なんだか無性にイライラしていて、つい誰かに強く当たってしまった。あとから反省しても時すでに遅し、あなたのイライラはもう相手に伝染しているかもしれません。

たとえばそんなふうに、私たちの感情が行為にあらわれて、ほかの誰かに伝わることは簡単に想像できることでしょう。では、それが『無礼』な『ふるまい』だったとしたら? しかし研究の結果、そうした『無礼』も人から人へ感染していたことがわかりました。

What if rudeness was actually contagious? This would mean that rudeness may not only hurt those who experience or witness it, but also have secondary effects.

「やめろ、先端恐怖症なんだよ!」

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無礼は感染する

たとえば無礼なふるまい、行儀の悪い行いは、当人が思っている以上に周囲に影響を与えるものです。たとえば、かつての研究では、無礼な扱いを受けたり目撃した者は、その実績や創造性、さらには良心にまで悪影響をみせていることがわかっています。

しかし、それでもある程度、職場や学校といったコミュニティにおける無礼や不行儀は黙認されるものです。実害もなく、目立った暴言や暴力に発展しなければ、「あの人はああいう人だから」という理解のうちに、その態度は受け入れられるでしょう。しかし、『無礼』によって人々の能力や実績が脅かされるとわかっていて、そのまま放っておく理由は本来ないはずです。まして、それが本当に伝染するものならば……。

無礼の実験

この研究に取り組んだのは、フロリダ大学の院生であるトレヴァー・フォールク氏らです。7週間のあいだ、調査の対象者たちは、さまざまな相手と11回の交渉シミュレーションに臨みました。それぞれの交渉のあと、参加者は相手の礼儀について評価しています。そうすることで、ある人が無礼だと感じたことが、次のふるまいに影響するかどうかを見極めようとしたのです。

交渉

調査側は、参加者に『無礼』を演じることを要求しなかった。

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その結果、『無礼』なふるまいは見事に伝染していました。交渉の場で相手が無礼だと判断した者は、なんとその次の交渉で、逆に相手から無礼だと判断されていたのです。たとえば、好意や尊敬を抱いている相手の場合、その行動を無意識に真似てしまうケース(ミラーリング)がありますが、それはあくまでポジティブな感情に支えられているものです。では、なぜ無礼なふるまいは伝染してしまうのでしょうか?

『概念』が起動する

たとえば私たちが人と話すとき、顔を見たとき、仕事をしているとき……。日常のいろんな場面において、私たちの潜在意識のうちにある『概念』が起動することがあります。たとえば喜びや悲しみといった感情だけでなく、『権力』や『仕事』といった、例をあげるには数がありすぎるほどの『概念』が、私たちのなかには眠っているのです。

自分自身がまったく気づいていないうちに、潜在意識のなかで『概念』は起動し、まるでキーワードであるかのようにふるまいはじめます。このとき私たちの、出来事への認識は大きく変わることになるのです。たとえば幸せそうな顔を見たあと、私たちは『幸せ』を、きっと知覚しやすくなっていることでしょう。

もちろん、これは『無礼』という概念が起動した場合も同じです。トレヴァー氏いわく、人が無礼なふるまいを受けたり目撃したあと、彼らは身近な『無礼』に気づきやすくなり、ものごとを『無礼』だと解釈しやすくなり、ときには自分自身のふるまいすら『無礼』にしてしまうことがあるのだといいます。一度「この人失礼だな」と思ったが最後、自らも失礼になってしまうかもしれない……。じつに恐ろしい話です。

褒められても皮肉や侮辱に聞こえたりする。

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ここで指摘されているのは、じつは無礼な『ふるまい』が伝染しているのではなく、『無礼』という『認識』が伝染しているという事態です。「無礼だ」と認識した者が、周囲の『無礼』を受け取りやすくなり、ときには無意識のまま、無礼なふるまいをする側に転じてしまう。つまり、行為がさきにあって感情が生まれているのではなく、さきに『無礼』という認識があって行為が解釈され、またおこなわれているというわけです。

また特筆すべきは、そこに自分自身の意図がなく、すべては潜在意識の働きにすぎないということです。したがって、その認識が生まれること、また『無礼の伝染』を自覚することはできそうにありません。それゆえ、私たちがコントロールすることも不可能だといえるでしょう。

悪意? それとも無自覚?

