多くの人にとっては残念なお知らせかもしれません。アメよりムチが有効なことが実験により明らかになったのです。逆に、これからもビシバシしごいていこう、と喜んでいる教師や上司の方々もいるかもしれませんが、この研究を行ったジャン・クバネク氏はウェブサイト内で今回の研究結果に対して『この研究結果の取り扱いには十分注意するように』つまり『変に真に受けて罰ばかり与えないように』というようなことを述べています。その結論は一旦置いておいて、もう少しだけお付き合い願います。

Dr Jan Kubanek, a neurobiologist at Washington University’s school of medicine who led the study, said: ‘Regarding teaching strategies, our study suggests that negative feedback may be more effective than positive feedback at modifying behaviour.

実験方法

クバネク氏は二つのテストを被験者に行わせました。一つ目は被験者にイヤホンを付けさせ、クリックノイズ(イヤホンジャックなどを抜いた時に鳴る「プツッ」という音)を聴かせました。クリックノイズは一回につき右か左、どちらか一方からしか鳴りません。何度も鳴らして、最後に右と左のどちらからより多くノイズが聴こえたかを選んでもらいます。これを何度も繰り返します。

実験方法の説明画像

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©Jan Kubanek/Cognition

もう一つは画面の右側と左側から短いフラッシュを何度か焚いて、どちら側の方がより多く発光したかを選んでもらうという一つ目とほとんど同じような実験です。

二つの実験は共通して、正解をすれば5、10、15、20、25セントの報酬がランダムで与えられ、不正解であれば逆に5から25セントのお金を取られてしまいます。また、左右の音が鳴る、あるいは光る数はほとんど同じで、正解を選ぶのはかなり難しいようです。

罰は厳しくしても意味がない

この実験を行ったところ、前の問題で正解をして報酬をもらった人は次の問題でも前と同じ解答を選ぶ傾向があることがわかりました。『さっき右で正解したから今回も右だろう』という心理が働いたのでしょうか。しかも、同じ解答をする確率は報酬が高くなればなるほど上がったようです。5セントならあまり心は動かされないけど25セントなら心が動かされるということでしょうか。

逆に前の問題で不正解を選ぶと、前と同じ解答を避ける傾向があることがわかりました。『さっき右で不正解だったから今度は左にしよう』ということでしょう。しかし、不正解の時は失ったのが5セントであろうと25セントであろうと、前と違う解答をする確率はほとんど同じでした。5セントであろうと25セントであろうとお金が取られるのは同じくらい嫌、ということでしょう。

つまり、報酬は多ければ多いほど効果があるけれど、罰は大きかろうと小さかろうと効果は変わらない、ということがわかったのです。

実験結果

縦軸が同じ解答をする確率で、横軸がもらった、あるいは失った金額。青字が前の問題で報酬をもらった時で赤字は失った時。青字が見事な正比例を描いていることがわかる。報酬が200セントだとどうなるのか少し気になる。

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NeuralGate

図を見ると、たしかに平均すればこの実験では報酬より罰の方が効果的であることがわかりますが、25セントを与えられた時に次も同じ解答を選ぶ確率は5セントを奪われた後に違う解答をする確率はほぼ同じですから、良いことをした時は報酬をたんまりあげて、悪いことをした時はほんのちょっとだけ罰を与えると良い、という結果とも見ることができます。

「コラッ」とちょっと怒るだけでも充分な効果がある

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正解率が上がるわけではない

しかしこの実験、前に正解をしたら次も同じ解答、前に不正解だったら次は違う解答をする傾向がわかったというだけで、正解をしやすくなるとは一言も言っていません。正解か不正解かどうかは置いておいて、ミスをしたらとりあえず前と同じことをせず、報酬をもらえば前と同じことをしてしまいがち、ということです。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。

これに対してクバネク氏は『進化の過程で人は危険からなるべく避けるようになったから(逆に報酬があまり効果をもたらさないのは危険にさらされるわけではないから)』ではないかというようなことを述べています。

たしかに一度痛い目を見たものにはなるべく近づきたくないものです。今回の実験ではあまり意味を為さなかったようですが、そう言われるとたしかに説得力があり必要な機能に思えます。

その薬、苦いからいらない!

薬を飲めば楽になるのに、苦いという不快を避けるために薬を飲みたがらないのは、そういうわけかも。

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重い罰に意味がないとしたら……

今回の実験によって罰は重くしても効果に変化はないということがわかったわけですが、そうなると犯罪を行った時の罰はどうなるのでしょうか。重い罰も軽い罰も同じだけの効果であるのなら、わざわざ重い罰を用意する必要はありません。全て軽い罰に一律化してしてもよいのではないでしょうか。ポイ捨てをしても人を殺しても罰金500円。実験の結果に基づいた提案なのですが、どうにも納得がいきません。なぜでしょう。

本当にそうなったら裁判所が500円だらけになりそうだ。

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それは罰の意味と目的は『再犯を防止する』だけではないからです。罰の意味と目的は他にも

抑止
社会規範の表出(価値の再確認 =「社会が何を許さないか」という蓄積されてきた価値の確認)
被害者及び社会の感情的修復(応報 )
社会的結束・動員のツール(共通の敵をつくることによる親和)(スケープゴート、厄払い、バッシング)
祝祭 (秩序の文化人類学的再生産)(公開処刑、ワイドショー)

などがあるとされています。

最後のはちょっと、という気がしますが、たしかに自分の家族が殺されたにも関わらず犯人が500円払っただけで許されていたら納得がいきませんし、三日前に人を殺した人が普通に街をウロウロしていたら恐ろしいですよね。それに、500円の罰程度であれば人を殺したって構わない、と思う人もいるかもしれません。

意思を持っていて行動の自由がある人の行為には必ず責任が生じます。その行為がなんらか、法的であれなんであれ、過ちであったり他人に害を与えたりした場合には、それ相応の責任を取らなければなりません。そしてその責任が行為によって重くも軽くもあることが、逆説的ではありますが私たちが自由であるという証拠なのです。効果が変わらないとはいえ、やはり、罪を犯した時はそれ相応の罰を受ける必要がありそうです。

『もう授業中にメールはしませんもう授業中に……』

とはいえこのような罰は早々になくなってほしいものだ。

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REFERENCE:

Reward and punishment act as distinct factors in guiding behavior

Reward and punishment act as distinct factors in guiding behavior

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027715000475

Why the naughty step works: Punishment is better than reward at changing behaviour, psychologists claims | Daily Mail Online

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3073535/Why-naughty-step-works-Punishment-better-reward-changing-behaviour-psychologists-claims.html?ITO=1490&ns_mchannel=rss&ns_campaign=1490

Punishment Sometimes Guides Behavior Better Than Rewards | Psych Central News

http://psychcentral.com/news/2015/05/10/new-study-finds-punishment-guides-behavior-better-than-rewards/84438.html

NeuralGate

http://www.neuralgate.org/

刑罰 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/刑罰