「形あるものはいつか壊れる」といいますが、そんなことわざも通じなくなる世の中がやってくるかもしれません。人間の怪我や骨折が自然治癒能力によって回復するのと同じように、ひび割れたコンクリートも自力で回復する……。いま、そんな発明が注目されています。

Jonkers has come up with an entirely new way of giving concrete a longer life.

“We have invented bioconcrete — that’s concrete that heals itself using bacteria,” he says.

コンクリートといえば、当然知らない人はいない建築資材です。強度や価格面、施行のしやすさから、世界で最もよく使われています。目的にあわせて、セメント・骨材・水・混和剤を配合して造られるもので、圧縮力には強い一方、引張力には弱いことが特徴です。そこで引張力を補強するため、現在は中に鉄筋などを入れることが多くなっています。

鉄筋コンクリート

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しかし、どれほど丁寧に混合されても、やはり「いつか壊れる」のがコンクリートです。鉄筋も腐食が起きると膨張をはじめ、コンクリートを内側から破壊してしまいます。表面にヒビ割れなどが起き、やがて崩壊につながるのはこうしたことが原因です。

コロッセオ(円形闘技場)

ローマ帝国時代、セメントと火山灰を配合して造られた古代コンクリートが使用されている。現在のコンクリートを遥かに超える強度を持ち、その形を2,000年以上も留めている。帝国の滅亡に伴いロストテクノロジー化した。

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バイオ・コンクリート

オランダ・デルフト工科大学のヘンク・ヨンカース教授は「コンクリートにヒビが入ることの問題は『漏れる』ことだ」と述べています。表面にヒビが入っていると、水がコンクリートの内部まで浸食してしまいます。そのまま鉄筋に水が到達すると、言うまでもなく腐食の原因になるのです。そこで彼が打ち出した新しい方法、それが自己治癒能力を持つ『バイオ・コンクリート』でした。

『バイオ・コンクリート』は、従来と同じ方法で材料を配合して造ることができます。唯一違うのは、自己治癒能力のもとになる細菌を、その中に混ぜ込むということです。

開発への課題

微生物学者であるヨンカース教授が、この新たなコンクリートの開発に取り組みはじめたのは2006年のことでした。ひとりのコンクリート技術者が、「自己治癒するコンクリートを開発するために細菌を使うことはできないのか?」と彼に尋ねたことが、そのきっかけだったといいます。しかし、その開発の道のりはそう簡単なものではなかったのです。

まずは、非常に過酷な環境にも耐えられる細菌が必要でした。コンクリートは、岩や石にも似た乾いた素材であり、その内部はアルカリ性の水溶液で満たされています。細菌はそんな環境下で、能力が必要とされる時まで眠っていなければなりません。そこでヨンカース教授が選んだのは、バシラス属の細菌でした。

バシラス属

アルカリ性の環境でも繁殖でき、食料や酸素なしで数十年生き延びる胞子をつくる。

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もちろん、課題はコンクリートの中で細菌を生かしておくことだけではありません。細菌には、コンクリートの補修材料となる石灰岩を作ってもらう必要があるのです。しかし、細菌が石灰岩をつくるためには食料が必要でした。

細菌の食料に使える砂糖は、コンクリートの強度を落としてしまうために一緒に混合することができません。代わりに選ばれたのは乳酸カルシウムで、教授は、細菌と乳酸カルシウムを生分解性プラスチック製のカプセルに入れて混合しました。水が浸入するとカプセルが割れて、中の細菌が表面のヒビをふさぐ仕組みです。

細菌はカルシウムと炭酸イオンを結合させて、石灰石などを作り出す。

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教授は、この『バイオ・コンクリート』が、いわゆる『生物学的建築』の時代のはじまりとなることを期待しています。すでにこの技術は効果を認められており、液体に含むことで既存の建築物に噴霧することもできるといいます。しかし、実用化のネックとなるのはその価格です。乳酸カルシウムが高価なために、『バイオ・コンクリート』は従来のもののおよそ倍の価格にもなっているのでした。

人々は救われるか

コンクリートで建てられたものの強度は、壁厚0.31メートルほどであれば通常50〜60年ほどの耐久年数をもつといわれています。逆にいえば、それだけの期間を経るとコンクリートも劣化してしまうということです。圧倒的強度を誇った古代コンクリートも、ローマ帝国の滅亡以来、使用された痕跡はありません。

石棺

1986年4月26日、旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で事故が発生しました。放射性物質の飛散を防ぐため、原子炉と建屋を丸ごとコンクリートで覆う『石棺』が建てられたのは、同年11月のことです。しかしこの『石棺』の耐用年数は約30年といわれており、その期限はとうとう来年にも迫っています。

雨水により腐食が進み、危険性が指摘されている。

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現在、コンクリートに代わる新たな『石棺』として、高さ100メートルにも及ぶ巨大なアーチ型建造物の建設が行われています。2017年までの完成を目指して作業は進んでいますが、プロジェクトの総費用は約3,000億円以上、しかし耐用年数はおよそ100年程度だということです。つまり、およそ1世紀後にはまた新たな『石棺』が必要になることでしょう。

Chernobyl New Safe Confinement

手前のアーチが新たな『石棺』(2015年4月撮影)。

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自己治癒能力を持つ『バイオ・コンクリート』が真価を発揮するのは、いわゆる建造物への利用はもちろんのこと、コンクリートが人々の命や住環境を守るような場面なのかもしれません。価格だけが理由で普及していないのであれば、せめて高い安全性が必要な分野だけでも、一刻も早く実用化されることを祈りたいものです。その技術を待っている人々は、けして少なくはないことでしょう。

REFERENCE:

The ‘living concrete’ that can heal itself