世界中で将来の食糧危機問題が取り沙汰されるようになり、多くの人々がこの問題に取り組み、解決法を模索しています。そんな中、オーストリアの工業デザイナー、カタリーナ・アンガーさんは、プラスチックをエサに成長するキノコを観察しながら食用に栽培できるユニークなキット『フンガイ・ミュータリウム』を開発しました。

フンガイ・ミュータリウムの仕組み

fungi2 image by

Livin Studio

カタリーナさん率いるリビン・スタジオが培養に使ったキノコは、スーパーマーケットでも売られているヒラタケと、アジアやアフリカ、メキシコで食べられているスエヒロタケの二種類。二つとも一般的なキノコですが、プラスチックを腐食するという特徴があります。フンガイ・ミュータリウムでは、普通キノコとして食べられている部分ではなく、根っこにあたる菌糸部分を栽培します。

右側のドーム状の部分は菌糸の培養室で、その中にある『FU』と呼ばれる小さな卵型のポッドは寒天でできています。この中に、エサとなる殺菌して細かくしたプラスチックを入れます。左側には、希釈された菌糸のもとが液体として入っており、これをピペットで吸い取ってポッドの中へ垂らすと、菌糸はプラスチックを消化しながらゆっくりと成長し、繭のような形に固まり、二週間後には収穫できるようになります。

fungi1

エサとなるプラスチックが収められているポッド。

image by

Livin Studio

fungi4

菌糸のもとをそれぞれに注入して成長を待つ。

image by

Livin Studio

FU_LabTests

徐々にプラスチックをエサに菌糸が繁殖していく。ポッドを覆ったら食べ頃となって収穫する。

image by

Livin Studio

菌糸のお味は?

fungi6 image by

Livin Studio

プラスチックをエサとして培養された菌糸の繭はどんな味がするのでしょう。アンガーさんによれば味はもとの菌株によって違い、ヒラタケはマイルドなものから味のきついものまで幅広く、アニスやリコリスのような甘い香りがあるそうです。スエヒロタケのほうが歯ごたえがあり、味はあまりないそうです。リビン・スタジオでは、菌糸の繭を使ったレシピの考案や、専用の食器道具の開発など幅広い取り組みをしています。

菌糸の成長を観察できる上に食料として収穫もできてしまう、おいしくておもしろいフンガイ・ミュータリウムですが、現在の問題点は菌糸がプラスチックを分解するスピードが遅く、ポッド内に設置したものを完全に消化するには数ヶ月かかるということです。プラスチック廃棄物処理システムとしてはまだまだ改善が必要ですが、ドーム内の温度や湿度などを最適に保てるようにすれば、分解のスピードを速めることができるようになるだろうとカタリーナさんは語っています。

プロテイン生産キット『ファーム432』

ちなみに、アンガーさんは以前、SIGNの記事『国境警備やがん検診、五月蝿いハエが活躍する未来』でも取りあげた食べられるハエの幼虫を培養するキット『ファーム432』を発明した人でもあります。このハエの幼虫はカルシウムやアミノ酸を含み、昆虫の中でもっともプロテインが豊富なのだそう。このキットは、1グラムのハエの卵から432時間後には2.4キログラムものプロテインを生産できてしまう画期的なシステムなのです。有効に使うにはハエの幼虫を食べるのに慣れるという大きな試練が待ち受けていますが、培養したものを調理すると、外はカリッとして中は肉のように柔らかく、ポテトのような匂いで、ナッツのような肉のような独特の味がするそうです。カタリーナさん自身は、幼虫を米といっしょにトマトリゾットにして食べるのが好きだとか。

fungi8 image by

Livin Studio

これまで考えてもみなかったような食の可能性を地球はまだまだ秘めているようです。環境の変化に合わせて生物が進化していったように、私たち人間ももしかしたら、牛や豚を食べている今の状態から、菌糸や昆虫などこれまで食べなかったものを食べるような新しい段階へと進化していくのかもしれません。

INFO:

Livin Studio