万有引力、微分積分といった現代科学に広く使われる偉大な功績を残したとして広く知られるニュートンですが、彼は後年ひどい精神障害に近い症状に悩まされていたことはあまり知られていません。やはり天才と呼ばれる人にも苦労の多い時期はあるものなのだなあ、と言いたいところですが、天才と呼ばれる人々は私たちのような凡才よりもよほど苦労の多い人、かもしれません。

英国はキングス・カレッジ・ロンドンの研究者らが神経質さと創造性の関連性を説明する新説を発表しました。

In a Trends in Cognitive Sciences Opinion paper published August 27, psychologists present a new theory for why neurotic unhappiness and creativity go hand-in-hand.

創造性豊かな人は神経質、という気もする、けど

神経質、と一言に言っても色々な種類の人々がいます。心配症であったり、物の配置が気になったり、小さな騒音が気になったり、と。心理学的な意味で使われる時は他にも頑固であるとか律儀であるとか内向的である、孤独を感じやすい、などといった特徴を備えた人が神経質であるといわれます。

こういった人々はうつ病などの精神疾患に罹りやすいことが知られていますが、非常に創造力の豊かな人であることも知られています。以前、本サイトでも雑音が気になりすぎる人と創造性に関しての記事を掲載しています。それに、なんとなく何かを創造することで生活をしているいわゆるクリエイターと呼ばれる方々は、記者の知る限りではどちらかというと神経質な人が多いような気がします。

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アイディアが出ないし家族がうるさい……。

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しかしそれはどうしてなのでしょう。なぜ神経質な人は創造力豊かなのでしょう。神経質な人の脳はどのように活動し、それを創造力へと結びつけているのでしょう。

研究者の閃き

今回の研究論文の筆頭著者、アダム・パーキンス博士はこのことに非常に頭を悩ませていました。疑問は他にもありました。1970年代には恐怖に対しての感受性の強さが神経質さと関係があることがわかっていました。しかし、神経質な人々は『自分が恐怖に全くさらされていない時』でさえ幸福度は神経質でない人に比べ低いものでした。感受するべき恐怖がない時に恐怖を感じて神経質になるのはあまりに不思議な話です。

これらの疑問を解決したのはパーキンス博士がヨーク大学で白昼夢時の神経の働きについての研究をおこなっていた、そしてのちに今回の論文の共同著者となるジョナサン・スモールウッド博士の講義を聞いていた時でした。

スモールウッド博士は講義の中で自分の論文についての発表をしました。スモールウッド博士の研究はネガティブ思考の強い人は前頭前皮質内側部と言われる脳の部位が、体を休めている時でも活発に動いているというものでした。奇しくも前頭前皮質内側部は『恐怖』に関わる脳の部位でした。パーキンス博士はこの講座を聞いて『神経質な人は頭の中で(意識的にせよ無意識的にせよ)自ら恐怖を想像し、生み出しているのだ』と考えました。

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最近どうもみんなが私を笑っている気がする。

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パーキンス博士はさらなる実験によって前頭前皮質内側部が活発な人は扁桃体の働きによって一種のパニック状態に陥りやすく『自分の中で生み出される思考』を過剰におこなってしまうことを突き止めました。

Self-generated thought

このような自分の中で生み出される思考(Self-generated thought:SGT)は得てして人を惨めな気分にさせます。SGTを過剰におこなう人はありもしない問題にいつも頭を悩ませることとなるのですから。しかし、それは逆に同時にある問題に対して深い洞察をし、精度の高い結果の予測を立てる能力を有していることを意味します。パーキンス博士はこのことから神経質な性質も創作的な思考も、同じ前頭前皮質内側部の過剰な働きによるものだという仮説を立てたのです。

上手く創作的能力だけを上げられるか

さて、ならば上手い具合にうつ的な思考をせずに創作的な思考だけをすることはできないのでしょうか。前頭前皮質内側部はデフォルトモードネットワークと呼ばれる起きていながら何もしていない時(まさにスモールウッド博士が研究をしていた白昼夢を見ているような時)に活動する脳のネットワークを構成している部位の一つです。デフォルトモードネットワークが働いている時は内省などをしている時と言われておりうつ病の患者はこのデフォルトモードネットワークが過剰に働いていることがわかっています。デフォルトモードネットワークは内省以外にも睡眠とはまた違う記憶の整理整頓をおこなっていると言われています。

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ぼーっとしているように見えても脳はきちんと働いている。

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何か新しいものを生み出すことは何もない所から突然何かを生み出すわけではなく、様々な経験が無意識のうちに整理されてある時に形になるものです。ということは、もしかしたら神経質な人のSGTによる苦しみは、何かを創作するために必要な準備期間なのかもしれません。クリエイターは『産みの苦しみ』という言葉をよく口にしますが、大げさなわけでもなんでもなく、本当に非常に苦しいものなのかもしれません。

REFERENCE:

Perkins, Adam M., et al. “Thinking too much: self-generated thought as the engine of neuroticism.” Trends in Cognitive Sciences 19.9 (2015): 492-498.

Perkins, Adam M., et al. “Thinking too much: self-generated thought as the engine of neuroticism.” Trends in Cognitive Sciences 19.9 (2015): 492-498.

Is neuroticism fueled by overthinking? | EurekAlert! Science News

http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-08/cp-inf082015.php

Whitfield-Gabrieli, Susan, and Judith M. Ford. “Default mode network activity and connectivity in psychopathology.” Annual review of clinical psychology 8 (2012): 49-76.

アイザック・ニュートン – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3