突然ですが、なぜミツバチは六角形の巣を作るのでしょうか。
この疑問にわずか4分足らずで答えてくれるアニメーションがあります。

they are also mathematicians of formidable precision and masterful engineers of space-efficiency.

Why do honeybees love hexagons? – Zack Patterson and Andy Peterson

天才数学者ミツバチの事件簿

当然ながら、ミツバチにも食料と住まいが必要。

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しかもハチミツを保存できなければならない。

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ミツバチの巣は、彼ら自身が作り出す蜜蝋からできています。ミツバチは腹部から蜜蝋を分泌すると、そこに唾液を加えながら巣を作っていくのです。物を拾い上げるくちばしや腕のない彼らにとって、口と脚だけを使って巣を作るのはきっと大変な重労働でしょう。

さらにミツバチの巣づくりには、別の大きなリスクもあります。

蜜蝋1オンスのために、ハチミツ8オンスを消費。

あまりにも大きな対価。

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1オンスは約28.35グラムですから、蜜蝋1オンスを作るには、実にハチミツが約226.8グラム必要になります。ニホンミツバチの場合、働きバチの寿命は最盛期で約40日だといいます。しかも、一匹が一生に作れるハチミツの量はわずか約1.75グラムしかないのです。もはや、彼らは蜜蝋をムダにはできません。いかに少ない蜜蝋で、多くのハチミツを保存するか。彼らにとってこれは大問題でした。

セブンイレブンの純粋はちみつ150グラム。

働き蜂85匹分の輝き。これだけあっても蜜蝋1オンスも作れない。

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セブン-イレブン

ここでミツバチが考えるのは、ムダなく効率的なスペースを持つ空間の作りかたです。彼らはあるひとつの面積に対して、ありとあらゆる、さまざまな図形を描いてみることにします。すると、その面積に対してもっとも外周が短い(図形を作るための素材が最も少なくて済む)のは円であることがわかりました。しかし、すぐに問題が発覚します。

敷きつめたら隙間ができた……。

別の図形でやるしかない。

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三角形、四角形、五角形。

そんなある日、ついに発見が。

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これが最も円形に近い。

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正三角形と正四角形、正六角形という、隙間なく敷きつめることができる3つの図形では、外周の長さが等しい場合、その面積は正六角形が最も大きくなります。つまり、最も少ない量の蜜蝋で、最も多くのハチミツを保存できる巣を作るには、正六角形が最も適していたというわけです。

とても経済的だったミツバチの巣。

わが家も見習いたい。

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こうして完成した巣は、実は経済的なだけでなく、とても強度のある構造を備えていました。たとえばニホンミツバチの巣は4000個の巣穴を持ちますが、壁の厚さがわずか0.1ミリなのに対し、内部に2キロもの蜜を保存することができるといいます。また、ハチの巣は彼らの住まいでもありますから、ミツバチは子育てのためにも巣を丈夫に作っているのです。

これが約13本ぶん保存できる。

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見回せばそこにハチの巣

このハチの巣の構造は、ハニカム構造と名づけられ、ミツバチたちも知らないところで進化を遂げてきました。軽くて強度があり、また音や衝撃を吸収できて断熱効果もあるために、現在では駅のホームにある落下防止ドアや、飛行機の翼、新幹線などにも利用されています。ちなみに1949年、アメリカの軍用機に構造体として採用されたことがそのはじまりです。

さらに原子のレベルでも、炭素同士が六角形に結合すると、あらゆる原子結合で最も強いことがわかっています。全体がその六角形の結合からなる新素材・カーボンナノチューブは、アルミニウムの約半分の軽さ、鋼鉄の100倍の強度、ダイヤモンドの2倍の硬さを持ち、実用化されれば地球と宇宙ステーションを結ぶ軌道エレベーターにも利用される見込みです。自分たちの巣と同じ構造が宇宙まで届くとは、まさかハチたちは思ってもみなかったことでしょう。

サッカーゴールにもハニカム構造。

2000年前後から採用。

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品質管理研究所 ~実務で役立つ品質管理、品質保証~

カーボンナノチューブのイメージ図。

髪の毛の5万分の1の細さ。

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株式会社ミュー

六角形と物語

ここまでの話題とは少し話が変わりますが、ハニカム構造、もっといえば六角形のビジュアルは、実生活のみならず映画やアニメなどの作品にもみることができます。

たとえば、SFアニメに登場する計器やモニター類、ロボットやマシンのパーツ……見覚えがあるという方も多いのではないでしょうか。すでに宇宙技術への応用すら現実に検討されているハニカム構造ですから、SFアニメにしばしば登場するのも自然なことといえます。また異なる理由としては、たとえば遺伝子を題材として扱った作品なら、DNAの塩基に六角形のものがある(ピリミジン)ことがその理由だと考えられるでしょう。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

