科学というものはその発展と共に人々の生活を豊かにし、人々を救ってきました。しかし、それと同時に科学は、特に特定の宗教を信じる人にとって、たとえばガリレオの地動説のように、残酷な働きをすることがあります。そしてその科学による侵略はついに人の心にまで踏み込もうとしています。

先日、イタリアのウーディネ大学のクリスティアーノ・クレセンティーニ氏によってある実験が行われました。まず彼は14人のカトリック信者にImplicit Association Test (IAT)と呼ばれるテストを行いました。

Implicit Association Test (IAT)
画面上の左右に『良い』『悪い』というカテゴリと比較したい二つのカテゴリ(今回でいえば『宗教的』『非宗教的』)を同じように左右に並べ、画面上の中央に出てきた単語(素晴らしい、ひどい、魂、無神論など)が左右のどちらのカテゴリに属するか素早く選択させることで、潜在的にどちらに対して良い感情を抱いているかを明らかにすることを目的としたテスト。日本語でも以下のサイトでテストを受けることができる。 – IATテスト ホームページ

IATの日本語テスト

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IATテスト ホームページ

このテストを行ってもらった後に、クリスティアーノ氏は被験者らの右側の下頭頂小葉を電磁波によって刺激し活性化させ、それから再びIATを行ってもらったところ、下頭頂小葉が活性化することで潜在的な信仰心が減退することがわかりました。

脳の一部を活性化させることで信仰心が弱まるというのは非常に衝撃的な話ですが、何か引っかかる部分の多い実験です。まず被験者が14人というのはかなり心許ない数字に見えますし、潜在的な信仰心の変化がIATによって決定される、というのもなんとなく納得がいきません。実際、このIATは倫理性を刺激するものということもあるのか、その正当性を疑問視する声が非常に多く挙がってます。

たしかに『お前は表ではいい顔をしているが潜在的には差別的だ』と言われれば良い気分はしないし、正当性を疑いたくもなる。

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このような疑問に対してクリスティアーノ氏も自分の実験が非常に制約された条件の基で行われたものであることを認めています。

しかし、潜在的な信仰心が減退しているかはともかくとして、電磁波によってIATの結果が変わったというのは、14人という数字は信用しがたいですが、事実のようです。どうしてこのようなことが起きるのか考えてみましょう。

下頭頂小葉

まず、今回、活性化された下頭頂小葉とはどのようなものなのでしょう。

下頭頂小葉は後頭葉の上部、前頭葉の後部にある頭頂葉の、それまた頭頂間溝の水平部分の下、中心後溝下部の後部に位置する脳の一部です。

下頭頂小葉は視覚情報・言語情報・聴覚情報などの連合処理を行うとされており、損傷すると方向性注意などを引き起こすことも知られています。

下頭頂小葉(黄色部)

かのアルバート・アインシュタインは下頭頂小葉が非常に大きかったことが彼の死体を解剖した結果から明らかになっている。

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下頭頂小葉 – Wikipedia

下頭頂小葉が視覚や言語情報の統合処理に関わるならば、この部位が刺激されたことで単純に視覚と言語に関わる処理の速度が上昇し、潜在的な信仰心とは関係なく、ただ単にIATの結果が変わっただけという方が自然に受け止められる話です。

やはり信仰心は科学によって揺るぐことはない、といいたいところですが、実は既に信仰心と脳、しかも頭頂葉との関係はこれだけにはおさまりません。

脳が神の幻を見せる?

まず、頭頂葉の機能が低下するとどのようなことが起きるのかを見てみましょう。

2010年の研究によると、側頭葉や頭頂葉にガンを持つ患者は前頭葉にガンを持つ患者よりも『寝食を忘れて何かに没頭してしまう傾向があるか』『他人や自然物に対して、強い精神的つながりを感じることがあるか』などといった自己超越性の高い質問に対して肯定を示す割合が高く、さらに詳細に解析した結果、後部頭頂葉にその傾向の主な原因があることが判明しています。ちなみに先ほどの下頭頂小葉はこの後部頭頂葉に含まれます。なので、後部頭頂葉にガンを持った人は視覚情報・言語情報・聴覚情報などの連合処理を行う力が非常に弱まっているといえます。

さて、そんな頭頂葉と信仰心にどのような関係があるのか。1993年にペンシルバニア大学のアンドリュー・ニューバーグ氏とユージーン・ダギリ氏の調査によって、瞑想中のチベット仏教徒と祈りを捧げるフランシスコ修道会の修道女は、両者共に上頭頂葉後部の活動が低下していることを発見しました。上頭頂葉後部もまた、言語情報や視覚情報の連合処理に関わる部位であるとされています。

祈りは脳の機能を低下させる。

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キリスト教や仏教において、神と同一になること、あるいはあらゆる場所に神を感じることは非常に重要なこととされています。たとえば仏教的でいえばブラフマン(個)がアートマン(全)であることを自覚する、というようなものです。

そして、後部頭頂葉の機能が低下している人は『他人や自然物に対して、強い精神的つながりを感じる』傾向があることがわかっている、ということを先ほど述べましたが、この症状は『あらゆる場所に神を感じる』ことと奇妙なほどに似ています。

後部頭頂葉の機能の低下は『神との融合』した気分を高めるかもしれない。

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このことが意味するものは、誰にもわかりません。祈ることで後部頭頂葉の機能が低下し、他人や自然物に対して強い精神的つながりを感じるようになり、それを神を近くに感じると錯覚しているのか、祈りを捧げることで本当に神を近くに感じる力が上がるのか、それとも、神が祈りを捧げた人の後部頭頂葉の機能を低下させているのかもしれません。

一つ言えることは頭頂葉の機能の低下が神の幻を見させる可能性がある、ということです。なので、頭頂葉の機能が低い状態で神を見た、あるいは感じたとしても、それが幻なのか本物なのかを判断することはできません。しかし幸いにも今回の実験のように現在は電磁波によって一時的にではありますが脳の機能を活性化させることができます。そのような、幻との繋がりを断ち切った時、初めて私たちは神の存在をたしかに感じることができるようになるのかもしれません。

まぁとはいってもキリスト教では神の行いを疑うことさえ推奨されないことなのだが。

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REFERENCE:

Tweaking your brain with magnets makes you LESS religious: Magnetic pulses increase non-spiritual reasoning, study claims | Daily Mail Online

Tweaking your brain with magnets makes you LESS religious: Magnetic pulses increase non-spiritual reasoning, study claims | Daily Mail Online

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3093098/Tweaking-brain-magnets-makes-religious-Magnetic-pulses-increases-non-spiritual-reasoning-study-claims.html?ITO=1490&ns_mchannel=rss&ns_campaign=1490

頭頂葉 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E9%A0%82%E8%91%89

下頭頂小葉 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%A0%AD%E9%A0%82%E5%B0%8F%E8%91%89

レジュメ:村田哲「脳の中にある身体」

http://www.geocities.jp/body_of_knowledge/r15_murata.html

認知科学のすすめ (2)

http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hijiyama-u/detail/1154820130214052655;jsessionid=A15435256DF02CB43A4702EF3990F3F8

http://www.blog.crn.or.jp/report/04/53.html

40. アインシュタインの脳は何が違った? – 論文・レポート

http://www.blog.crn.or.jp/report/04/53.html

『「人間」をめぐる「幽霊」の話』槙本 有吾,文芸社 (2006)

脳に神の御座みつかる? – サイエンスあれこれ

http://blog.livedoor.jp/science_q/archives/1048473.html