2015年4月21日、理化学研究所がスペースデブリを除去するために平均出力500kWの高強度レーザーを国際宇宙ステーションに搭載する計画を発表しました。

平均出力500kWのレーザーというのがどの程度の出力か想像がつきづらいと思いますので参考をあげますと、昨年末に実験が行われたアメリカのレーザー兵器『LaWS』の出力が30kWほど。出力だけでいえば16倍以上をほこります。

Laser Weapon System(LaWS)
アメリカ海軍によって開発されたレーザー兵器を搭載した防衛システム。2014年末の実験にて1.6km離れたドローンや小型ボートを一撃で破壊することに成功。従来のミサイルが一発ごとに数千ドルもの費用がかかるのに対してレーザーを利用するLaWSは一発のコストも50セント程度で非常に経済的であり、アメリカ海軍は2020年までに実戦配備をする計画を立てている。

Laser Weapon System (LaWS)

LaWSの実験動画

アメリカのレーザー兵器の16倍以上の出力と言われると少し不安を覚えますが、幸いなことに今回のレーザーは軍事用ではなくスペースデブリの除去用です。しかし、アメリカ海軍の兵器よりもはるかに高威力なレーザーで除去しなければならないスペースデブリとは一体なんなのでしょう。

スペースデブリ

スペースデブリは『宇宙ゴミ』とも呼ばれる、宇宙空間、とりわけ地球の衛星軌道上を漂う人工衛星やロケットの残骸といった人工物を指します。大きさはそれこそ廃棄された人工衛星から1cmにも満たない細かな部品まで大小様々で10cm以上のものなら約22,000、1~10cmの大きさのスペースデブリの数は500,000、それ以下のものであれば数千万個以上あると言われており、その総重量は約3,000トンにものぼります。

言ってしまえばスペースデブリの除去とは宇宙規模のゴミ問題といったところなのですが、スペースデブリの問題は地球のゴミ問題とは全く違う危険をはらんでいます。衛星軌道上に留まっているスペースデブリは月と同じように地球の周りを高速で移動しているからです。その速度は地表2,000km以下を回るスペースデブリであれば秒速7km近く。それほどの速さで動く物体はたとえ10cmであろうとスペースシャトルや人工衛星を破壊する威力を持っています。

KEWの標的実験

7gの合成樹脂を秒速7kmでアルミニウムのブロックにぶつけたレールガン等の運動エネルギー兵器の総称、Kinetic Energy Weapon(KEW)の実験画像。ブロックにぶつかった時に運動エネルギーの一部は熱エネルギーに変換され画像のようにアルミが蒸発し、えぐれたような形になる。

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Strategic Defense Initiative – Wikipedia, the free encyclopedia

映画『ゼロ・グラビティ』

スペースデブリが衝突したことによりスペースシャトルが破損することから物語が動き出す。

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©Warner Bros. Entertainment, Inc.

スペースデブリをこのまま放置すると将来的に衛星軌道上はスペースデブリがあふれ人工衛星やスペースシャトルが打ち出すのが困難になり、宇宙開発の大きな妨げとなります。スペースデブリの除去は宇宙開発に必須な課題であり、日本のSF作品でもスペースデブリの除去を取り扱ったものがいくつかあります。

プラネテス

幸村誠によるマンガ、およびそれを原作としたアニメ作品。月面や宇宙ステーションでも人々が暮らすようになった近未来を舞台に、社会問題と化しているスペースデブリを除去する人々を描いた。原作、アニメともに星雲賞受賞。

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©SUNRISE Inc.

アイドルマスターXENOGLOSSIA

ゲーム『アイドルマスター』を原案とした監督:長井龍雪によるロストアルテミスと呼ばれる月の崩壊が起きた近未来世界で、地球に落下する月の欠片を破壊するべく作られた巨大ロボット『iDOL』を操る人々とロボットを中心とした恋愛模様を描いたアニメ作品。ただし、正確には本作のような人工物でない宇宙塵はスペースデブリではなく流星物質(メテオロイド)と呼ぶ。

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©SUNRISE Inc.

