全国およそ3,805万人(推定)の、乗り物酔いに苦しむ皆さん、大変お待たせいたしました。遊覧船に乗ったにもかかわらず、あまりの気持ち悪さに目を閉じていなければならない、そんな観光はそろそろ終わりにしましょう。

インペリアル・カレッジ・ロンドンでおこなわれた研究によると、短くて5年後、長くてもあと10年後には、乗り物酔いを治すことのできるデバイスを開発できるといいます。がぜん期待が高まってまいりました。

The misery of motion sickness could be ended within five to ten years thanks to a new treatment being developed by scientists.

風が吹けば桶屋が儲かる

ちなみにこれは樽。

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Wikipedia

乗り物酔いの実験

乗り物酔いは別名「動揺病」ともいい、乗り物に乗るなどして、身体が複雑な動揺にさらされると、吐き気や嘔吐などの症状を引き起こすことを指します。その原因は、頭部の揺れによって、目から入る情報と内耳の平衡感覚にズレが生じることだといいます。いわば、目と耳の情報のズレを脳がうまく処理できない、ということでしょう。

しかし、この説はあくまで科学者のあいだで有力なものにすぎません。実際に乗り物酔いがどのようにして引き起こされているのか、その原因は未だにわかっていないのです。10人中3人が乗り物酔いに苦しんでいる、ともいわれるように、その効果的な治療や予防の方法は、長きにわたって求められてきました。

気持ち悪くて乗り換えどころじゃない……。

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まるで罰ゲーム

今回、インペリアル・カレッジ・ロンドンのカディール・アルシャド博士らによる研究の結果、頭皮に緩やかな電流を流すと、情報を処理する脳の領域の反応を抑えることができることがわかりました。この方法を用いることで、乗り物酔いの原因である、脳内での情報の混乱を防ぐことができるというのです。

実験の参加者は、頭部に電極を付けられると、乗り物酔いを再現するために『自動回転椅子』に座らされました。傾いたまま回転させられること約10分間。まるで罰ゲームのような実験でしたが、彼らはほとんど吐き気を催すことなく、しかも速やかに回復したといいます。

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カディール・アルシャド博士のインタビュー(英語)

新デバイスの開発

この技術は将来的に、安全で効果的、かつ安価なものとしての普及が目指されています。

カディール博士は「5~10年以内にも、人々は薬局で乗り物酔い対策のデバイスを購入できるようになる」と述べており、現在も多く使用されている電気療法のような形態のもののほか、なんとスマートフォンと連携させることで、イヤフォンジャックから電気が流れるというデバイスの登場にも期待しているということです。いずれの場合も、頭部に電極を付けて利用することになるようですが、電流は非常に弱く、短時間の利用で人体に影響が出ることはないといいます。

経皮的末梢神経電気刺激(TENS)

痛みの患部などに低周波の電気を流す電気療法の一種。こんな感じになる?

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TopTENSUnits

『乗り物酔い』に関する専門家で、研究チームの一員であるマイケル・グレスティ教授は「乗り物酔いの治療の問題は、多くの効果的な方法が眠気を催す『錠剤』であることだ」と指摘しています。いわゆる『酔い止め薬』は、単なる移動や旅行には役立ちますが、もし乗り物で仕事や作業をする必要があるとき、その副作用は大きなデメリットになるでしょう。

今回の技術が実用化された暁には、それは明らかな副作用もなく、既存の薬においても最高級の効果を得られるものになるといいます。研究チームはすでにデバイスの開発に向けて動き出しており、マイケル教授も「新しい治療の可能性にとても興奮している」と述べています。

乗り物酔いが治れば戦争が捗る

また、今回の研究と技術には、すでに軍からの注目も集まっているようです。たとえば、映像などを介して遠隔地からドローンの操作と制御にあたっている者の治療にも役立てられる可能性があるなど、いわゆる『乗り物酔い』の範疇を越えて技術が活用される可能性もあるといいます。カディール博士も、軍事的な利用をはじめ、ゲームを長時間プレイする人々への活用などにも高い関心を示しています。

『3D酔い』

やはり原因は不明。

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しかし、それは人が『体質』として本来備えているものを無理に抑え込むことでもあるはずです。たとえば乗り物酔いのように、当人が望んで治療にあたり、そのことでメリットを得られるならば問題はありません。しかし、個人の体質にかかわらず、電気を流す『治療』によって、不向きな仕事にむりやり従事させられることがあるとしたら……。もしかすると、この技術はとんでもない使い道を伴っているのかもしれません。

REFERENCE:

Highly effective seasickness treatment on the horizon

Highly effective seasickness treatment on the horizon

http://www3.imperial.ac.uk/newsandeventspggrp/imperialcollege/newssummary/news_4-9-2015-10-4-6

乗り物酔い(動揺病)の症状や原因・診断と治療方法

http://health.goo.ne.jp/medical/10R20900

統計局ホームページ/人口推計(平成27年(2015年)4月確定値,平成27年9月概算値) (2015年9月24日公表)

http://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.htm

経皮的末梢神経電気刺激 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/経皮的末梢神経電気刺激