テロリズム
一定の政治目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義。また,それに基づく暴力の行使。テロ。

安穏な暮らしに突然入り込んでくる理不尽な暴力。日常は容赦なく破壊され、近しい人の命が唐突に奪われることもある……。私たちはその脅威を時々思い出しては、すぐに目をそらすかのように忘れていきます。

一方で忘れてはならないのは、その暴力を行使する者たちもまた、彼らなりの日常を送っているということです。もしかすると今朝、彼らは電車であなたの隣に座っていたかもしれません。

Prisoners expressing radical views are to be deprived of privileges such as visitors, and will be isolated so they cannot influence others. That is, at least, according to the Danish Government’s counter-terrorism package, which was passed in February 2015.

世界中で起きているテロの脅威に対して、いま各国政府は、より確実なテロ対策を求められています。

たとえばデンマーク政府は、「刑務所こそ、服役中の若者が『過激主義』に走る温床ではないか」という懸念の声を受けてか、『刑務所内で過激な思想を表明した囚人は、権利を剥奪され、他の者から隔離される』という内容を含むテロ対策法案を可決しました。

今年2月、デンマークで連続テロ事件が発生。容疑者は以前の服役を経て『過激化』したという。

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しかし、南デンマーク大学のリンダ・ケアー・ミンク氏は、この法案に懸念を抱いています。隔離された者がほかの受刑者より低い扱いを受け、ひとりで自身の考えを深めていくことは、『社会は不公平で、その力が自分に降りかかっている』という思考を強めかねない、というのです。

そもそもリンダ氏は、『過激化』という言葉には現在明らかな定義が存在しないといいます。では、なにをもって人は『過激』だと捉えるのでしょうか。そして、思考が『過激化』するとは一体どういうことでしょうか……。

『過激』というレッテル

デンマーク国際研究所のトビアス・ジェマーリ氏は、『過激化』という言葉のもともとの定義を『個人やグループが、社会に政治的・宗教的な変化をもたらすべく、暴力の使用を肯定する過程』であると述べています。しかし、現在『過激化』ないし『過激』という言葉は、こうした意味にとどまらず、より広い意味で使われているものです。

たとえば「考え方が過激」、「あの人は過激な人だ」などという時、そこにはっきりとした基準はありません。もし政治的な活動に参加しているというだけで『過激』だと判断するようなことがあれば、それはなにも考えていないのと同じことでしょう。

トビアス氏は「『過激』というレッテルを貼るのは簡単」だと述べています。しかし、それは物事を単純に説明することができる一方で、人のもっている思想や、その行動の根源にあるものへの理解を妨げるものです。

『キレる17歳』

日本では、2000年前後の少年犯罪の多発に対し、1981~1985年生まれの世代がこう呼ばれた。

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世代診断チャート

では、普通に暮らしていた若者が、なぜ社会をひっくり返そうと考え、暴力すら厭わなくなってしまうのでしょうか? 私たちは、比較的新しい歴史のなかにも、その事実を確認することができます。

早稲田大学大隈講堂前(1969年)

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1960~70年代、日本では活動家とよばれる学生たちを中心に、大学や政府に反発する学生運動が活発化しました。非常に大きな盛り上がりを見せたこの活動は、政治に関心の薄い学生も巻き込み、激しい熱を帯びたものになったのです。

しかし彼らは、大学や警察と対峙する際に暴力を用いるようになっていきます。1968年頃に各地で起きた全共闘運動では、学生が大学を封鎖するなど実力行使がまかり通り、武装した学生が機動隊と激突、死者が出るまでに状況が深刻化しました。

佐藤栄作首相への抗議デモ(1969年)

ヘルメット、ゲバ棒、火炎瓶。

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もちろんそれは、学生運動の参加者にとって『社会を良くするため』のものでした。実際に、世間が運動をそういうものとして受け止めた時期もあったようです。しかし、目的を共有していたはずの学生たちは、やがて路線の違いや覇権争いを原因として陰惨な闘争状態に陥っていきます内ゲバ

学生同士の激しいリンチ、警察官の殺害、無関係な市民を巻き込む事件……。大学のみならず、その暴力の恐怖は日本中に伝播したともいわれています。こうした変化から、学生運動に対する人々の支持は急落しました。

大義のもとに暴力や殺人を肯定した彼らは、まさに『過激化』した集団だといえるでしょう。内部抗争の多発には私怨すら含まれたといい、主義主張や思想とは関係のないところで『過激化』が進んだこともわかります。

重信房子被告(2000年の逮捕時)