司令室。緊急を告げる六角形のアラートが壁一面に映し出される。

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©GAINAX/カラー

『ギルティクラウン』

遺伝子が物語の題材として登場。タイトルロゴは六角形がモチーフ。

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©プロダクションI.G/6課

では、六角形という図形は、どのようにして物語に現れるようになったのでしょうか。

結論から言って、フィクションにおける六角形の登場の起源は今回判明しませんでした。しかし記者の知る古い例に、非常に印象深い作品があります。

1941年に発表された、幻想文学の大家であるホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説『バベルの図書館』です。あるひとつの図書館のありようが描かれたその作品は、このようにはじまります。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)

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Wikipedia

(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。どの六角形からも、それこそ際限なく、上の階と下の階が眺められる。回廊の配置は変化がない。一辺につき長い本棚が五段で、計二十段。それらが二辺を除いたすべてを埋めている。(中略)棚のない辺のひとつが狭いホールに通じ、このホールは、最初の回廊にそっくりなべつの回廊や、すべての回廊に通じている。(中略)螺旋階段があって、上と下のはるかかなたへと通じている。

いささか奇妙な記述ですが、この図書館の構造は、ここまで見てきたハニカム構造をそのままイメージすればよいでしょう。つづいてこの物語の語り手は、自らとこの図書館の関係について次のように述べています。

まさにこんな感じ。

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(前略)いま、わたしは、自分が生まれた六角形から数リーグ離れたところで、死に支度をととのえつつある。(中略)わたしの墓は測りがたい空間であるにちがいない。わたしの遺体はどこまでも沈んでゆき、無限の落下によって生じた風のなかで朽ち、消えてしまう。断言するが、図書館は無限である

語り手の人物は、連なる六角形のひとつで生まれ、死を目前とした今もその中をさまよっているのです。また物語の中盤では、彼の口から図書館の基本的な法則が述べられます。

すべての本は行間、ピリオド、コンマ、アルファベットの二十五字という、おなじ要素からなっていた。(中略)広大な図書館に、おなじ本は二冊ない。彼はこの反論の余地のない前提から、図書館は全体的なもので、その書棚は二十数個の記号のあらゆる可能な組み合わせ―その数はきわめて厖大であるが無限ではない―を、換言すれば、あらゆる言語で表現可能なもののいっさいをふくんでいると推論した。

未来、歴史、それぞれの人間の死……それらが記された本を求めて、何千の人間が生まれた六角形を離れ、他者と争いながら死に、または発狂したことが物語では語られます。しかし作中で、公理として「図書館は永遠を超えて存在する」といわれるように、広大な六角形のなかでは、人々が自分の求めている本にたどり着けることはないようです。そんな過酷な六角形を、ボルヘスは宇宙と呼び、図書館に例えて描いたのでした。

文中の引用はすべて岩波文庫『伝奇集』鼓直訳より。

『バベルの図書館』収録。

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ミツバチのサバイバル

ミツバチは自身の住まいのために、完璧な六角形をつくります。それは彼らが資源の消費を最低限に抑えながら、かつ資源を最大限に貯蔵するための発明でした。賢いミツバチですが、実はハチの巣をつくる働きバチはすべてメスで、オスは圧倒的少数派です。

ひとつの巣に数万匹のミツバチがいる場合、オスはそのうちわずか数百匹だといいます。彼らは生殖のためだけに育てられると、巣の外に出たのち、女王バチとの交尾に挑みます。幸いにも交尾を終えたオスのミツバチは、なんとその瞬間に生殖器が引きちぎれて死んでしまいます。交尾に失敗したオスに至っては、巣に帰っても存在意義がないとみなされ、巣の外に追い出されて餓死する運命にあります。

ハーレムかと思いきや……

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また、天敵であるスズメバチが巣を襲撃してくると、働きバチたちは集団で応戦します。ニホンミツバチは大勢で取り囲むと、蜂球(ほうきゅう)と呼ばれる塊を作り、48℃前後の熱を発生させてスズメバチを蒸し殺すのです。また、セイヨウミツバチも大勢で腹部を圧迫することで約1時間かけて窒息死させるという技を持っています。

昆虫の脳にある『キノコ体』。

蜂球の温度はこの部分で管理される。

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自身の生存のためにミツバチが編み出した発明、また彼らの生態はあまりにもハードで、私たちには一見して想像もつかないものです。しかしそのハードさは、本当に私たちの知らないものでしょうか? もしかすると完璧な六角形の巣の中にも、ボルヘスが宇宙と呼んだ六角形にも近い、欲望と争いの渦巻く無限が広がっているのかもしれません。

REFERENCE:

Why Bees Build Perfect Hexagons

Why Bees Build Perfect Hexagons

http://www.brainpickings.org/2015/01/15/bees-hexagons/

http://j-net21.smrj.go.jp/develop/nature/entry/2010111520.html

積層体の構造

カーボンナノチューブ : 富士通研究所

http://jp.fujitsu.com/group/labs/techinfo/techguide/list/carbon-nanotubes.html

驚異の新素材カーボンナノチューブ

http://www.org-chem.org/nanotube.html