理由はわからないのだが海外のニュースサイトで時たま『日本式かけ算』なるものが話題に上がる。

日本式?

動画を見てもらえばわかると思うが、この『日本式かけ算』とやら、驚くほどに日本人にとって馴染みがない。どうやら欧米諸国において日本というのは『九九とかいう呪文と算盤を使って計算がすげぇできる奴ら』という誤認がごく一部に浸透しているようで、恐らくこの算術も『なんかすげぇクールな計算だしニンジャが考えたんだろ』という発想に基いて『日本式かけ算』と呼ばれるに至ったのだと思われる。

調べてみるとこの計算法は古代インド人が考えたものであるという記事が出てくるが、欧米が日本を算数の神秘の国と捉えているように日本はインドを算数の神秘の国と捉えているフシがあるので欧米から渡された『日本式かけ算』を日本人が「私のモノじゃありません」とインド人にとりあえずなすりつけたという印象が拭えない。

とはいえインドはシュリニヴァーサ・ラマヌジャンという狂気としか思えない数学者を輩出している国だ。ひとまずこの『日本式かけ算』とやらは古代インドで生まれたということにしておこう。

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シュリニヴァーサ・ラマヌジャン

「インドの魔術師」の異名を取る数学者。『寝ている間にナマギーリ女神が教えてくれた』などといい数多くの数学の公式を発見した。

『日本式かけ算』概要

前置きが長くなったがこのインド生まれの『日本式かけ算』がどのようなものなのか説明をする。

123×112という計算をするとする。まず斜めに左から1本の線、2本の線、3本の線を引く。これは123を表す。

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次に先の斜めの線と交わるように1本の線、1本の線、2本の線を引く。これは112を表す。

次 image by

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それからこれらの線に区切りを設けて交点の数を数えて下に書く。

その次 image by

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現れた数値が解である。Googleの電卓で計算してみると123×112は確かに13776だ。計算らしい計算は一度もしていないのに三桁×三桁(理論的にはもっと多くの桁も)の計算ができる。

致命的欠陥

と、大まかに言ってこのようなもので本質的には普通の筆算とほとんど同じなのだが数字を見るとアレルギーを起こす算数嫌いの人にとっては交点の数を数えるだけで計算が終わる素敵な計算方法に見える。

だが、勘の良い人なら気付くと思うがこの計算方法、9などの数字が出てきた時に非常に面倒なものになる。たとえば99×99を計算しようとすると81×4で合計324個もの交点を数える必要が出てくる。図も煩雑になるのでこんな面倒なことをするなら普通に筆算したほうがマシに思えてくる。飽き性で怠惰な記者は20個も数えたあたりで発狂すると思う。もう少し楽に計算をする方法はないものか考えてみた。

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999×999

729個の交点がある。絶対に数えたくない。

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高校受験テクニックの応用

ふと中学校の数学教師が授業の合間に『99などの大きな数のかけ算を簡単にできる計算のテクニック』を紹介していたのを思い出す。

97×78という計算は面倒だが100×80という計算は簡単だ。大きな桁数の計算でも一番大きな桁以外の数が0であれば九九さえ覚えていれば簡単だ。数学教師の言った『テクニック』は97×78を無理矢理100×80にするというものだ。

つまり、97を(100-3)、78を(80-2)と表記する。すると97×78は(100-3)×(80-2)となり、乗法公式に則って解くと、

(100-3)×(80-2)=100×80+100×(-2)+(-3)×80+(-3)×(-2)=8000-200-240+6=7566

と煩雑な計算をせずに済む、と数学教師は言っていた。記者は勉強の『テクニック』なるものを嫌悪していたし何より余計に面倒な計算をさせられているような気がしたので一度たりともこの方法で計算を行ったことはなかったがこの方法を応用すれば『日本式かけ算』の手間を省けるような気がした。

『日本式かけ算』にマイナスの概念を加える

要するに『日本式かけ算』の問題点は巨大な数値が出てきた時に交点の数を数えるのが面倒なことにある。ならば6以上の数が出てきた時は無理矢理繰り上げてしまえば良い。97は(100-3)と表記し、78は(100-22)と表記すれば6以上の数は姿を消す。

