一日に一時間以上の通話している男性は精液中の精子の濃度を低下していることがイスラエル工科大学の研究により明らかになった。このことから研究者は携帯電話から発せられる電波の危険性について語り、いわゆる『スマホ中毒』者へ警告を発している。

Research shows that sperm count can also be reduced by talking on a phone that is charging, or even keeping it close by on a bedside table at night.

電磁波が不妊の原因?

日本でも度々話題になっている精子の減少などによる不妊問題だが、日本だけではなく海外でも近年の精液の量や濃度などが低下していることが問題視されている。

その原因の一つとされているものとしてWi-Fiや携帯電話が挙げられる。携帯電話はここ20年の間に全世界的に急激に普及し今や私たちの生活になくてはならないものとなっているが、便利である反面、そこから発せられる電磁波の危険性を指摘する声も上がっている。

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Wi-Fiの周波数は電子レンジとほぼ同じか二倍

電磁波と一口に言っても様々な種類のものがあり、その性質は電磁波の周波数により大きく変わる。

私たちが今こうして物を見ることを可能にしている可視光も電磁波であり、リモコンの赤外線、レントゲンに使われるX線、放射能から発せられるガンマ線なども電磁波である。このように電磁波は周波数によって人の役に立つものにも害をなすものにも変わるのである。

では携帯電話のやWi-Fiから発せられる電磁波の周波数はというと、携帯電話が800MHzから2.0GHz、Wi-Fiが2.4GHzあるいは5GHz近辺となっている。これは電子レンジの2.45GHzと非常に近い数値である。

研究者によれば、この携帯電話の熱と電磁波が男性の精子を『調理』してしまうのだという。

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通話中に充電している人の半数以上に精子の異常

研究者は25歳から51歳までの男性106名の精液を採取し、それぞれの精液の量、精液中の精子の濃度などを調べ、WHOの基準に照らし合わせてそれらが通常か異常であるかを調べた。研究者は携帯電話での通話や充電が精子の質にどのような影響を与えるか調べるために被験者に「1日1時間以上通話するか」「通話中は充電しているか」「非使用時に男性器から50センチメートル以上離しているかどうか」を尋ね、それぞれのグループで精子の質に差があるか比較した。

結果、1日1時間以上通話する人や通話中に充電をする人はそうでない人たちに比べて精子の濃度が低く、精子の質が低い割合が高いことがわかった。特に通話中に充電をしているグループは3分の2もの割合で精子の濃度に異常が見られたという。

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電話をしている時は基地局から電波を受け取るだけではなく、携帯自身が電波を絶え間なく発する必要がある。電波は距離の二乗に反比例して減衰する。通話中は遠く離れた基地局が受け取れるほどの強い電波を私たちは至近距離で受けることになる。

研究をおこなったマーサ・ドリンフェルト教授は「精子の数が減少することは妊娠を難しくする。もしあなたが不妊に悩んでいるのだとしたら携帯電話を四六時中触っていることが原因かもしれない」と語り、イギリスのセントジョージ病院のゲディス・グルズィンスカス教授も男性のスマホ中毒を止めるよう訴えている。

この結果から、子供を作るよう考えている男性は充電中は携帯電話の電源を切り、男性器から少なくとも50cm離すべきであると研究者は結論づけている。

スマホやWi-Fiに限らず、私たちの生活を便利にしてくれるものはこれまで自然界に存在しなかった物を使うことが多いため、それに適応するようできていない私たちの体はそれ相応のリスクを負うことになる。今回の研究結果は自然な生き方から背く科学の過度な発展がいずれ人類自らを滅ぼしかねないという警鐘と言えるかもしれない。

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ってなんでやねん

まったくこのような世界の真実及び危機を報じない大手マスコミは一体何をしているのかね!利権に塗れた俗物どもめ!地球が泣いてるぞ!等々と言いたくなるかもしれないが、いやいや、少し待ってほしい。たしかに一見、電磁波が精子に影響を与えたように見えるが、実際に研究で示されているのは「携帯電話で通話を長くしている人に精子の濃度が低い人が多い」という相関関係であって「携帯電話で通話を長くしているから精子の濃度が低い」という因果関係ではない。

雨が降るからツバメを殺そう

「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」という古くから伝わる言葉がある。これは観天望気と呼ばれる自然現象や生物の行動の様子などから天気の変化を予測するものの一種である。『ツバメが低く飛ぶ』と『雨が降る』。一見、関連のない出来事のように思えるが、さすがというべきか、これにはある程度の科学的根拠があるとされている。

雨が降る前は空気の湿度が高くなる。湿度が高くなると、空を飛ぶ虫が水分を含んだ羽のせいで空を高く飛べなくなる。ゆえに虫を取って食べるツバメはエサを摂るために普段より低く空を飛ぶようになる。というのが『ツバメが低く飛ぶと雨が降る』の科学的根拠と言われている。このストーリーが真実であれば『ツバメが低く飛んでいたらその後に雨が降ることが多い』という相関は存在することがわかる。

さて、ではたとえばツバメを全て殺してツバメが低く飛ぶのをやめさせたら、雨は降らなくなるだろうか。当然ながら答えはNOだ。「ツバメが低く飛ぶから雨が降る」というわけではない。今回の研究の結果から「不妊治療のために携帯電話の電源を切ろう」と呼びかけるのはまさに雨が降らないようにとツバメを殺すのと同じような話である。少なくとも、この実験から因果関係があるとする根拠は見つけられない。

