カナダ、ウォータールー大学の研究チームが人類が一夫一妻制社会を築いたのは性感染症による自然淘汰が大きく関わっているという研究を発表した。

But the root of marriage can be traced back to nothing more romantic than avoiding sexually transmitted diseases, a new study has revealed.

現在、人類の多くが一人の男性が一人の女性と結婚し家族となる一夫一妻制を採用しているが、他の生物に目を向けると実に多くの生物が一体のオスに対して複数のメスという一夫多妻制社会、あるいは繁殖法を採用している。哺乳類で一夫一妻制を導入した生物は3%しかおらず、人間に近い生物と言われるゴリラやチンパンジーでさえ、ゴリラは一夫多妻制、チンパンジーは乱婚制(オスメス双方ともに複数の相手と交尾する制度)を採用している。

一夫多妻制という繁殖の方法は多くの場合で『効率の良い』繁殖方法とされる。その理由は様々な学説があるため置いておいて、実際に多くの生物種が一夫多妻制、あるいは乱婚制を採用していることそのものが少なくとも『一夫一妻制は多くの動物においては非効率的な繁殖である』という証拠となっている。

ではなぜそんな一般的に『効率の悪い』繁殖法を人類が採用するに至ったのだろう。この疑問は科学者たちを悩ませ続けていた。何か神秘めいた発想に陥りそうな疑問であるが、新たな仮説によれば非常に現実的な理由、『性感染症を防ぐため』がその一因であるらしい。

農耕民族にとって一夫一妻制は『効率が良い』

研究者らがコンピュータモデルを使って、共同体の人口の増減をシミュレートしたところ、人口の少ない共同体では一夫多妻制を好むオスが増えた一方、人口が一定以上を超えると性感染症により一夫多妻制を好むオスが減少し、一夫一妻制を好むオスの個体数が増加したという。一夫一妻制は性感染症による自然淘汰の結果、つまりある一定以上の人口の人類にとって単純に『効率の良い』繁殖法だったために採用されたのである。研究者らは人類が一夫一妻制を取い入れ始めたのは食物を得る方法が狩猟から農耕に変わり人口が増え始めた23,000年ほど前からではないかと見ている。

戒律も自然淘汰から生まれた可能性が

この研究の興味深い点がもう一つある。研究者らはコンピュータモデル内の男性に『一夫一妻制を好む男性』と『一夫多妻制を好む男性』の他に『一夫多妻制を好む男性を罰する男性(無論、本人は一夫一妻制を好む)』というモデルを加えている。一見『一夫多妻制を好む男性を罰する』という行為は自分の繁殖とは関係のない『無駄なコスト』をかける行為に思えるが、にも関わらず、最終的に最も数を増やしたのはこの『一夫多妻制を好む男性を罰する男性』であったという。

このことから一夫一妻制を強いる戒律さえ(それは『愛』とかそのような言葉で定義されていたかもしれない)も性感染症の自然淘汰から生まれたものではないかと研究者は予測し、『私たちの規律は環境によって作られている』と述べている。

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性感染症の自然淘汰によって一夫一妻制が選ばれたのだとしたら『男は浮気する生き物だから』という命題は少なくともあまり一般的に真であるとは言いがたいことがわかる。

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宗教も自然淘汰から生まれたかも?

この仮説がもし真実であるならば、過去から現在まで語り継がれてきた戒律やあるいは宗教的な教えのような一見すると非常に理性的なものが、それとは真逆の、実に本能的な自然淘汰から生まれた可能性があることを意味する。

人類の祖先の一つであることが最近明らかになったネアンデルタール人は、死者を草花とともに埋葬していたことで知られている。そのため、研究者の中には『ネアンデルタール人は死者を弔う習慣があった』と主張するものがいる。一方で、ネアンデルタール人は遺体を狙う食肉獣の接近を恐れて単に遺体を埋めて隠していたと考える説も存在する。どちらもありそうな話ではあるが、今回の研究の発想を取り入れるならば、新しい考え方も可能である。

ある時ネアンデルタール人がたまたま死体を埋めたところ、それまで死肉の香りに釣られてやってきた動物たちが激減した。そして『死体を埋めると肉食動物が襲ってきづらくなる』ということを他の仲間に、あるいは子に教える。そして、さらにある時、それを忠実に守っていた子孫の一人がたまたま死体に花を添える。添えられた花の香りが死体の匂いをさらに弱くし、さらにやってくる動物が減る。そして、それがさらに子孫に教えられる。そしてその何代か後の子孫が子に教える時には大体こんな感じになっているはずだ。

「ねぇお母さん。どうして死んだ人を埋めて、その穴にお花を入れるの?」

「そうしないと、こわーい魔物がやってくるからよ」

と。もちろんネアンデルタール人は日本語を話さないしそもそも喉が現世人類とは違う作りになっているのでいいとこ「ウホウホ?」「ウホ」とかだと思うが、兎にも角にもそのような意味のコミュニケーションが取られていた可能性は考えられる。このように単に遺体を埋めて隠していた現実的な対策が時間が経過するうちに『そうしなければいけない』戒律へと変わっていった、という可能性も考えられないでもない。

一人につき一人に与えられる愛がただの『性感染症を防ぐための自然淘汰』によって生まれ、死んだ人を悼む心が『死肉を漁る動物から逃れるための自然淘汰』によって生まれた、と考えると妙に荒涼とした気分にならないでもないが、今回の研究に対して「コンピュータモデルの設定方法が実験者の意志が含まれるため、現実とは全く違う結果を生んでいる可能性は否定出来ない(同様にコンピュータモデルの設定が正しいことを証明することもできない)」と批判も出ている。この仮説をそのまま受け入れるのは危険なことだろう。

仮にこの仮説が真実だとしても所詮は一夫一妻制となった『一因』である。今日、人類の多くが一夫一妻制を導入している(一夫多妻制が認められるイスラム教でさえ、現在はほとんどが一夫一妻の家庭を築いている)のは社会が形成され経済的格差が少なくなったことが一因とも考えられている。

研究者は『私たちの規律は環境によって作られている』と述べたが、次に『私たちの環境は規律によって作られている』とも述べている。人類は文明を発展させ、今や他の動物や自然現象などの脅威に対して強い抵抗力を持ち、自然淘汰の影響を強く受けることなく『このようにありたい』と思ったように生きることを許されている。そのような時代に生きる人類の指す『愛』や『死者を悼む心』は、自然淘汰に脅かされていた時代のそれとは全く違うものだと考えるべきだろう。

REFERENCE:

Disease dynamics and costly punishment can foster socially imposed monogamy

Disease dynamics and costly punishment can foster socially imposed monogamy

http://www.nature.com/ncomms/2016/160412/ncomms11219/full/ncomms11219.html

STIs may have driven ancient humans to monogamy, study says | Science | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2016/apr/12/stis-may-have-driven-ancient-humans-to-monogamy-study-says

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