愛する人がある日突然自分のもとを去っていった。この気持ちを、いったいどのように表現すればよいでしょうか? 身が引き裂かれるような、燃え上がるような気持ち、いや、心臓を思いきり掴まれているような……。

これまで『失恋』の辛さを、さまざまな作家や詩人たちが言葉を尽くして表現してきました。では、もはやそのメカニズムさえ語ることのできる現在、科学はどのように『失恋』を表現するのでしょうか。

槇原敬之『もう恋なんてしない』

聴きながら読んでもさして意味はないのであしからず。

失恋のメカニズム

The (sort-of) good news is that it’s not just you, there’s actually a scientific reason for why you make such terrible choices right after a breakup, and it’s all to do with the hormones that are coursing through your system during this emotional time.

たとえば失恋のあと、無駄だ逆効果だと知りながらメールを送ってしまうこと。お酒を飲まないと眠れなくなってしまうこと。そのくせ夜中に目を覚まして、散歩に出かけてしまうこと……。苦しみのなかで、ときに私たちは不可解としか思えない行動を取ることがあります(記者の例ではありません)

まずはその原因が、ほかでもない脳にあると知ることからはじめましょう。安心してください、私たちは現実に傷ついてしまったわけではありません。ただ、ほんのすこし調子が悪くなっただけなのです。

酔っ払ってからの電話、は本当に株を下げるので要注意(記者の例)。

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2010年、アメリカ・ラトガース大学で恐ろしい実験がおこなわれました。研究者たちは、失恋直後の男女15人を集めると、元恋人に強い未練があることを確認し、その写真を見せて脳の活動を測定したのです。いくらなんでも残酷すぎます

しかし、もっと残酷なのは実験結果のほうかもしれません。そのとき彼らの脳内では、ドーパミンが多量に分泌されていたのです。問題は、このドーパミンが恋愛の幸福感を味わっているときにも多くなるものだということでしょう。私たちに襲いかかる『失恋』の苦しみは、なんと『幸せ』を生み出すホルモンが生み出していたのです。その脳の働きは、まるで薬物中毒患者のそれにもよく似ていたといいます……。

報酬系

欲求が満たされたとき、満たされるとわかったときに活性化する神経系。報酬を期待して行動するときにも活性化する。

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ドーパミン

脳機能を活発化させて快感を生み出し、また意欲的な活動を導く神経伝達物質。

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だれかと恋に落ち、その人を魅力的に感じたとき、あなたの脳内ではドーパミンが分泌されています。「この人と一緒になりたい」、「相手をものにしたい」といった欲求のもと、『報酬』めがけて人は走り出すのです。上手くいったらしめたもので、愛する人の近くにいるときも、その脳内ではドーパミンが多量に分泌されています。こうして人は快感や幸福感を得ることができ、またその最中にも、脳はさらなるドーパミンを欲しているのです。もっと快感を、もっと幸せを、と……。

しかし、脳の働きとは関係なく、別れは突然に訪れるでしょう。けれどもドーパミンの分泌は止まりません。むしろその逆で、失われた『報酬』を再び手に入れるため、ドーパミンはより分泌されるのです。本人が感情を自覚するよりも先に、脳が復縁を求めはじめているといっていいかもしれません。まるで薬物の禁断症状のように脳は求めつづけ、私たちは苦しむことになります。

二度と戻らないとわかっているからこそ苦しい。

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悲しみの境界線

もっとも、『失恋』による苦しみのメカニズムこそ同じでも、その内実は男女によって差があるようです。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校での研究によって、男女が『失恋』の痛みをどのように受け止めるのか、その違いが明らかになりました。

ビンガムトン校とロンドン大学の研究チームは、96ヶ国5,705人を対象として、『失恋』の身体的・精神的苦痛を「1(なし)」から「10(耐えがたい)」までの10段階で評価するように求めました。その結果、精神面では男性が6.58、女性が6.84、身体面では男性が3.75、女性が4.21という値を示したのです(すべて平均値)どちらの面でも、女性がより大きな苦しみを味わっていることがわかりました。

