政府の生命倫理専門調査会がヒト受精卵をゲノム編集技術で操作することについて、基礎研究に限って認める報告書をまとめと朝日新聞DIGITALが報じた。

政府の生命倫理専門調査会は22日、狙った遺伝子を改変できるゲノム編集技術でヒト受精卵を操作することについて、基礎研究に限って認める報告書をまとめた。

子宮内に戻さないことを条件に

ダウン症候群を始めとして、体からメラニン色素が産生されないアルビノ等、遺伝子の異常による病気は数多い。遺伝子操作によるアルビノの治療はラットでの実験で既に成功している。報告書は将来的にこのような先天的な遺伝性疾患や不妊治療の予防につながるような研究に道を開く内容であるという。ヒト受精卵への遺伝子操作の研究は基礎研究にとどまるもので、受精卵を再び子宮内に戻すこと(遺伝子操作した受精卵を妊娠すること)は認められていないという。

また、親の望んだ容姿や能力を持つ『デザイナーベビー』につながるような特定の才能を高めるといった研究については、倫理的な問題が残るとの指摘があり、詳しいことは定かではないが非認可、あるいは非推奨であるようだ。

中国、アメリカ、イギリスでも

ヒト受精卵における遺伝子編集の研究に対しての認可は世界各国で起き始めている。CRISPR/Cas9と呼ばれる新しい遺伝子編集技術が生まれて遺伝子編集が以前と比べて格段に容易になったことがその原因だろう。昨年の4月に中国が世界で初めてヒト受精卵の遺伝子編集を行ったことを皮切りに、アメリカ、イギリスでも日本と同じように受精卵を子宮内に戻さないことを条件にヒト受精卵での遺伝子編集研究が認められている。

遺伝子編集の『治療』は『良いこと』か?

この研究の先にあるのはその目的からして、遺伝子編集を施したヒトの誕生であることは間違いがない。イギリスでは中国の実験よりも少し先に、先天的なミトコンドリア病の遺伝を防ぐために、母親の卵子核と健康な女性の卵子核とを交換する治療法を認められている。この治療法によって生まれた子供は父親と母親と、ミトコンドリア遺伝子を提供する『母親』の三人の親を持つことになる。中国の実験もエイズウイルスに感染しにくくなるような遺伝子編集を行うものだった。

先天的な病やエイズなどの予防や治療のために医療技術が発展するのは一見すると『良いこと』のように思える。しかし、生まれてくる子供の同意もなしに、親が勝手に遺伝子の編集をしても良いものかという倫理的な問題は未だ解決されていない。『健康』に生まれてくることが常に『正しい』こととは限らない。少し話を広げるならば、遺伝子編集を加えた子は、遺伝子編集を加える前の子と同一人物であると言い切ることも難しい。

ヒト受精卵の遺伝子編集が果たして倫理的に『良いこと』なのか『悪いこと』なのかは、どちらであると一意に決めれるものではないだろう。だからこそ、こうした問題には合意の取れた慎重な足取りで進むことが重要なことのように思えるのだが、今回のように一つの国が踏み出したがゆえに、なし崩し的に他国もそれに続く、という状況は、少々恐ろしい。

しかし、ミトコンドリアの遺伝子を交換する技術を開発した、英ウェルカム・トラスト・ミトコンドリア研究センターのダグ・ターンブル所長は、承認の前後に「承認が遅れれば年齢的にそろそろ妊娠を諦めざるを得ない女性たちが苦しむだけだ。妊娠の機会を逃してしまう」と述べている。これはこれで、もっともな意見であるとは思う、が。

top image by Lego DNA/Michael Knowles/flickr

REFERENCE:

ヒト受精卵のゲノム編集、基礎研究は容認 政府調査会

ヒト受精卵のゲノム編集、基礎研究は容認 政府調査会

http://www.asahi.com/articles/ASJ4Q042YJ4PULBJ02H.html?iref=comtop_6_01

ヒト受精卵改変技術、科学界大揺れ 倫理議論追いつかず

http://digital.asahi.com/articles/ASH4T5QFYH4TULBJ007.html?rm=337

3人の親を持つ子供がイギリスで生まれる?

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/02/3-10.php