説明するよりも実際にやってみせるのが早いだろう。97×78改め(100-3)×(100-22)を新しい『日本式かけ算』で計算する。手元に二色ボールペンと紙がある人は実際にやってみてほしい。

まず下図のように通常の『日本式かけ算』のように103を表すように斜めに線を引く。ただし『3』の線は赤色で引く。これが『100-3』を表している。

次に同じように斜めに122を表すように斜めに線を引く。もちろん『22』は赤色で引く。これが『100-22』だ。

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さて、後は桁ごとの区切りを設けて交点の数を数えるだけだがここで注意が必要だ。黒と黒、赤と赤の交点の組み合わせはそのままで構わないが赤と黒、つまり異なったの色が交わる点はマイナスとして数える。それ以外は通常の『日本式かけ算』と同じだ。

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ただ、注意しておきたいのは区切り方を間違えて(100-3)を(10-3)として計算してしまうことだ。このミスは通常の『日本式かけ算』でも起こり得る。ミスの防止のために破線を引くという手があるが赤と黒の二色でも煩わしいのに破線が加わると面倒なことこの上ない。解決方法はないかと簡単に調べてみたが見つからなかった。インド人が0という概念を発見したらしいが『日本式かけ算』を考えた古代のインド人は0を考慮しなかったのだろうか。歯痒い。ともあれ、解決方法がないのならば作れば良い。細かいことは考えず『1』と『3』の間に小さく×でも付けておく。線の真ん中に平行な位置ではなく端に平行な位置に書くのがポイントだ。片方の端にだけ書いておけば多分問題はないが不安な人はもう片方の端にも印を付けておくといい。

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区切り方は動画や解説サイトではフリーハンドで書かれていることが多いが、かける数、かけられる数を表す斜めの線がそれぞれ平行でありさえすればこの『区切り』は直線で表現できる。左端の交点から上下に進み最初に当たった交点あるいは印を直線で結んでみる。それに平行な線を『まぁなんとなくこの辺に引けばいいだろ』というところに引く。区切りごとの交点の合計がプラスかマイナスかで上段下段で分ける。空いた部分には0でも付けておく。

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あとは引き算をするだけだ。桁数の多い引き算が嫌いな人は各自アレンジしても構わない。たとえば図のような方法もある。

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こんな感じ

10-2の後に80-5。

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というわけで97*78の計算結果は7566となる。先ほどの『テクニック』を使った計算結果ともGoogleの電卓とも合致したので恐らく間違いはないだろう。

通常の『日本式かけ算』を使うと97*78を解くのに240個もの交点を数える必要があるがこの計算方法を使うと数える交点の数は20個で済む。ほんの少しだけ計算は面倒になるが単純に比較すれば労力は十分の一以下になる。ほんの少しの工夫で計算がかなり楽になるのに『日本式かけ算』にこの計算方法が取り入れられなかったことを考えると古代インドには二色ボールペンが普及していなかったのだと思われる。

最後

897×281

一応もう少し大きい数字で計算してみた。これは(1000-103)×(301-20)と考える。ちゃんと合っていたが繰り上がりには注意が必要そうだ。

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問題はいつこの方法で計算をするかということだ。学校のテストでは赤ペンを使うことは恐らく禁止されているだろうしテスト以外の場面では二色ボールペンよりもスマホを持っている可能性の方がよっぽど高いしスマホを使った方がだいぶ早い。それでももしタイムスリップして古代のインドに飛ばされたら新しい計算法として自慢できるかもしれないので覚えておいて損はないだろう。少なくとも電池の切れた懐中電灯、湿気たマッチとラジオとタネを忘れたマジックを持って古代に行ったのび太よりは歓迎されるはずだ。

REFERENCE:

Check Out The Simple Way Japanese Kids Learn Multiplication | IFLScience

Check Out The Simple Way Japanese Kids Learn Multiplication | IFLScience

http://www.iflscience.com/editors-blog/check-out-simple-way-japanese-kids-learn-multiplication