彼の名前はジェームズ・ボンド。イギリス秘密諜報部(MI6)の工作官、つまりスパイです。ずば抜けた知能と身体能力、洒脱なユーモアセンスで敵を倒して女性を口説く、そんな彼のスパイ技術の一部がついに明らかになった……かもしれません。

ロンドン大学で行われた研究によると、人は誰かと『笑い』を共有するとき、自らの秘密を話しやすくなっているというのです。

Researchers claim that sharing a few chuckles makes people more willing to tell others something personal about themselves, without necessarily being aware that they are doing so.

“Bond. James Bond.”

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アラン・グレイ氏は、人が自分について話す過程に『笑い』が与える影響に関する実験を行いました。参加した112名の学生は、互いに面識のないメンバーで構成される4グループに分けられると、雑談のあと、10分間のビデオを一緒に観ています。

その内容はグループによって異なり、ひとつはゴルフの教則ビデオ、もうひとつは自然ドキュメンタリー『プラネット・アース』の抜粋(ジャングル編)、そしてもうひとつはスタンダップ・コメディアン、マイケル・マッキンタイア氏の映像でした。初対面の人と観るにはどれもハードルが高そうですが、やはりコメディを見たグループがもっともよく笑ったといいます。

マイケル・マッキンタイア氏

オーバーアクションと日常観察ネタが見所らしい。

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また参加者は、グループの他のメンバーをより深く知るために、それぞれのメンバーに宛ててメッセージを書いています。そこで彼らは、他の参加者に教えられる5つの情報を書くように求められました。もちろん書かれた情報は、研究者によってすべて確認されています。

するとコメディを見た人は、他のゴルフや『プラネット・アース』を観た人よりも明らかに『個人的』な情報をメッセージとして書いたようです。その内容は、たとえばこんな感じでした。

・1月、ポールダンス中にポールから落ちて鎖骨を折りました。
・わたしは今、不潔に暮らしています(ネズミと!)

1代目ボンド、ショーン・コネリー。

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親密になる方向性がそれでいいのかどうかはさておき、彼らは確かにざっくばらんに打ち明けていたようです。コメディを見ていないグループでは「わたしは世界中の食べ物を食べるのが大好きです」という回答すらあったといいますし、『笑い』の効果はあったといってよいでしょう。

では、なぜ『笑い』が自分の秘密を話すことにつながるのでしょうか。

笑いは自白剤?

私たちが笑うとき、脳内ではエンドルフィンという脳内ホルモンが分泌されています。このホルモンは別名『幸福ホルモン』とも呼ばれ、人に幸福感をもたらすものです。また、コミュニケーションを取る際に人をリラックスさせてくれる効果もあるといいます。つまりその効果で、人は笑うと自分の秘密をつい喋ってしまうというのです。

モルヒネ同様の効果があるために『脳内麻薬』とも呼ばれ、ランナーズハイの要因ともいわれる。

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しかし、アラン氏は「必ずしも良いことではない」ともいいます。なぜなら実験の参加者たちは、自らが個人的な事柄を喋っている意識がほとんどありませんでした。つまり、実際はたくさん喋っているのに対し、エンドルフィンのリラックス効果は「ほんの少ししか喋っていない」という錯覚を与えるのです。時には、話したくない情報が引き出されてしまうこともあるかもしれません……。

喋ったときにはもう遅い。

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自己開示

それでもアラン氏は、「他者をより知るための方法として、笑いで状況を和らげるのは良いことだ」と述べています。また実際、誰かに対して心を開き、言葉を尽くして自分の『本当』を話すことは、人間関係を構築するために重要なことだといいます。

自分の主観的世界や、自身についての情報を嘘偽りなく話すことを自己開示と呼びます。ポイントは、意図を持たずに自分の良い面にも悪い面にも言及することです。もちろんそれは、とても繊細な行為でしょう。思想・信念から好きな食べ物まで、私たちが開示できる情報はきわめて多岐に渡っています。

また自己開示には、その受け手も同じように自己開示をするという返報性があります。同じ程度の深さの話を互いにすることで、少しずつ相互理解が深まるというわけです。

相手に印象を持たせる目的で、自分について語ることを自己呈示という。

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こういった特性から、通常、自己開示は相手との関係性の進展にあわせて行われるべきだといわれています。しかし、ともすれば『笑い』によってその段階は一気に進むことになるのかもしれません。そうでなければ、ネズミと暮らしていることをわざわざ自分から話すでしょうか……。

笑いと恋愛の秘密

チューリッヒ大学で行われた別の研究によれば、若い男女が自分のパートナーに求める条件は、その順序がほとんど一致していました。

ドイツ・スイス・オーストリアの若者327人にアンケートを取ったところ、個人差はあるものの「親切さ」「知性」「ユーモア」が上位に並んでいたのです。また、それらに続いて「遊び心」も重要視されていました。

『笑い』は、秘密を相手に打ち明けやすくしてくれます。つまり『笑い』を共有できることは、お互いの秘密を共有すること、関係をきちんと深めていくことにつながるのかもしれません。

確かにツボが違うと大変。

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しかし「遊び心」とはいったいなんでしょうか? チューリッヒ大学の研究チームはこのように説明しています。

・即興の言葉遊びを楽しめる
・気楽に挑戦できる
・変わった出来事に喜びを感じられる
・誰かが楽しめる状況を作りだす

そんな人どこにいるのか……と思いますが、いました。ジェームズ・ボンドです。

即興の言葉遊びを楽しめる

人が死んでいる、かつ自分も行き詰まっている状況を“It’s dead end.”の一言で表現。

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気楽に挑戦できる

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変わった出来事に喜びを感じられる

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誰かが楽しめる状況を作りだす

この場合は自分。

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思えば彼は、いつもユーモアと恋で秘密に近づき、そして真実を暴いていました。そう思うと、とても『笑い』だけではジェームズ・ボンドには及ばないような気がしてきます。また、あらゆる武器で秘密を扱う彼は、いつか自分の真実を赤裸々に語ったことがあったでしょうか……。その覚悟がないならば、人の秘密にはむやみに近づかないほうがいいのかもしれません。

REFERENCE:

How laughter can get you the office GOSSIP: Sharing laughs makes people more likely to reveal secrets

How laughter can get you the office GOSSIP: Sharing laughs makes people more likely to reveal secrets

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2999175/How-laughter-office-GOSSIP-Sharing-laughs-makes-people-likely-reveal-secrets.html

Want to Get to Know Someone? Make ’em Laugh.

http://www.realclearscience.com/blog/2015/03/want_to_learn_your_friends_secrets_make_em_laugh.html

スタンドアップ・コメディの世界

http://d.hatena.ne.jp/yokk/20130330/p1

エンドルフィン – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3

自己開示:心理学用語集 サイコタム

http://psychoterm.jp/basic/society/03.html

自己開示の返報性

http://www8.plala.or.jp/psychology/topic/jikokaiji.htm

“笑い”がもたらす 健康効果 | カラダの豆事典 | サワイ健康推進課

http://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/illness/200908.html

Playful adults preferred in choice of partner

http://www.mediadesk.uzh.ch/articles/2015/-verspielte-erwachsene-werden-bei-der-partnerwahl-bevorzugt_en.html

戸田奈津子氏が語る「映画の魅力を表現する字幕翻訳」 第8章 ユーモアを字幕にするのは難しい

http://www.academyhills.com/note/opinion/10031708MovSub.html