休みの前日の夜更かし、徹夜での仕事、海外への長時間フライト。いわゆる『生活リズム』、もっといえば睡眠のリズムは、ひょんなことからズレはじめ、そのくせなかなか戻らないものです。一度ズレたリズムを修正するため、しょっちゅう苦労されている方も多かろうと思います。何を隠そう、記者もそのひとりです。

Over the years, scientists have slowly been piecing together the components of our “biological clocks” that drive these rhythms, and we now have a pretty good understanding of how they are coordinated. Now, scientists have discovered what is effectively a “reset button” in mice, which could eventually help researchers develop novel treatments that correct mismatches between the environment and our internal body clocks.

概日リズム

人間に限らず、ほとんどの生物は概日(がいじつ)リズムを持っています。これは約24時間11分周期(ね1)で変動する生理現象で、体内時計で管理されているものです。

睡眠や食事なども、人間はこの概日リズムに従っています。地球の1日の周期が24時間なのに対して概日リズムは少しズレていますが、これは生物が日光や食事などの刺激を受けることで修正されています。

学校や会社など社会活動も大事な刺激。

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しかし睡眠のリズムは、油断すると容赦なく狂っていきます。気づいたら昼夜が逆転していたり、本当に寝たい時間に眠れなくなっていた経験がある人も少なくないでしょう。リズムの乱れが長期化すると、内臓疾患やうつ病など、体調悪化のリスクが高まるともいいます。

直せるものならすぐ直したい。

眠れない夜のスマホは敵。

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時計を直す実験

朗報が飛び込んできました。アメリカ・ヴァンダービルト大学で行われた研究の結果、生物の体内時計にリセットボタンが見つかったというのです。

人体のマスタークロック

私たちの概日リズムは、全身のどの部位の細胞も持っているものだといわれています。しかし、個々の細胞のリズムは同期しているわけではありません。そこで、それらを同期させ維持する、いわば『マスタークロック』が必要になるのです。

私たちの『マスタークロック』は、脳内の視床下部にある神経細胞の束、視交叉上核(しこうさじょうかく)です。この部位の細胞は、脳から取り出しても1年以上正確なリズムを刻み続けるといいます。末梢の細胞がそのリズムを数日で失うことから、この視交叉上核が『体内時計』をすべて調整し、維持しているのだと考えられています。

ただし、細胞の発火が体内時計に与える影響はわかっていなかった。

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ねむりラボ

今回の実験は、人間とほぼ同じ体内時計を持つように操作された、2種類のマウスを用いて行われました。マウスの視交叉上核、つまり『マスタークロック』の神経を、レーザーと光ファイバーで刺激したのです。

マウス

人じゃないのか……。

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Pet Attack

光ファイバー

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光遺伝学

この実験には、光遺伝学(オプトジェネティクス)という技術が利用されています。遺伝子を操作し、光で活性化するタンパク質を神経細胞に発現させることで、神経細胞自体の活動を光で制御できる技術です。

マウスの神経細胞には、光で活性化するタンパク質を発現させる遺伝子が含まれていました。片方のマウスは光を浴びると神経の動きが活発になり、またもう一方は、光を浴びると神経の動きが抑制されるようになっていたのです。

実験では、光を当てることで、マウスの昼夜の活動を再現するように神経活動の刺激・抑制が行われました。ダグラス・マクマホン教授いわく、その結果『動物の睡眠・覚醒のリズムを変更することができた』のだといいます。

つまり、『リセットボタン』と呼ばれていたのは、光で神経細胞の活動を操作することで乱れたリズムをリセットできる、ということなのです。これは確かにすごい発見かもしれません……が、神経をレーザーと光ファイバーで刺激するなんて自宅ではおいそれとできません。

実験に関わったマイケル・タッケンバーグ氏(中央)いわく『まだ人には使えない』。

ですよね。

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Research News @ Vanderbilt

なんとかリセットしたいんだ

神経を刺激することはできなくても、なんとか睡眠のリズムを元に戻したい、ガタガタになった生活を立て直したいものです。明日から、ひとりでもできるような方法はないものでしょうか。

食事でリセット

よく聞くのは、朝食をちゃんと摂ることで身体がきちんと動き出す、というものです。パン、ごはんなどの炭水化物や、果物を食べるのが一番良いといわれています。

しかし、朝食のために起きられるならリズムが狂ったりしないというのもまた真実でしょう。少しでも長く寝ていたい、という欲求に人はなかなか打ち勝つことができません。

そこであえてお薦めするのが『絶食』です。12〜16時間のあいだ何も食べないと、次に食べた時点を、身体は『一日のスタート』だと見なすのだといいます。ごはんを用意するのが面倒で早起きしなくなった……そんな方は、ぜひ前日のうちに翌朝食べるものを決めておいて、思い切って早く寝るのがいいでしょう。きっとお腹が空いて目が覚めます。

食べるにしろ食べないにしろ無理は禁物。

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鳴との門

睡眠でリセット

木を隠すなら森の中というわけではありませんが、睡眠のリズムを整えるなら睡眠で、という方法もあります。睡眠の質を高めることで、しっかり寝てしっかり起きる、というわけです。

たとえば、満腹で寝てしまった場合、身体が消化活動に集中するため睡眠の質が悪くなる、というのは有名な話です。

また、寝る前にアルコールやカフェインを摂るのも良くないと言われています。アルコールは寝つきを良くすると同時に、熟睡を妨げるものでもあるのです。またカフェインには覚醒作用があるため、できるだけ夜遅くの摂取は避けたほうがよいでしょう。