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けれども、女性はその苦しみを完全に克服したのちに、より強いメンタルを獲得している傾向があるといいます。その一方で、男性は苦しみを完全に回復していない傾向が認められました。この結果について、研究リーダーであるクレイグ・モリス氏は、「その違いは生物学にある」といい、このように語っています。

私たちの先祖が暮らしていた時代、男女のひとときの出会いは、およそ10ヶ月間の妊娠期間と母親としての長い年月を、しばしば女性にもたらした。一方で男たちは、逢瀬のあと数分でその場を離れてしまい、まったくリスクを背負うことがなかった。

クレイグ氏はこうした経緯から、「男性に比べ、女性は関係にきちんと投資するように進化した」といいます。すなわち、そのハイリスクゆえにすぐれたパートナーを選ぶようになった、ということです。彼の分析に則していえば、女性はただ『失恋』が悲しいのではなく、相手との関係が失われたことが悲しいのだ、ということになるでしょう。

わかっていたはずが、気付いたときにはもう遅い。

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これに対して男性は、女性の関心をめぐって競争するように進化しました。クレイグ氏は「もしパートナーが去ったとしても、はじめはさほど苦しいものではない」と述べています。けれども彼は、男性にそのあと襲いかかる悲しみについて示唆しました。「長いあいだ、男性は深い喪失感をおぼえるだろう。なぜなら彼は、失ったものを埋めるためにふたたび競争をはじめなければならず……、そこで、かけがえのないものが戻らないことを悟るからだ」

来るべき再起のために

クレイグ氏によれば、私たちの多くは30歳までに平均3回の『別れ』を経験し、少なくともそのうち1回は、自分自身に大きな影響を与えるといいます。人はそのとき、ともすれば職を失い、学校の単位を諦めて、非常に自己破壊的なふるまいをはじめることもあるでしょう。

しかし、たとえどれだけ暴走し、かつての恋人の写真を見つめたとしても、人間の脳は『喪失』を乗り越えるために自らを修復するといわれています。ある研究によれば、その期間は平均して3ヶ月程度だということです。また、アメリカ・セントルイス大学のブライアン・バウトウェル氏は「脳は生まれつき、困難を切り抜けるメカニズムをもっている」と述べています。

まだ直してるところですからね!

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どんな痛みや苦しみも時間とともに消えていき、その先にはきっと光がある……。しかし、一度ぼろぼろに傷ついてしまったあと、新たな関係性を築くことに挑むのはとてもハードなことです。もしまた同じようなことになったら、二度とあんな苦痛を味わいたくはない、という気持ちがおこるのも仕方のないことでしょう。

しかし脳とは、たとえばいない恋人を求めてドーパミンを分泌しつづけるような、想像よりも素直な働きをするものです。もしもあなたが新たな関係を予感したときには、すでに脳は休み終えていて、次の幸せ、快感の準備ができているのかもしれません。そう考えると、あとは自分の意志次第だという気もしてきます。ならば、まずは立ち上がってみて、ひとつ脳を騙してみるというのも、そう悪くはないことでしょう。もっとも、軽率な行動は避けたほうが身のためですが……。

REFERENCE:

This is what happens to your brain when you get your heart broken

This is what happens to your brain when you get your heart broken

http://www.sciencealert.com/this-is-what-happens-to-your-brain-when-you-get-your-heart-broken

Women reported higher levels of both physical and emotional pain

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3187416/Breakups-hurt-women-short-term-men-NEVER-recover-researchers-claim.html

薬物の脳への作用と依存性薬物の特徴 超理解 ! シリーズ リチェッタ:ノバルティスファーマ株式会社

http://phnet.novartis.co.jp/ricetta/syakaihoken/15-01/

報酬系 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/報酬系

ドーパミン – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/ドーパミン

恋愛状態とは快感の伴う「強迫性神経症」である。「ヘレンフィッシャー / 人はなぜ恋に落ちるのか」

http://d.hatena.ne.jp/yositronik/20081201/p2