1月上旬、アメリカはニューメキシコ州のレジャー村Red Riverにおいて、満天を輝かせる神々しい光景が観測されました。それは複数の光学現象がまるであふれ出るように、同時に発生したものでした。

とにかくいっせいに来られたものですから、一見何がどうなっているのか把握しきれません。まずは1つ1つの現象について見ていきましょう。

氷晶の雲

6km以上の上空はるかに漂う雲、上層雲は『氷晶』と呼ばれる小さな氷の結晶で構成されています。氷晶の大きさは様々ですが多くは六角柱の形状をしています。

六角柱

六角形の底面と四角形の側面。
霜もこういった形をしている。

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この氷晶を太陽光線が通り抜けるとき、反射や屈折を経て様々な方向に向きが変わります。進路変更された光線が私達の目に入る事で、本来何もないはずの場所に光が見られる事があります。これが光学現象として観測されているものの正体です。

氷晶で屈折する光

光がやってくる方向の空が光っているように見える。

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また氷晶はその方向の条件が変わる事で太陽光の向きをあちらこちらに変えていきます。その結果、多彩な光学現象が生まれるのです。

・縦か横か
・各面が地面に対して水平か垂直か
・向きが揃っているかバラバラか
・動いているか静かか
・長いか短いか

代表的なもののうちの1つは見た事があるかもしれません。太陽周りに現れる光の輪。『暈(かさ)』『ハロ』とよばれているものです。

ハロ(halo)

内暈(ないうん)22°ハロ

くっきり広がるリング。

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Pranav Yaddanapudi

太陽の光が本来の位置に比べ、広がったように見えています。
太陽周辺、視半径22°のサイズで現れたこのリングを『内暈』『22°ハロ』と呼びます。

視半径

角度で表した天体の見かけ上の半径。太陽の視半径は0.53°

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上空に散らばる氷晶は、通常ランダムな状態でバラバラな方向を向いています。太陽光線はこの氷晶の六角柱側面から入射して屈折し、二個隣の側面から出て行くときもう一回屈折して、通り抜けていきます。

六角柱の側面から一個飛ばしの側面へ、二回屈折。

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このときほとんどの光が22°屈折して進みます。そのため、視半径22°ラインから届く光が観測者に最も集まる事になり22°のハロ、内暈を形作るのです。

22°屈折した光が集まってくる。

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入射した光と氷晶の角度が変わると屈折する角度も変わってくるので、照らす範囲は22°から50°までの幅があります。私達が見た事のあるハロのほとんどを、この内暈が占めています。

外暈(がいうん)46°ハロ

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さらに広がるリング。

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Igor Krivokon

氷晶を通る光線の経路は他にもあります。その1つが、六角柱の底面から光が入射して側面から出て行くパターンです。

六角柱の底面から入り側面へ、二回屈折。

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このとき内暈の22°より大きな角度、46°以上の屈折が生じます。その結果私達の目には、より太陽の位置から遠くずれた大きなリングが映し出されます。
この輪を『外暈』といいます。視半径が46°である事から『46°ハロ』ともよばれます。外暈は内暈に比べて稀な光学現象です。

また氷晶は六角柱以外にも、二十面体のピラミッド型で形成される事もあります。この時、光は様々な経路で屈折してそれぞれ9°、18°、20°、23°、24°、35°のハロが現れるのですが、重ねて稀な現象である上に運よく見られたとしても、光が少ないために非常にぼんやりとしたものになります。

二十面体ピラミッド型氷晶

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さらに、上空で多くの氷晶が舞っているような暈が出現するタイミングにおいて、その周辺で別の光学現象が見られる事があります。

幻日(sundog)

左右に1つずつ。

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Stevesworldofphotos

太陽と同じ高度に観測される光の塊です。まるで太陽が複製されたように見える事から『幻日』と名付けられました。視半径22°のラインで最も強い光を放ち、そこから外側にはみ出るようにして映し出されます。内暈と同じ22°。そう、この現象も内暈と同様に六角柱の側面から二個隣の側面を通る光の屈折、によって引き起こされているのです。

しかし内暈を作る氷晶とは、異なっている点があります。それは氷晶の並びです。氷晶の中でも薄い氷晶をプレート氷晶とよびます。プレート氷晶は上空に吹く風に合わせてその向きを変えていくのですが、風が弱まると重力を受けて自然落下します。落下時に空気抵抗を受ける事で氷晶の六角形が地面に対して水平に揃い、同じ方向に屈折した光を集めます。