いろんな意味で危険な時ほど美味しい。

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キスログ

光でリセット

マウスの神経のように、私たちも光に刺激を受けてみるのがいいかもしれません。

たとえば暗い場所で眠くなるのは、睡眠ホルモンともいわれる『メラトニン』が暗くなると分泌されるためです。逆に、明るい場所では分泌が抑えられます。朝の時間帯にカーテンを開けて、日光を全身に浴びるのがよさそうです。

また安眠のためには、平日と休日で就寝・起床時間を変えず、休みの日もいつも通りに寝て起きるのが良いともいわれています。しかしやはり、それが簡単にできるなら苦労していない気もします……。

『もっと光を!』

ゲーテの最期の言葉といわれているが、実は部屋を明るくしてほしかっただけという説が有力。

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Wikipedia

もっと光を、なんとかして光を

睡眠ホルモンが光に左右されている以上、どうやら私たちがきちんと起きること、生活リズムを整えることは、光と切っても切れない関係にありそうです。これまで人間は、あの手この手で、なんとかして光を浴びようとしてきました。

“Litebook”

とにかく青く光るLEDパネル、“Litebook”です。机の上に置いておくことで、直視しなくても目に光が入ってくるというもので、毎日朝一番に15〜30分使用することで睡眠のリズムを改善するのに役立ちます。

こちらは“Litebook EDGE”。

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使用中。

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“Glo Pillow”

“Litebook”の、目に光を当ててしまうという発想を応用し、目覚まし機能付きの枕として登場したのが“Glo Pillow”です。けたたましい音の代わりに、設定時刻の45分前から枕がじわじわと青く光り出します。

LEDが内蔵されている。

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どういう感情なの?

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gizmag

“RE-TIMER”

やがて小型化が進み、とうとうメガネ型になってしまったのが“RE-TIMER”です。青色の光は目に悪いおそれがあるという研究結果から緑色の光を使用、またLEDも採用していません。1日に30〜50分、朝に使用すると就寝時間を早め、夕方に使用すると遅らせるのに効くといいます。

普段使っているメガネと併用可能。

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RE-TIMER

完全に近未来。

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Q8 ALL IN ONE

ここまでするならさっさとカーテンを開ければいいんじゃないかという気もしてきましたが、そんな中、おそるべき発想の転換によって誕生したのがこちらです。

“The Photon Space”

もはやカーテンすらない。

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The Photon Project

めんどくさいから日光浴びて全部解決といわんばかりの、考えすぎて逆に退化したようなプロジェクトですが、なんと300人の参加者を募って、4年間に渡る研究が今年から始まります。1年につき3週間、参加者はガラス張りの家(“The Photon Pod”)で実際に生活することになるようです。言葉を失います。

断熱設計、かつ放射線・紫外線・外部音を遮断する。

ガラスの透明度はスマホで変更できる。

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The Photon Project

“The Photon Pod”。

2013年に実物がロンドンに設置された。

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The Photon Project

ゆくゆくは4週間で建てられるようになる。

住みたいかどうかはさておき、ためしに数泊してみたい。

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The Photon Project

睡眠リズムとのあくなき戦い

そもそも、ズレてしまった生活リズムを『朝起きて夜に寝る』という形に戻すことは、自分の中に流れるリズムを、その外部のリズムに合わせることの最たる例なのかもしれません。個人の問題をひとまず差し置いて、『太陽が登ったら起き、沈んだら寝る』という形に生活を近づけていくことが大変じゃないわけがありません。

“The Photon Space”が提案する『ガラス張りの家で暮らす』という方法は極端なものですが、もともと生活リズムを正すことは、ある意味で生活環境を変えることにも等しいはずです。ひとりでやり切るには、あまりにも気力と体力を必要とします。しかし逆に言えば、自らの生活に適したものとして『睡眠リズムのズレ』を選択するという方法もあることでしょう。

毎日すごい数の人間が朝起きて夜寝ている。

よく考えるとすごい話。

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JAPANORAMA

レーザーと光ファイバーで、体内時計をリセットできる未来のことはまだわかりません。しかし私たちは、もうしばらく自らの睡眠リズムと戦いつづけることになりそうです。幸い、いろんな方法が用意されています。どうせなら楽しく挑戦して、そして眠るときは穏やかに眠りたいものです。

そっちは敵じゃない!

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REFERENCE:

Scientists Discover “Reset Button” For The Body’s Biological Clock

Scientists Discover “Reset Button” For The Body’s Biological Clock

http://www.iflscience.com/brain/scientists-discover-reset-button-bodys-biological-clock

New ‘reset’ button discovered for circadian clock

http://news.vanderbilt.edu/2015/02/new-reset-button-discovered-for-circadian-clock/

Scientists hit upon new reset button for biological clocks

http://www.gizmag.com/scientists-reset-button-biological-clock/35888/

概日リズム睡眠障害 | e-ヘルスネット

http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-007.html

概日リズム – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A6%82%E6%97%A5%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0

中枢時計の時間を見る

http://www.microscopy.or.jp/magazine/47_2/pdf/47-2-71.pdf

光で変わる!?脳科学

http://brainprogram.mext.go.jp/media/8/agolaposter_c.pdf

How to Naturally Reset Your Sleep Cycle in One Night

http://www.wisebread.com/how-to-naturally-reset-your-sleep-cycle-overnight

ストレスで眠れない?生活リズムと睡眠を整えるポイント|healthクリック

http://www.health.ne.jp/library/3000/w3000802.html

最期のことばの虚実 : ゲーテは死に際にほんとうに「もっと光を」と言ったか

http://www.seijo.ac.jp/pdf/faeco/kenkyu/140/140-nobuoka.pdf

LITEBOOK

http://www.litebook.com/

Simulated sunrise: the Glo Pillow concept

http://www.gizmag.com/glo-pillow-concept/9348/

RE-TIMER

http://re-timer.com/

The Photon Project

http://thephotonproject.org/