普段意識することはあまりないですが、地質は地震や地すべり、地盤沈下など多くの災害と密接に関わっています。これらの被害を未然に防いだり、最小限に食い止める上で重要なのが地質調査です。その方法としては地面に円筒状の穴を開けて掘採した土からデータを採取するボーリング調査が有名ですが、地震などの振動を標本対象とするものもあります。

通常、この調査は郊外で行なわれます。都市群は常におびただしい数の乗り物が行き交い、地面を揺らしていることから観測地としては不向きだとされているからです。ところが近年ではこれを否定する説が出てきており、それどころか都市のノイズは地震に代わる有効なサンプルになり得るものだという見方まで現れました。

ボーリングマシン

地質調査のほか、油田の掘削などに使用される大規模なものもある。

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東邦地下工機株式会社

Researchers are tuning in to urban seismic noise, the man-made signals from human activity, to view geologic structures and track the rhythms of cities.

地震波を用いた地質調査

揺れをサンプルとした地質の調査は『地震波トモグラフィー』と呼ばれる技術で行なわれます。トモグラフィーとは断層写真の意で、身近なものではCTスキャン(Computed Tomography Scan)の名にも含まれています。地震波トモグラフィーは地震や人為的な爆発(人工地震)による地震波の伝播速度を基にして地層の種類や温度、構造を分析します。

地震波トモグラフィー

震源から観測点へ直進する地震波だけでなく、地表やプレートで反射した波を分析することで広範囲をカバーできる。また高温部より低温部の方が速く地震波を伝達し、100℃の違いでおよそ1%の速度差が生じる。

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Yu Hirayama

CTスキャン

対象に放射したX線の減衰によって内部の密度を三次元画像化する。

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Hyper-Textbook: Optimization Models and Applications

しかし自然地震の場合は発生のタイミングが不確定であること、ダイナマイトなどを使う人工地震はコストがかかることから頻繁に実施できないといった難点がありました。

安定かつローコストな測定

そこで、膨大な通行量を持ち、データの比較もしやすい都市群の車や電車による揺れが注目され始めました。電車は通過する時間が決まっているため揺れの発生時間が特定しやすく、他の地震波との区別が容易な上、地下鉄に至っては地下を通る乗り物が他に無いため、より正確に揺れをキャッチできます。ニューヨークのコーネル大学で地質学を研究するラリー・ブラウン教授は、これら都市群のノイズをサンプルに地質の調査が可能か確認するため、幾度か実験を行ないました。

最初の調査は、コーネル近くの高速道路の一筋で行なわれました。調査対象は車が通過する際の揺れです。結果、車が通ることによって起こる揺れ、そのサインとなるP波(初期微動)の観測に成功しました。車の揺れにもその前兆が存在し、実際に測定することが可能だと判明したのです。

地震波トモグラフィー(都市群のノイズ予想図)

都市には地上に多くの震源がある

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Yu Hirayama

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次の実験はニューメキシコ州のリオグランデ地溝帯で、北米最大級の貨物ネットワークであるBSNF鉄道の揺れが生み出す表面波を観測しました。表面波は地中を進む地震波に対して地上を伝わるタイプで、比較的浅い地層を調査するサンプルとなります。その結果、対照実験として同時に行った従来の自然地震による調査よりも正確に地層構造を推定することができました。現時点では従来よりも狭い間隔で観測点を設置する必要があるという課題はありますが、それでも人工地震より遥かに低コストです。

ノイズからシグナルへ


地質調査以外にもこの都市群の揺れを使うアイデアが出ており、以下がその一例です。

“By recording vibrations via geophones spaced roughly every 100 meters (300 feet), we were able to look into activity in Long Beach with a resolution below a typical city block,” said Riahi.

研究者のNima Riahi博士はジオフォンと呼ばれる小型の地震計をアメリカのロングビーチ市に100メートル間隔で設置。地下鉄のスケジュールをトレースできたと報告しています。

この技術を応用すれば、渋滞の緩和や交通量によるマーケティングに活用できるかもしれません。例えば人間が目視で行なっている交通量調査も、振動をサンプルとして走行する車両の数と大きさを調べることができれば、正確性の向上に加え人員コストの削減にも繋がるでしょう。

「今日はやけに揺れるなあ。」

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かつては調査時にノイズとなった揺れ、それ自体をサンプルとする逆転の発想は地震による被害が真っ先に懸念される都市群の防災に貢献する素材として拾われると同時に、都市の現在を知らせる信号としての可能性も開かれました。その瞬間、ノイズ、不要なものを意味するそれは一転して価値あるシグナルとして生まれ変わったのです。

REFERENCE:

地震波が伝える地球内部構造

地震波が伝える地球内部構造

http://pdf.landfaller.net/55/55-2.pdf