近年のテクノロジーの向上は、まさに目を見張るものがあります。たとえば多くの人が日頃より使っているであろうスマートフォンは、かつては生活に不可欠だったものを、私たちから手放させることになりました。記者も例外ではなく、いまやスケジュール帳を紙で持ち歩くことはありません。

もっとも、テクノロジーに取って代わられるのは、私たちが使っている『もの』だけではありません。人件費を削減するという名目のもと、さまざまな労働力はロボットに取って代わられているでしょう。テクノロジーの向上によって雇用機会が失われているという見方は、いまや強い説得力をもつものです。

では、テクノロジーが労働の現場にあらわれるようになって以来、私たちの雇用はどのように変化してきたのでしょうか? このたびイギリスで、過去140年間にわたる調査がおこなわれました。

Study of census results in England and Wales since 1871 finds rise of machines has been a job creator rather than making working humans obsolete

ホテルコンシェルジュ

メインスタッフをロボットが務める「変なホテル」。写真は英語を話す恐竜型ロボット……ってもはやよくわからない。

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産経フォト

アンドロイド演劇

俳優すらテクノロジーで代替できるようになる?

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青年団

イギリスの調査より

イギリスを発祥とするコンサルティング会社『デロイト・トウシュ・トーマツ』は、1871年以降の国勢調査をもとに、テクノロジーの向上と雇用の関係を新たに捉えようとしています。

これまで、テクノロジーと雇用の関係が分析される際、その議論は、テクノロジーのメリットではなく、むしろデメリットばかりに注目してきました。今回の調査ではその経緯がふまえられているようで、リーダーのイアン・スチュワート氏も「過去の雇用の数字を検証することは、よりバランスの取れた分析をもたらす」と述べています。

減った雇用

しかし結論からいって、テクノロジーの向上は、農業と製造業における雇用に直接的なダメージを与えていました。こういった分野では、テクノロジーを労働の現場に持ち込むことが、生産性を高めることにそのままつながったのです。

農業

最初にテクノロジーの悪影響がみられた分野。1871年、イングランドとウェールズの労働者人口の6.6%が従事していたが、2011年にはなんと0.2%まで下落している。

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the guardian

また、テクノロジーの向上は、一般家庭に安価かつ優れた電化製品の導入をもたらしました。たとえば自動洗濯機が普及するにつれて、かつては多くの人手が必要とされた『洗濯』も、その雇用機会を減らすこととなっています。ほかにも織物工業、タイピスト、秘書といった仕事は、過去140年間で、その従事者数を5~8割減らしてきました。

タイピスト

タイプライターを使用し、手書き文書の清書や口述筆記を行う仕事。

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増えた雇用

その一方で、今回の調査は、雇用における『ある歴史的転換』を明らかにしたといってよいでしょう。いわゆる肉体労働者がその数を減らしている一方で、医療や教育、他者へのサービス提供を主とした分野では雇用が増加しているというのです。

イギリスでは、過去およそ20年間で、看護助手の数が実に9倍以上にも増加しました。統計によると、1992年に29,743人だった従事者数は、2014年には300,201人にまで増えています。ほかにも教師やそのアシスタントはおよそ6倍、福祉や住宅などの分野で地域に密着して働く者は約1.8倍、介護分野では約1.6倍となっているのです。

会計士も約20倍に

通信分野のめざましい発達は、自らの知識をもとに働く者たちの労働機会を広げた。

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もちろん、医療・教育・福祉といった分野において、テクノロジーの向上が雇用機械を実際に生み出してきたわけではありません。むしろ、様々な社会情勢のもとに雇用状況は変わってきたはずで、むしろそういった分野ではテクノロジーによって雇用が奪われなかった、といったほうが適切でしょう。

単純な肉体労働、単純な知的労働ほど、マンパワーはテクノロジーにかんたんに取って代わられてしまう傾向があります。しかし、その一方で、基本的な『動き』それ自体は単純であっても、そこに思いやりや気遣い、すなわち人間の『機微』なるものが大きくかかわる分野では、まだその仕事を人間が担うべきだと判断されることが多いようです。

やっぱり人間に診てもらいたい?

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もっとも、テクノロジーの向上は今後も止まりそうにありません。いずれ人間の『機微』すら織り込んだロボットが現れれば、いま人間が行っている仕事も、あっけなく彼らに取って代わられることでしょう。現に、『デロイト・トウシュ・トーマツ』が昨年実施した調査によれば、イギリスにおける既存の仕事の35%は、今後20年以内にすべて自動化される可能性があるというのです。

かつて1810年代の産業革命時に、イギリスでは、機械の普及による失業をおそれた労働者たちが機械を破壊するという動きがありました(ラッダイト運動)。いわば『打ちこわし』ですが、かつてのそのような抵抗もむなしく、現在の私たちは機械による便利さや効率を享受しているでしょう。そう遠くない未来、産業革命と同じような大転換が、私たちの身に降りかかってくるのかもしれません。

ラッダイト運動

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strange behaviors

テクノロジーに仕事を奪われるのが嫌なら、そんなもの導入しなければいい、という単純な話ならよいのですが、もちろんそういうわけにはいきません。雇用主には人件費を削るメリットがあり、さらに上の階層の者には、機械化を促進するメリットがある……。それに抗う手段は、言いかえれば、本当の意味で『私にしかできない仕事』などというものはこの世に存在するのか? そろそろ疑い直さなければならないのかもしれません。

REFERENCE:

Technology has created more jobs than it has destroyed, says 140 years of data