンジを30秒ほどしか動かせず、なんだかかなり頼りなく見えます。
しかしCowoltを普及させようとしている場所は日本のような先進国ではなく電気もないような発展途上国です。現在、世界には約十三億人ほどの人々が安定した電気の供給を受けることなく暮らしています。そういった人々のために電気を供給することがCowoltの目的です。一般的な単三充電池が1.2V、1900mAhなのでこれも本当に単純な計算になりますが、牛が二十頭いれば約1.3時間で単三充電池を二個充電できるわけです。単三充電池が二個あれば、懐中電灯を約6時間点け続けることができます。電気がない場所であれば、これはとても大きな変化でしょう。

ニッケル・水素蓄電池(単三)
一般家庭で利用される電子レンジを見ると500Wや600Wという表記がなされている。
上の記述では100V×15A=1500Wの消費電力となり600Wや500Wと比べると2倍以上の差があるように見えるが、実はこの500Wや600Wというのは消費電力ではなく定格高周波出力と呼ばれるレンジを温めるために使う電力を指す。何かのエネルギーを別のエネルギーに変換する際、必ずどこかでロスが起きる(電子レンジの場合、電気からマイクロ波を放出させる時、マイクロ波で水を温める時にロスが起きる)。そのため実際に必要な電力(つまり消費電力)は600Wよりも大きくなる。多くの電子レンジは最大1400W程度の消費電力になるが、本記事では東京電力が指定した1500Wを電子レンジの消費電力とした。

SHARP製 過熱水蒸気オーブンレンジRE-SS10B-R
1000W以上の定格高周波出力を持つレンジも存在する。
牛の発電はCowoltにとどまらない
牛を利用した発電は今回のCowoltに限りません。アルゼンチンでは既に牛のゲップから排出されるメタンガスを燃料として利用する技術が開発されています。牛が一日に胃から排出するメタンガスのエネルギーは冷蔵庫を24時間稼働させ続けるのに必要な電気量に匹敵するようです。
また、北海道の別海町では牛の排泄物からメタンガスを取り出し発電するバイオマス発電が2015年7月から開始される予定です。こちらは規模が大きいため、発展途上国での実現は現在は難しいかもしれませんが、計画では年間960万kWh、一般家庭の電力2700世帯分の電力を供給できるとのことで、牛のエネルギーを利用した発電方法は日本でも利用されるほど大きなものになりつつあります。

別海町バイオマス産業都市構想モデルイメージ
全世界の牛の飼育頭数は2011年の統計によると10億頭を超えています。これだけの牛の全てのエネルギーを利用すれば、どれだけのものになるか計り知れません。
ちなみに世界でもっとも飼育頭数の多い国はインドですが、現在、急速な経済成長に伴った深刻なエネルギー問題に悩まされています。インドで最も盛んな宗教であるヒンドゥー教にとって牛は最高神の一柱であるシヴァ神の乗り物として神聖視されています。もしインドで牛による発電が盛んになれば救いの光として牛が更に神聖な存在となるかもしれません。

インドのアイスクリーム
勘違いされがちだがインドでも牛乳は使うし昔から排泄物は固形燃料として利用されている。
ゼーベック効果 – Wikipedia
ゼーベック効果 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AF%E5%8A%B9%E6%9E%9C
世界の牛(飼養頭数、生産頭数、輸出頭数、輸入頭数の推移)
eneloop:充電式インテリアライト ENL-Y1S 商品概要 | エネループ/電池(三洋) | Panasonic
http://ctlg.panasonic.com/jp/sanyo-battery/sanyo-enl/ENL-Y1S.html
ニッケル水素電池&充電器 | Panasonic
スマートシティ:11万頭の牛がいる北海道の町に、排せつ物を利用したバイオガス発電 – スマートジャパン
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1405/21/news020.html
ウシの「げっぷ」を燃料に、アルゼンチンで新技術開発 – ロイター
http://jp.reuters.com/article/jpnewEnv/idJPTYE99K03720131021
ご契約アンペアの選び方|東京電力
http://www.tepco.co.jp/e-rates/individual/basic/ampere/ampere01-j.html
消費電力の見える化: 電子レンジによくある勘違い、「500W」「600W」は消費電力じゃないョ
http://electricity-visualization.blogspot.jp/2014/05/500w600w_30.html
電子レンジ – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8