学生運動ののち、日本赤軍の最高幹部として無差別殺人やテロ事件を繰り返した。のちに「世界を変えるといい気になっていた。大義のためなら何をしても良いという感覚に陥っていた」と語っている。

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2ちゃんNEWS 炎上中

もっとも当時、学生運動に参加した者の多くは活動家ではありませんでした。彼らは運動の『熱』に呑まれ、狂騒にただ身を投じただけで、実現したい理想や、暴力を肯定するほどの思想を持ちあわせてはいなかったでしょう。実際にそうした者たちは、学生運動が下火になるとともに活動から手を引き、いわゆる普通の生活に戻っています。しかし、残酷な闘争に巻き込まれていった『過激』な者たちは、大多数の日常から遠いところにいたわけではなかったのです。

暴力の予感

たとえば風刺画を描いた漫画家たちが突然殺され、人々が拉致され、要求が通らないと殺害される。『過激化』した集団は、いまも私たちの日常から遠いところにいるわけではありません。彼らは主義主張のために暴力を振るい、しかもその様子は世界中に発信されています。そうした行動に賛同する者がどこにいるかわからない、ということも忘れてはならないでしょう。

シャルリー・エブド襲撃事件

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朝日新聞DIGITAL

トビアス・ジェマーリ氏によると、『過激化』とは「ある主義主張のために暴力を用いる、もしくはその準備をすること」です。この考え方に則るかぎり、実際の暴力を行使せずにあくまで主張にとどまれば、内容がいかに暴力的でも『過激化』にはなりません。しかし、この定義づけには疑問が残ります。

ひとことに『暴力』とはいえ、実際に本人の身体や生命に危害が及ぶものもあれば、きわめて強い言葉で本人が否定されるものもあります。また、その範囲が個人ではなく国家や民族といったコミュニティに広がることも珍しくありません。いまはまだ物理的な暴力が振るわれていなかったとしても、その主義主張を貫くことは、いずれ物理的な暴力につながるはずです。

ヘイトスピーチ(2013年2月)

「在日特権を許さない市民の会」等によるデモ行進。

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NPO法人 多民族共生人権教育センター

したがって、より正確に『過激化』を定義し直すならば、それは「ある主義主張のために別の人間を排斥する、あるいはその準備をすること」になります。しかし、個人やコミュニティに対して負の感情や思考が芽生えることは、誰にでもあることです。たとえば「なんとなく気に食わない」を貫こうとすれば、それはどこかで暴力に転ずるかもしれません。本当に重要なのは、そこで排斥に向かわず、相手や自分の感情や思考に向き合うこと、のはずですが……。

いじめ

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「朝まで生テレビ!」

激論という名のケンカも起きる。

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©テレビ朝日

ある目的のために、どこかで暴力が肯定されている。その動きに抵抗するとき、私たちにはヘルメットとゲバ棒を持ち出すという手段はありません。むしろ、決して武器を持たず、暴力に身を投じないという意志や、抵抗としての暴力すら肯定せずに主義主張を貫くこと、そのときに別の誰かを排斥しないことが求められることでしょう。

しかし、それはとても難しいことです。かつての私たちは、『時代の熱』という曖昧なものにうかされたまま、暴力を肯定する流れに大勢で乗ってしまいました。それどころか個人レベルでいえば、いまも私たちは負の感情に流されたまま、小さな暴力を肯定してはいないでしょうか。そして、それが人間にもともと備わっているものだとしたら……。暴力に向かっていく『過激さ』を、私たちが否定することはできないのかもしれません。

REFERENCE:

We Don’t Know How to Stop Radicalization

We Don’t Know How to Stop Radicalization

http://www.realclearscience.com/articles/2015/05/13/we_dont_know_how_to_stop_radicalization_109221.html

テロリズム(テロリズム)とは – コトバンク

http://kotobank.jp/word/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0-102010

【デンマーク連続テロ】テロ対策強化に9億7千万クローネ – 産経ニュース

http://www.sankei.com/world/news/150220/wor1502200005-n1.html

時事ドットコム:テロ対策見直し迫られる=刑務所での過激化課題-デンマーク銃撃事件1週間

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201502/2015022000473

キレる17歳 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/キレる17歳

日本の学生運動 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/日本の学生運動

あさま山荘事件 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/あさま山荘事件

全学共闘会議 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/全学共闘会議

【日本赤軍】「世界変えるといい気になっていた。大義のためなら何してもいい感覚だった」…最高幹部・重信房子被告インタビュー

http://realjapan.seesaa.net/article/122467858.html