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今の人間の感覚からするとツバメを殺せば晴れる、なんてことはありえないとわかるが、昔の人々はもしかしたらこういった先後関係や相関関係から『縁起物』や『厄を呼ぶ』というような生き物を決めていたかもしれない。

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ただの運動不足が原因では

どちらかといえば、今回の研究結果から原因を探すのならば運動不足の方が説得力があるだろう。運動不足は血液の循環を滞らせる。ゆえに精子に栄養が行きづらくなり、運動不足は精子の質に悪影響を与える(この説は既に信頼性の高いものとされている)。デスクワーカーは運動不足になりがちである。一日に通話を多く利用する人はデスクワーカーが多い。ゆえに一日に通話を多く利用する人は精子の質が低いことが多い、という方が幾分納得のできる道筋であろう。あるいは座りっぱなしで熱がこもる、というのも原因として考えられる。精子はとても熱に弱いからだ。

もし本当に運動不足が原因だった場合、スマホの電源を消したら精子の質は低下は食い止められるだろうか。当然Noだ。

通話中に充電している人に精子の質が低い人が多い、という実験結果はこの仮説をさらに強固にするものだろう。充電しながら通話をする人のほとんどは座りっぱなしの仕事をしているはずだ。ちなみに言うのならばこの研究論文には充電していることが電磁波にどのような影響を与えるかの記載が一切ない。調べたところ充電中は電磁波が強く出る、ということはなさそうだったし、電磁波の(携帯電話が出せる程度の)強弱を考慮にいれるのならば最寄りの基地局からの距離も考慮に入れるべきである。

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たしかにWi-Fiの周波数は電子レンジに近いが、ワット数は1/10000程度。もしWi-Fiが使う0.1W程度の電気エネルギーが『全て』コップ一杯の水にぶつけられたとしたら二時間半くらいかけてやっと1℃上昇する程度。もちろん電磁波全てが水に向けられて熱として変換されるなんてことは起き得ない。ラップトップPCを膝に乗せて作業している時の排熱を気にした方がよほど建設的。

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今回の研究から『携帯電話で長く通話しているから精子の濃度が低い』という因果関係を導こうとしたら『携帯の電波が精子に悪影響を与える』という前提が必要になる。その前提を仮に受け入れた上で話を進めると『携帯電話で長く通話しているから精子の濃度が低い』ことから研究者が導いた結論は『携帯の電波が精子に悪影響を与える』なので、研究者の主張は『もし携帯の電波が精子に悪影響を与えるとしたら携帯の電波は精子に悪影響を与える』というトートロジー極まれる何を言ってるのかさっぱりわからないものということになる。

はっきり言ってこの研究は『電磁波』という目に見えない脅威を利用して注目を集めるためにでっち上げた研究とも呼べない代物としか言いようがない。

よくわからないものだから自分の目で判断を

しかしかと言って電磁波(マイクロ波)が人体に影響を与えないかというとそうと断言することはできない。Wi-Fiを起動させたラップトップPCを精子を入れたシャーレの上に4時間乗せたところ精子に損傷が見られたという研究結果は無視できないし(温度はエアコンで一定に保ったと言っているが熱のせいではないかと思わないでもないが)、何より国際ガン研究機関(IARC)が携帯電話電磁波の発ガン性に2B(ヒトに対して発ガン性があるかもしれない)の評価を与えていることは必ずしも悪影響がないとは言い切れない証左とも言える。

世間には電磁波の危険性、安全性を示す有益な研究がいくつも出ている。しかし、今回のような明らかに恐怖を煽るだけで何の意味もない研究も存在する。

火、雷、神、霊。私たちは『よくわからないもの』を恐怖するようにできている。それゆえ『よくわからないもの』に形を与え安心感を得ようとしてすぐさま「安全である」「危険である」と切り分けようとしてしまう。しかし『よくわからないもの』だからこそ「偉い人が言うのだから」と鵜呑みにせずに常に疑いの目を持って自分の目と頭で判断し「どのように使えば、どの程度ならば安全/危険か」を判断しなければならない、という警鐘がこの研究の真の結論と言えるだろう。

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まぁ、とはいえこっそり今日から胸ポケットにスマホを入れるようにするのも責められるようなことではないだろう。

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REFERENCE:

Zilberlicht, Ariel, et al. “Habits of cell phone usage and sperm quality–does it warrant attention?.” Reproductive biomedicine online 31.3 (2015): 421-426.

Zilberlicht, Ariel, et al. “Habits of cell phone usage and sperm quality–does it warrant attention?.” Reproductive biomedicine online 31.3 (2015): 421-426.

http://dx.doi.org/10.1016/j.rbmo.2015.06.006

総務省|テレコム競争政策ポータルサイト|各携帯電話事業者の通信方式と周波数帯について

http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/eidsystem/competition12_02.html

Wi-Fiの周波数帯は2.4GHzと5GHzのどちらがいいの? – いまさら聞けないAndroidのなぜ | マイナビニュース

http://news.mynavi.jp/articles/2014/02/21/android_why20/

Men who talk on their mobile phones ‘more likely to have lower sperm quality’ | Daily Mail Online

http://www.dailymail.co.uk/news/article-3457342/Men-talk-mobile-phones-hour-day-twice-likely-low-sperm-quality.html?ITO=1490&ns_mchannel=rss&ns_campaign=1490

Avendano, Conrado, et al. “Use of laptop computers connected to internet through Wi-Fi decreases human sperm motility and increases sperm DNA fragmentation.” Fertility and sterility 97.1 (2012): 39-45.

http://dx.doi.org/10.1016/j.fertnstert.2011.10.012