そのままエスカレートすれば、『無礼』と『暴力』の境目がいつ崩れるかはわからない。

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暴力の感染に学ぶ

かつてアメリカでは、実際の『暴力』が伝染する可能性についての研究がおこなわれています。2012年にミシガン州立大学のエイプリル・セオリ氏らがおこなった研究によれば、殺人事件もまた、ランダムに発生するのではなく、あるパターンに従って広がっていくというのです。

調査対象として選ばれたのは、ニュージャージー州・ニューアークでした。その結果、ニューアークでは、子どもや高齢者といったグループの多い場所から貧困層やマイノリティの多い地域へと、殺人事件の起こるエリアが少しずつ移動していたのです。ここでエイプリル氏は、感染に必要なのは『感受性の高い者』『感染の原因』そして『拡散力』だと考えました。暴力を厭わない発想(原因)が、口コミやメディア(拡散力)を通じて、感受性の高い者たちに届く。殺人事件をはじめとした『暴力』は、そのように感染するというのです。

ギャングの関係する殺人事件の『感染』状況。復讐やドラッグ関係の事件も同じような動きをみせる。

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MICHIGAN STATE UNIVERSITY

『無礼』と『暴力』の感染方法に、ある一致を見出すのは難しいことではありません。エイプリル氏は『感受性』と表現していますが、やはり暴力も、その行為を無意識的にでも是とした者によっておこなわれるものです。「無礼だ」と感じた者が、周囲から『無礼』をピックアップし、やがて自ら再生産する。それと同じように、暴力の存在にさらされていた者が、やがて過敏になるうちに加害者となってしまう。もちろん、実際の行為に及ぶまでのハードルには大きな差があるはずです。しかし2つの『感染』は、じつはよく似た構造にあるといえるでしょう。

感染拡大を止めるために

WHO(世界保健機関)で、伝染病の予防・治療に長年取り組んできた、医師のゲリー・スラトキン氏は、アメリカでの銃犯罪が伝染病と同じパターンで広がっていることを指摘しました。彼は伝染病対策と同じ3つの方法を用いて、外部から地域に介入し、その拡大を防ぐことに成功しています。

ゲリー・スラトキン氏

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TED.com

・発生源を突き止めること
・感染の可能性がある者をコントロールすること
・環境そのものを変えること

しかし、これはあくまで外部から介入できる場合のことです。

もしもあなたが無礼な扱いを受けたなら、その相手もまた誰かに無礼な扱いを受けていたのかもしれません。関係をさかのぼれば、そこにはきっと『最初のひとり』がいるでしょう。しかし私たちには、その最初のひとりや、自らの置かれた環境に作用することはほぼできません。潜在意識を制御できない以上、自分自身という「感染の可能性がある者」をコントロールすることも難しそうです。

小さなコミュニティのなかで

どうすればいいのか……。

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こうした状況と実際の伝染病が決定的に異なるのは、その『感染』の詳細が、その外側からほとんど見えないことです。すなわち、それはコミュニティの内部で繰り返されているだけで、その範囲は拡大しておらず、ただ場所が変わっているだけだといってもよいでしょう。いわば、この伝染病ははじめから隔離されている、しかしそこに治療は用意されていない、というわけです。

ならば、まずはその実態を、きちんと見える場所に引きずり出さなければなりません。すると、発生源がどこで、誰が感染していて、コミュニティの状態はどうなのか、そしてどんな治療が可能なのかが見えてくるはずです。しかし、それまでの作業もまた困難をきわめます。どうか、無理はしないでください。自分ひとりではどうしようもないとき、これ以上耐えられそうにないときには、ひとまず逃げ出すことが最優先です。

REFERENCE:

You should really be nicer to your colleagues – rude behavior is contagious

You should really be nicer to your colleagues – rude behavior is contagious

http://theconversation.com/you-should-really-be-nicer-to-your-colleagues-rude-behavior-is-contagious-44795

CAN SCIENCE PREDICT GANG KILLINGS?

http://msutoday.msu.edu/news/2015/can-science-predict-gang-killings/

HOMICIDE SPREADS LIKE INFECTIOUS DISEASE

http://msutoday.msu.edu/news/2012/homicide-spreads-like-infectious-disease/

Gary Slutkin: Let’s treat violence like a contagious disease | TED Talk | TED.com

http://www.ted.com/talks/gary_slutkin_let_s_treat_violence_like_a_contagious_disease