たとえば小学校を卒業したときに埋めたタイムカプセルに何を入れたか、いつまでも覚えている人は少ないことでしょう。しかし、あの時埋めたタイムカプセルはいつ掘り出されるのか、そもそも本当に掘り出されるのか、知らないうちに掘り出されたのではないか、そんなことを時折思い出す方は少なくないことと思います。

先日、アポロ11号船長のニール・アームストロング氏が月面から持ち帰った『みやげ物』が45年ぶりに発見されました。それも、ニール氏の自宅のクローゼットから……。

The widow of astronaut Neil Armstrong has given a bag full of equipment used by her husband during the moon landing to the Smithsonian after finding it in a closet.

アポロ計画

第二次世界大戦ののち、アメリカとソ連は冷戦期を迎えていました。そのなかで宇宙探査や人工衛星の技術は、両国が持つ技術や経済の大胆さ、それだけの成果を収められる『優秀さ』のアピールとなっていたのです。

当時のソ連の宇宙技術は非常に優れており、世界初の人工衛星、有人宇宙飛行、無人月面探査機をアメリカに先駆けて実現していました。アメリカは事態を良く思っておらず、1961年、ジョン・F・ケネディ大統領は『10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる』と宣言することになります。

ジョン・F・ケネディ大統領

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Wikipedia

かくしてNASAによる3度目の有人宇宙飛行計画『アポロ計画』は、アメリカの威信を賭け、莫大な予算を投入されて動き出しました。1969年に月面に着陸した『アポロ11号』は、アポロ計画において5度目の有人飛行であり、また3度目の月飛行だったのです。

『アポロ11号』主搭乗員

(左から)船長ニール・アームストロング氏、司令船操縦士マイケル・コリンズ氏、月着陸船操縦士バズ・オルドリン氏

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クローゼットはタイムカプセル

時は流れて2012年8月、ニール・アームストロング氏は、心臓血管の手術後に合併症のため82歳で死去しました。オハイオ州の自宅には遺品が多く残されており、同年11月、妻・キャロル氏の要請を受けて、国立宇宙博物館の学芸員アラン・ニーデル氏らが調査を行っています。その結果、アポロ11号に関する遺品は博物館へ、ニール氏の手紙や書類は彼の母校パデュー大学へ寄贈されることが決定しました。

しかし、アラン氏が日頃の業務に戻ってから数週間後のある日、キャロル氏から1通のメールが届きます。小物の入った白いカバンがクローゼットから見つかった……というそのメールには、こんな写真が添付されていました。

すべてアポロ11号から持ち帰られたもの。

アラン氏いわく『これ以上興奮するものはなかなか想像しがたい』。

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NASA

アラン氏の興奮はさておき、私たちには、それぞれ何に使うものなのか、ぱっと見でほとんどわかりません。ひとつひとつ、丁寧に見てみましょう。

月面からのみやげ物

『マグディビットの財布』

アポロ9号船長、ジェームズ・マグディビット氏に敬意を表して名付けられたこのカバンは、船外作業の準備の際に物を落とさないように使われていました。

その形状が女性物の財布に似ていたために『財布』と呼ばれていたそう。

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NASA

使用例。

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NASA

情報収集用カメラ(16ミリフィルム)

今回見つかったなかで、一番の目玉となっているのがこのカメラです。アラン氏によると、このカメラで撮影された映像は、当時テレビで放映されたものよりも遥かに画質が良いといいます。

カメラに固定するブラケットや、10ミリレンズとレンズシェードも一緒に入っていた。

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NASA

かの有名な、星条旗を月面に立てる場面もこのカメラによって収められました。フィルムが入っていたカートリッジがミッションの最中に取り外されたため、カメラ本体は不要となっていたのです。

月面に降り立つニール・アームストロング氏。

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DailyMail

この場面を知らない人はいないはず。

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DailyMail

光学観察用機器(COAS)

こちらはドッキング作業の操縦中、視界の範囲と物体の接近速度を表示することで、操縦士が照準を正しく得るための道具です。

フィルタや予備の電球も見つかった。

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がぜん高まるSF感。

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船外作業用の繋ぎ縄

今度はちょっと西部劇っぽい?

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こんな風に使われていた。

この細かいのを見つけてくる執念もすごい。

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NASA

電源ケーブル&ユーティリティライト

電源ケーブル

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ユーティリティライト

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NASA

宇宙にいても光は大切。

このように組み合わせて使う。

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NASA

みやげ物?

カバン、カメラ、光学観察用機器、繋ぎ縄に照明器具……これでもかというほどみやげ物が詰め込まれている一方で、なぜこれを持って帰って来ようと思ったのかと、思わず首をかしげたくなるようなものもたくさん入っていました。

クランプ

さぞ便利だっただろうけど。

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緊急用レンチ

持って帰ってきて良かったの?

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NASA

保護用ネット

機材の保護に役立ったとか。

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ヘルメットのひも

肝心のヘルメットはない。

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ミラー

撮影者が映ってるパターン。

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ゴミ箱のフタ

使い道がない。

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NASA

特筆すべきは、ニール氏がこれらの『みやげ物』を意図的に持ち帰ってきたということでしょう。音声通信の記録によれば、ニール氏は、月面から地球への帰還途中、月着陸船イーグルの切り離しの間際に『船の部品やがらくたを持って帰りたい』と話しているのです。

一方でニール氏は、月面から帰還して以降『みやげ物』に一度も言及していません。伝記を執筆した作家はおろか、彼の妻すらその存在を知らなかったのです。

晩年のニール・アームストロング氏

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The Telegraph

しかし思い返せば小学校の頃、タイムカプセルとは『そこに何かを入れる』ということが大事で、何を入れたかはどうでもよかったような気がします。おそらくニール氏も『持ち帰ってくる』ことが大事で、それが何かはどうでもよかったのではないでしょうか……。その存在についに触れなかったのも、もしかすると彼自身もクローゼットにしまったきり忘れていたからかもしれません。

宇宙へ、そして未来の地球へ

ニール氏の『みやげ物』は逆に、アポロ11号は月面に1枚のプレートを残してきました。そこにはこのような言葉が記されています。

HERE MEN FROM THE PLANET EARTH(地球から来た人間が)
FIRST SET FOOT UPON THE MOON(はじめて足跡を月面に残す)
JULY 1969 A.D.(西暦1969年7月)
WE CAME IN PEACE FOR ALL MANKIND(全人類の平和のために)

人類はその後も、宇宙に向けてメッセージを送っています。1972年に打ち上げられた宇宙探査機パイオニア10号・11号には、地球に関する情報がイラストで刻まれた金属板が取り付けられました。1977年に打ち上げられたボイジャー探査機には、地球や生命についての画像や音声が収録されたレコードが搭載されています。どちらも地球外知的生命体や宇宙旅行者に宛てられたものです。

パイオニア探査機の金属板

地球人の大多数が読み解けなさそう。

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Wikipedia

ボイジャーのゴールデンレコード

115枚の画像と55の言語、自然音や音楽を収録。

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Wikipedia

宇宙へのタイムカプセル

いまや、宇宙にメッセージを送るという動きは民間レベルでも行われています。

宇宙タイムカプセルKEOは、5万年後の人類にメッセージを送ることができるというものです。インターネットか郵便でメッセージを送れるほか、血液、空気、海水、百科事典の抄録なども積まれる予定です。メッセージはDVDに記録され、未来の人類のためにDVDプレイヤーの作り方も同梱されるといいます。打ち上げは延期が相次いでいますが、今年中の実現が期待されています。

KEOウェブサイト

打ち上げられたカプセルは5万年後に大気圏に再突入する予定。

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KEO

また、KICKSTARTERでの資金調達に成功した『LUNAR MISSION ONE』は、月面に穴を掘り、タイムカプセルを埋めるプロジェクトです。カプセルには人類の歴史や文明、自然についてのデータベースが収められるほか、支援者にはデジタルメモリスペースが与えられ、そこに文書や写真、音楽などをアップロードできるようになっています。

『LUNAR MISSION ONE』

髪の毛などのDNAデータも可。

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LUNAR MISSION ONE

とうとう私たちも、宇宙にタイムカプセルを埋められる時代になってきました。小学校の校庭すら持て余す私たちに月面は遠すぎる気もしますが、そこはニール氏に学ぶつもりで、できるだけ『どうでもいい』ものを入れるのも悪くありません。運が良ければ遠い未来、誰かが大喜びしてくれるかもしれませんし、そもそもタイムカプセルとはそういうものなのですから……。

REFERENCE:

Neil Armstrong’s secret bag of Moon landing mementos ‘that were supposed to remain in space’ discovered by his widow in a closet

Neil Armstrong’s secret bag of Moon landing mementos ‘that were supposed to remain in space’ discovered by his widow in a closet

http://www.dailymail.co.uk/news/article-2944854/Neil-Armstrong-s-secret-bag-moon-landing-mementos-supposed-remain-space-discovered-widow-closet.html

Secret stash of Moon artifacts found hidden in Neil Armstrong’s closet

http://sploid.gizmodo.com/secret-stash-of-moon-artifacts-found-hidden-in-neil-arm-1684449533

The Armstrong Purse: Flown Apollo 11 Lunar Artifacts

http://blog.nasm.si.edu/highlights-from-the-collection/the-armstrong-purse/

アポロ計画 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%83%AD%E8%A8%88%E7%94%BB

宇宙開発競争 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E9%96%8B%E7%99%BA%E7%AB%B6%E4%BA%89

日本惑星協会 – アポロ11号

http://www.ku-ma.or.jp/tpsj/know_apollo11.html

月面着陸 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E9%9D%A2%E7%9D%80%E9%99%B8

パイオニア探査機の金属板 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%8B%E3%82%A2%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F%E3%81%AE%E9%87%91%E5%B1%9E%E6%9D%BF

ボイジャーのゴールデンレコード – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89

LUNAR MISSION ONE: A new lunar mission for everyone.

https://www.kickstarter.com/projects/lunarmissionone/lunar-mission-one-a-new-lunar-mission-for-everyone