水平に並ぶプレート氷晶

水平に並ぶプレート氷晶

空気抵抗によってプレート氷晶の底面が水平に並ぶ。

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この光を観測したものが幻日です。

また氷晶の表面で太陽光を反射する事によって発生する現象もあります。

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太陽柱(sun pillar)

ビーム。

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Rachel Kramer

日の出、日の入り時に地平に対して垂直上下に貫かれる太陽の虚像です。
プレート氷晶の底面が太陽の光を反射する事によって観測されます。

たゆたう氷晶。

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ただこのとき氷晶は静かに定まらず、常に揺れ動いているために広い範囲にわたってぶれながら観測者へ光を送ることになり、縦に長く伸びた形状になります。
この仕組みは波打って揺れる海面や川面に映る太陽が、こちらにまっすぐ伸びてくる光景と同じ道理です。

上下反転させた日没の海

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Les Chatfield

幻日環(parhelic circle)

ぐるっと360°広がるリング。

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Kjell Olsen

太陽と同じ高度で全天に広がる光の輪です。これも反射による光学現象ですが太陽柱と異なるのは、地面に垂直な氷晶面が太陽光を反射している事です。

同じ角度に現れる。

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直立した鏡にぐるりと一周取り囲まれているようなイメージを持つと分かりやすいかもしれません。

最後に3種のアークです。極めて起こりにくい光学現象で、その弓なりの軌跡を見た人は強運に魅入られていると言わざるを得ません。

タンジェントアーク(tangent arc)

内暈の上に乗っている、ゆるいV字の光。

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Ruth Hartnup

太陽高度が低い時に、内暈の上下に外接するように現れる光学現象です。太陽の高度によって形を変えていく特徴を持っています。

上部タンジェントアークはV字、またはひしゃげたM字型、下部タンジェントアークは上に尖った角の形をしています。タンジェントアークは太陽高度が低いときにしか出現しないために、下部タンジェントアークはめったに見られません。
仕組みは内暈や幻日と同様に、六角柱の側面から側面への屈折です。やはり空気抵抗によって垂直に揃ったときのみ起こります。

パリーアーク(Parry arc)

タンジェントアークの上、一番上の山なりライン。

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Brocken Inaglory

内暈に接するタンジェントアークにさらに接する光の弧です。

位置の上下に加え、太陽に向かって凸の形をとるサンベックス(sunvex)型と凹の形をとるサンケーブ(suncave)型の2種類があります。画像はサンケーブ型です。氷晶の二つの底面が地面に垂直でかつ、側面が地面に対して水平になった時にだけ現れる現象です。非常に珍しく、数年の間ずっと空を眺めていても一回見られるかどうかです。

太陽アーク(heliac arc)

もうレア過ぎて図示しかできない。画像を見つけられませんでした。

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太陽の真ん中で交差し、天頂でぐるりと輪を描くアークです。地平と水平に六角柱の側面が揃ったときに、側面で反射する事によって現れます。

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どうなったらこんな状況が生まれるのか、詳しい事は分かっていません。とんでもなく希有である事は確かです。

さてあらかた出揃いました。改めてもう一度最初の写真を見てみましょう。

中央地平すれすれに太陽、そこから上に太陽柱、取り囲むように内暈、内暈の右に接する幻日、上に接するタンジェントアーク、さらにその上にパリーアーク、しかもサンベックス型とサンケーブ型両方、そしてそれら全てを取り囲むように外暈がかかり、太陽の左右から太陽アーク、幻日の左右から幻日環がうっすらと伸びています。

ああ……はたしてこれは現実の光景なのでしょうか。
きっと確かに現実のはずです。前述したような条件を全て同時に満たしてさえいれば起こりうる事ではあるのです。そして、そうした極めて起こりがたい出来事を前に私達がつぶやく言葉はもう、決まっているのでした。

ありがたや……

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National Geographic

REFERENCE:

‘Heavenly’ Ice Halos Form Over New Mexico—What Causes Them?

‘Heavenly’ Ice Halos Form Over New Mexico—What Causes Them?

http://news.nationalgeographic.com/news/2015/01/150114-ice-halo-weird-weather-phenomena-science/