現実の世界でも既にスペースデブリの除去に取り組んでいる組織は存在しており、日本のASTROSCALE社もその一つです。ASTROSCALE社は「BOY」という小衛星を飛ばし衛星軌道上を回り続けるスペースデブリを捕らえ、BOYとともに細かにスペースデブリの軌道の角度を調節しながら大気圏へ突入させる計画を立てており、2017年には実証実験も行われる予定となっております。

衛星軌道上を飛ぶBOYとスペースデブリ

ブラウン管テレビのような物体がスペースデブリ、それに付属する小さな青い物体がBOY。

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衛星軌道上から緩やかに降下するBOYとスペースデブリ

BOYは直径30cm、高さ40cmと非常に小さなものだが、重量50kg前後のスペースデブリを落下させることができる。

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しかし、上述したように10cmもあればスペースシャトルを破壊するほどのエネルギーをスペースデブリは持っていますがASTROSCALE社を含む既存の計画では直径10cm未満の小さなスペースデブリは除去の対象とはなりませんでした。なぜなら10cm以上の比較的大きなデブリはアメリカやロシアなどの宇宙監視システムによってカタログに登録して常時監視が行われているのですが、10cm未満の小さなデブリは発見、観察が困難なためカタログの登録から外されているからです。

そんな中で今回の理研の計画が発表されました。

理化学研究所の研究

理研はレーザーを照射することでスペースデブリの一部をプラズマ化し、その反作用で速度を減速させることを考えました。500kWの高強度レーザーならば100㎞以上離れた場所から10秒程度の照射で10cmサイズのスペースデブリを減速させ、地球大気へ再突入させることができるのです。

レーザービームによるプラズマアブレーション

プラズマという言葉が出るとややこしいが要は風船の栓を抜くと飛んで行くのと同じような原理。

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高強度レーザーによるスペースデブリ除去技術 | 理化学研究所

スペースデブリの検出には口径約2.5mのEUSO型超広角望遠鏡で大まかな位置と軌道を把握した後、Liderによって正確な位置と距離を定める方法を採用しました。この計画を実現できるほどの精度と強度を持った機材は現在の技術であれば可能とのことです。

EUSO型超広角望遠鏡
±30度の広い視野を持つと同時に、100km先にある0.5㎝の大きさのスペースデブリを検出するのに十分な性能を持つ。
Lidar
Light Detection and Rangingの略。レーザービームを射出し、対象物体で反射して帰って来た光が届く時間差で物体までの距離を測定する観測手法。似た観測手法として電波を照射するレーダーと音波を照射するソナーが存在する。

検出用のEUSO型超広角望遠鏡とレーザー射出用光学系

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高強度レーザーによるスペースデブリ除去技術 | 理化学研究所

これらの装置は国際宇宙ステーションで実験的に運用された後、専用の宇宙機に載せて本格的な除去作業を行うとのこと。宇宙機が運用されれば五年程度でcmサイズのスペースデブリの大部分を除去できるとの見込み、つまり、理化学研究所の考案により初めて小さなスペースデブリの除去ができるようになったのです。計画はアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、アジア諸国の国際協力を得て20年以内に実行される予定です。

今回の計画が実現すれば、宇宙開発はより安全なものとなることでしょう。しかし一つだけ不安なことは、この技術が軍事用の兵器として利用されないかということです。幸いにも大気圏内ではレーザーは威力が減衰しますのでこの技術が直接地上にいる人々に危害を与えるようなことはまずないでしょうが、今回の計画で利用される機材でも既存の人工衛星に致命的な攻撃を与えることは不可能ではないでしょう。けれど、どんな技術も悪用しようと思えばできるものです。この技術がどうか人を救うためだけに使われることを祈りましょう。

マンガ『サイボーグ009』より

ちなみにスペースデブリは大気圏に突入すると流れ星となる。

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©Ishimori Production Inc

REFERENCE:

Laser Weapon System – Wikipedia, the free encyclopedia

Laser Weapon System – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Laser_Weapon_System

スペースデブリ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%87%E3%83%96%E3%83%AA

良く聞かれる質問:スペースデブリ(仮訳):文部科学省

http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/satellite/detail/1311417.htm

Space Sweepers: 岡田 光信 at TEDxTokyo 2014 – YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=wqWU5UbMAPI

ほどよし衛星からスペースデブリ除去 2017年軌道上実証を実施へ:宇宙状況認識シンポジウム | 宇宙エレベーターニュース

http://senews.jp/business/2015/02/28/430