近年のインターネットは、少し検索をすればどんな情報でもすぐに出てくるようになっています。英単語や歴史の年号、はたまたプレンシュレルの定理ってなんだっけ、といった、テストの時には思い出せなかった事、あるいは最初から全く知らなかった事までが、インターネットで少し調べるとあっという間に出てきて、もしかして自分は天才なんじゃないの? なんて思ってしまった事のある方もいるのではないでしょうか。

そんな事は考えた事もない、という方は、少し気を付けた方がいいかもしれません。インターネットを利用すると実際よりも多くの物事を知っていると思い込んでしまうという事が、研究により明らかになりました。

But a new study suggests that instant, online access to information may be inflating people’s sense of their own intelligence.

紙媒体では思い込みは起きない

この研究を行ったのはイェール大学のマシュー・フィッシャー氏。彼は1000人以上の学生を対象に、9種類の実験を行いました。
その実験のうちの1つを紹介しましょう。

フィッシャー氏は被験者を2つのグループに分け、片方のグループにはジッパーについて書かれたページのリンクを、もう片方のグループには同じ情報が書かれた紙を渡しました。

それからフィッシャー氏は2つのグループに対して、ジッパーについての質問と、ジッパーとは関係のない質問(なぜ曇りの夜は暖かいのでしょう?)をしました。すると、インターネットで調べた方のグループの方が、先ほど調べた情報とは関係がない質問に対しても自信を持って答える事がわかりました。

この実験結果はインターネットで得た情報は自分の知識と区別する事が難しくなっており、自分が実際よりも博識であると勘違いしている証左であるとフィッシャー氏は述べています。
また、自分が実際よりも博識であるという認識は、政治など重要な決定が必要とされる場面で非常に危険なものである、とも述べています。

おまえの知識はおれの知識

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What’s yours is mine and what’s mine is own. – Rm日記

それだけでなく、他の実験ではインターネットで情報を得たグループは他人と比べて自分の方が賢いと判断する傾向にある事もわかっています。

自分が実際より賢いと思うのは危険?

かつて哲学者のソクラテスは自分が知らない事を自覚する事の重要性『無知の知』の重要性を説きました。彼は対話により『知っている事と知らない事の境界』『知る事の出来る事と知る事の出来ない事の境界』を明らかにしようとしていました。また、儒教の祖である孔子も彼の言行記録である『論語』にて「知るを知るとなし、知らざるを知らずとなす、これ知るなり(知らない事は、知らないと自覚すること、これが本当の知るということである)」と述べていたとされています。知らない事を自覚する事の重要性は紀元前から主張されています。

孔子

ソクラテスと構図が近似。

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全屏显示课程章节

けれど、自信を持つ事がそんなに悪い事なのか、とも思えてしまいます。もっと自分に自信を持ちなさい、とか、成功に自信は不可欠とか、自信を重要視する言葉はそこかしこに溢れています。もっと自信を持たずに生きましょうなんて聞いた事がありません。過剰でさえなければ、自分に自信を持つことは良いことです。

しかし、今回の研究のような『自分の実際の力ではないにも関わらず自分の力だと思ってしまう事』は、多くの危険が含まれております。

インターネットは第二の母?

全ての人は『自分』と『自分以外』が存在していると認識していると思います。
しかし、この認識は最初から備わっている物ではなく、成長の過程で少しずつ得られていく物です。みんなへその緒で母親とつながっていたはずなのに、最初から『自分』と『母親』を分ける事が出来たら、おかしな話ですしね。

私と母親は違う存在です

本当にそうか?

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なかにし整骨院

このような自己と非自己の区別をする乳幼児の段階の研究を行ったマーガレット・マーラーという精神分析家がいます。彼女は乳児が母親との一体感から徐々に分離していく過程を「分離・個体化」と呼びました。そして、母親との「正常な自閉期」「正常な共生期」を経た後での生じる「分離・個体期」を4つに分け、これを「分離―個体化理論」と提唱しました。
分離・個体化理論に基づいて考えた時、『自分の実際の力ではないにも関わらず自分の力だと思ってしまう』状態は、いつ頃にあたるのかを見てみたいと思います。

2~6ヶ月 共生期
 外界を知覚するようになります。しかし、まだ自分と他人の区別がつきません。ですから実際には母親からオッパイを飲ませてもらっているのに、赤ん坊の心の中では自分で自分のオッパイを飲んでいると理解されています。これが万能感や誇大感の基礎となります。

6~9ヶ月 分化期
 少しずつ自分と母親の区別がつくようになり、母親を他人として識別できるようになります。母親と母親以外の人の区別もつくようにもなり、八ヶ月不安とか人見知り不安とか言われているものが出現します。母親以外の人の存在を発見したことにより、不安と同時に関心を持つようになります。

記述を見る限り、インターネットと自分の区別が全くついていないというわけでもなく、かと言って完全に区別が付いていないことから、マーラーの理論を当てはめるのならば人とインターネットの関係は共生期と分化期の間、ほぼ生後半年程度の子供と親のような関係にあたっていると言えます。

ちなみに、ハイハイを始めるのは約生後8ヶ月が目安とのこと。

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マーラーは共生期が万能感や誇大感の基礎になると述べています。万能感とはどのようなものか、以下に示してみます。

万能感・誇大妄想
・自己の重要性に関する不釣り合いな感覚
・人より優れていると信じている
・自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する
・一般人とはかけ離れた特別な能力や属性を持つ凄い人間と思われたい
・何の実績も才能もないのに、敬われたい・崇められたい願望が強い。
・プライドが高い
・「天才」や「一流」という言葉が好きである。
・誰が見ても凡人なのに、人がみんな自分を羨ましがっていると言う過剰な思いこみがある。

ここで注目していただきたいのは項目の二つ目の『人より優れていると信じている』です。先ほども書いたように、インターネットで調べ物をしたグループの被験者は他人と比べて自分の方が賢いと判断する傾向にあるという結果が出ています。万能感の特徴の一部が表出している、という状況はマーラーの示す共生期と分化期の間、という考えと乖離しません。
今回の研究の結果は、人類はインターネットに対して親離れ(インターネット離れ?)が出来ていないという事を示していると言えるのかもしれません。

賢いインターネット離れを

それならば、我々はいかにしてインターネットに基づいた万能感から逃れるべきでしょう。マーラーは分化期を越え、練習期、再接近期を通して自己の確立を行っていくと述べています。しかし、その先にあるのは親からの自立です。インターネットから自立し、自らの力だけで生きていくのは現代の社会においては非常に難しいことです。
マーラーの亡くなった年は1985年。まだ、インターネットが学術研究用としてしか使われていない時代です。私達は、彼女の想像を遥かに越えた世界での自立を必要とされています。インターネットから離れる事が出来ない現代では、万能的な存在から離れることなく自立するという、全く新しい『賢い』万能性との付き合い方が必要なのかもしれません。

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おっと……。

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REFERENCE:

ソクラテス – Wikipedia

ソクラテス – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%B9

知らざるを知らずと為す是知るなり(シラザルヲシラズトナスコレシルナリ)とは – コトバンク

https://kotobank.jp/word/%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%96%E3%82%8B%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9A%E3%81%A8%E7%82%BA%E3%81%99%E6%98%AF%E7%9F%A5%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%82%8A-535941

M.S.マーラー (Margaret S. Mahler) | 臨床心理学用語の樹形図

http://hermes321.com/developmental-theory/reseacher/margaret-s-mahler/

マーガレット・マーラー – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC