2012年に亡くなった歌手、ホイットニー・ヒューストン(享年48歳)がホログラムになり復活することがホイットニーの遺産管理委員会により発表されました。

Whitney Houston will come to digital life as a hologram in 2016 as part of a new deal between the singer’s estate and Hologram USA.

ホログラムによる『復活』

ホイットニー・ヒューストンは『エンダアアァァァイヤアアァアアア』という印象的なサビの曲『I will always love you』で日本でもよく知られる有名歌手でしたが、2012年に入浴中のコカインによる心臓発作で溺死してしまい、二度と彼女の生きた姿を見ることは叶わなくなってしまいました。しかし今回ホログラムUSAの技術によりホログラムとなり歌うホイットニー・ヒューストンが立体映像として『復活』することとなりました。

『ホログラムは史上最も祝福された女性アーティストである彼女の復活を見れる素晴らしい機会です』とホイットニーの義妹であり遺産管理委員会理事長を務めるパット・ヒューストンは語っています。

Whitney Houston – You Give Good Love

ホイットニー・ヒューストンのデビュー・アルバムのリードシングル。『I will always love you』は彼女がオリジナルの曲ではなくカバーである。

ホログラムによるライブというと昨年末の『ビルボード・ミュージック・アワード2014』にて故マイケル・ジャクソンがホログラムでのライブをおこない話題を呼びましたが、そちらのホログラムを作成したのはPulse evolutionという同業他社です。ホログラムUSAはPulse evolutionよりも先の2012年にアメリカの野外フェス『コーチェラ・フェスティバル』のSnoop Doggのライブにて故2pacのホログラムを作成しています。

Michael Jackson – Slave To The Rhythm

ややぎこちなく見えるがステージ上をマイケルが踊っている(動画が再生できない場合、上記のタイトルのリンクよりyoutubeの動画に飛ぶことができます)

Tupac Hologram Snoop Dogg and Dr. Dre Perform Coachella Live 2012

画質は野外フェスということもあってかマイケルのものよりも粗い。

倫理的懸念も

ホログラムUSAは他にもビリー・ホリデイやバディ・ホリーなどのミュージシャンのホログラムによる『復活』ライブをおこなうことを発表しています。現代のロックやジャズに多大な影響を与えたミュージシャンのライブを観ることができる、と言われるととても喜ばしいニュースに思えますが、映像使用の許可を出せない故人を勝手に『復活』させるのは倫理的に問題があるのではないかと批判の声も挙がっているようです。

映像使用の許可を出せないことから倫理観を問われると少々疑問を抱きます。著名なアーティストや作家が遺した映像や作品が死後公開するのは現在でも当然のようにおこなわれていることです。アーティストの死後に発売される未公開音源や映像など腐るほどありますし、先日も太宰治が芥川賞を懇願した手紙の内容の一部が公開されたばかりです。太宰治が生存していたならばそれこそ死んでも公開したくはないものだったでしょう。

この手紙の公開にも倫理的な問題があるのではないかという意見は尤もですが、わざわざホログラムに対して改めていうことではないように思えます。

ならばアーティストのホログラム化は暗黙のうちに了解されるべきものなのでしょうか。そういうわけではありません。

現在は技術の発展によりプログラミングでホログラムを動かすことができます。たとえば、先述のマイケルのホログラムライブですが、マイケルの振り付けなどはマイケルが実際に踊ったものではなくマイケルの死後に作られた振り付けを『踊らされて』います。言い換えて、マイケルの姿をしたプログラムが歌い踊っている、というわけです。これは明らかにお宝映像、音源の発掘の類とは違う問題です。身近な例にするのであれば太宰治の書簡よりも粗いポリゴンで作られた淀川長治が生前の声を切り貼りして作った声で映画紹介をするhuluのCMに近い問題でしょう。

Hulu TVCM 淀川長治 シュワちゃん篇

ただ、こちらはホログラムとは違い自然さを追求することなく映像、音声ともに不自然さを取り入れることで『これは作りものである』ということを明示している。

あるいは少し技術を遡ればアイドルの顔写真にヌード写真を合成する『アイコラ』も虚偽の事実を提供しているという点で近しいかもしれません。アイコラは肖像権の侵害あるいは名誉毀損行為にあたる可能性があります。ただアイコラは平成18年度におこなわれた裁判で『アイコラ画像がアイコラ画像であることを前提に享受されている限りにおいては、対象とされたアイドルタレントの名誉(社会的評価)を毀損する可能性は、それほど高いものではなかったといわなければならない』という判例が示されています。

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Window licker/Aphex twin

コラージュであるとわかる画像であれば名誉毀損にはあたらない。

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©Warp Records

だとするとそれが作りものであるという前提であれば、つまりマイケル・ジャクソンのホログラムではなくホログラムで作られた『マイケル・ジャクソン』ということをあらゆる人が知っていれば名誉毀損にはあたらないということでしょうか。

うぅむ、法的に問題がない可能性があるとはいえ、なんとなく納得のいきがたい話です。これがホログラムならまだいいものの『マイケル・ジャクソンそっくりのロボット』なんて話になれば大問題になりかねません。遺族が反対することはほぼ間違いないと思われますが、もしものことということもありえます。亡くなってから自分の名誉が傷付けられたことを訴えることはできないので、将来的には『自分の死後もホログラムおよびロボット等、自分の姿を模した作品を作ることを禁じる』なんて遺書に書くことが当たり前になる、なんて日も来るかもしれません。

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ホログラムの方、どういたしますか?

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Getty Images

そのような文化が根付いていない現在、故人をホログラム化するとしたら弔いの形の一つと考えホログラム化することで故人の名誉に繋がる行為であることを信じておこなうしかないのでしょう。弔いが故人を悼む人々に向けられた儀式であると考えるならばホログラム化することは死者を愛した人々に安寧を与え、故人を知らない人に故人を深く知る機会を与えるものであると信じると言い換えられるでしょうか。

後者の考えは『ホログラムは史上最も祝福された女性アーティストである彼女の復活を見れる素晴らしい機会です』というパット・ヒューストンの言葉と重なる部分があります。誰かが亡くなった時に最も心を痛めるのはその遺族です。血が繋がっていないとはいえホイットニーの親戚にあたる彼女がホイットニーのホログラム化をおこなったのはやはり彼女、あるいは彼女のファンを思ってのことなのでしょう。

しかしそれをわかっていたとしても、そしてその曲が彼女の代表曲だとわかっていても、ホイットニー・ヒューストンの姿をしたホログラムがホイットニー・ヒューストンの歌声で『I will always love you』(=あなたをいつまでも愛している)と言いながら恋人と別れる歌を歌うと想像するとどうしても少々悪趣味なことのように思えてしまいます。

Whitney Houston – I Will Always Love You – Lyrics

ホイットニーのホログラムは2016年にアメリカ国内のメジャーイベントで初披露され、世界ツアーも開催される予定です。

REFERENCE:

Whitney Houston Hologram Maker Promises ‘Absolute Authenticity’ | Rolling Stone

Whitney Houston Hologram Maker Promises ‘Absolute Authenticity’ | Rolling Stone

http://www.rollingstone.com/music/news/whitney-houston-hologram-maker-promises-absolute-authenticity-20150914

人物写真のフォトコラージュに関する法的問題

http://www.slis.tsukuba.ac.jp/grad/assets/files/kenkyukiyou/12-1.3.pdf

Hologram USA | Hologram Technology | Hologramusa.com

http://www.hologramusa.com/

Pulse Evolution | Creators of the Michael Jackson Illusion "Slave to the Rhythm" performance at the 2014 Billboard Music Awards

http://www.pulse.co/