長らく会っていなかった親戚のおじさんに会ったりすると、お酒がすすみ、奢ってくれたりして楽しいものです。別れる時には記念撮影などして、名残り惜しいものでもあります。ところが、そんなおじさんとの写真が問題になってしまいました。一つ付け加えると、おじさんは23年前に亡くなっていたわけですが。

Gravedigger suspended for taking photo with rotting CORPSE he had just dug up from ground

死んでるおじさんと記念撮影

スペインのバレンシア州アリカンテ近くにある海沿いの街グアダマール・デル・セグーテ。その長閑な街でミイラ化した遺体と撮った写真がインターネット上で拡散し、物議を醸しています。
先日亡くなったおばさんと一緒に埋葬する為に、23年ぶりに掘り起こされたおじさん。そんなおじさんを見て、「記念撮影したい」と墓掘り人のセレスティーノ・レイナ(55)に持ちかけたのは、おじさんの甥っ子でした。甥っ子は写真を撮ると、それを姪に送り、姪は職場の同僚達に見せました。それから、SNSなどを通して拡散したのです。

審議員はこの写真を死者に対する冒涜として、セレスティーナを停職処分としました。姪は取材を受けると「どういう風におじがミイラ化したのかをみんなに見てもらいたかった。しかし、先祖に対する敬意の念は忘れていない。それに誰もキズつけていないではないか!」との事。いやいや、少なくとも墓掘り人のキャリアはキズつけたでしょう。

実際の写真

中央のおじさんを挟み、左が甥っ子、右がセレスティーノ・レイナ。遺体と聞くとおぞましい感じがするが、二人共穏やかに見える。いや、3人共。

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MILLOR

エンバーミング

火葬文化を持つ我々日本人にとっては、今回のように遺体を取り出すという行為自体が縁遠いものです。しかし、アメリカやヨーロッパなどの土層文化ではよくある話で、それを可能にしているのが『エンバーミング』という防腐処理技術です。基本的にこの技術は、埋葬された死者から伝染病を蔓延させない為に使用されています。また、1860年代の南北戦争にも大いに使用されました。というのも、交通手段に難があった当時において、死んだ兵士の腐敗を遅らせながら亡骸を家族に届ける事が出来たからです。さらにベトナム戦争でその技術は飛躍的に進歩しました。現在ではエンバーミングを施す『エンバーマー』と呼ばれる専門職もあります。

エンバーミング処理された毛沢東

レーンニン、ホー・チ・ミン、金正日などエンバーミング処置を受けた政治的著名人は多数いる。また、完全なエンバーミングではないが、マツケンサンバで有名な松平健氏の妻、松本友合さん(享年42歳)の遺体も処置を受け、告別式は健さんの公演が終了した19日後に執り行われた。

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BBC News

メメント・モリ

死者との記念撮影は歴史を振り返ると、必ずしも珍しいものではありません。
ビクトリア朝時代の英国では、『Post-mortem photography』あるいは『メメント・モリ』と呼ばれる死者との記念撮影がありました。当時、大切な人の絵を残すという方法ももちろんありましたが、それは絵描きを雇えるお金持ちにしか出来ない事でした。しかし、写真技術『ダゲレオタイプ』の発明により、民衆は一生に一度か二度は写真を撮ることが可能になりました。そこで被写体に選ばれたのが死者だったのです。メメント・モリの写真には棺などの死を連想するものが写されている事は少なく、被写体は様々に工夫が施され、あたかも生きているように撮られました。例えば、眠っているように撮られたり、生きている人々と一緒に撮られたり、はたまた恋人と撮られたり。この流行は写真技術の発達により、次第に見られなくなります。

当時、撮影された男性の死体

メメント・モリはラテン語で「自分がいつか死ぬことを決して忘れるな」という意味。写真の他、様々な芸術作品のモチーフとしても使われている。

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“Postmortem man” by This file is lacking author information. – From private collection. dustmite 02:03, 23 October 2007 (UTC). Licensed under Public domain via Wikimedia Commons –

エンバーミング技術やメメント・モリの事を知ると、人間が大切な人と出来るだけ長くいたいという普遍的な想いが伝わってきます。もちろん今回の事件は褒められたものではありませんが、おじさんからすれば、「まあまあ、そんなに騒ぎなさんな」といったところかもしれません。ところで、墓掘り人はクビにならないとのこと。良かったですね。