かつて日本には、大名や領主に仕えて秘密裏にスパイ活動や暗殺などを行っていた忍者という存在がいました。彼らは明治時代のはじまりとともにその役目を終えたといわれています。それから約150年、なんとイングランドで、その忍者を思わせる事件が発生しました。

イングランド・ウィンザー城で、とある日本人観光客がセキュリティを突破し、エリザベス女王邸にうっかり参上してしまったのです。むろん、笑いごとではありません。

Royal protection has been stepped up after armed police swooped on a tourist who breached the security cordon close to the Queen’s private apartments at Windsor Castle.

ウィンザー城

イングランドのウィンザーにある、イギリス王室所有の城。ロンドンからのアクセスもよく、多くの観光客で賑わう。現存する人が住める城としては最も大きく、約45,000平方メートルの床面積を持つ。女王エリザベス2世が週末に過ごす場所としても有名。

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ことの顛末

2015年2月12日、ウィンザー城に警報の音が鳴り響きました。公式諸間『ステート・アパートメント』にある、管理エリアの扉が開いたためです。

突然の警報に驚いた監視員と警官は、ただちに現場に急行しました。そこで彼らは、のんきに写真を撮っている日本人の男性を発見しています。警官たちは警告ののち、彼を取り押さえました。

日本人の男性は、宴に使われる『セント・ジョージ・ホール』や、エリザベス女王のプライベートルームにつながる大階段の近くに立っていたようです。プライベートルームまでは、階段を上って72メートルほどでした。

『ステート・アパートメント』

日頃は一般公開されているが、事件当日はたまたま公開停止されていた。

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男性は短時間の尋問ののち、危険人物ではないと判断されて解放されています。しかし事件の影響で、その日ウィンザー城では、訪問客のボディチェックが行われることになったようです。

なぜこの男性は、厳しいセキュリティを突破することができたのでしょうか?

女王エリザベス二世(1926-)

幸いその日は不在だった。

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女王旗

女王の滞在時には、城の『ラウンド・タワー』に掲げられる。

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その理由は簡単でした。事件当日、管理エリアの扉の鍵がうっかり開けっぱなしだったのです。またその扉は、人気スポット『メアリー女王のドールハウス』の入り口近くにありました。王室のスポークスマンも、「彼は城の順路をたどっているうちに、うっかり管理エリアに入ってしまった」のだろうと説明しています。

おそらく男性は、警官たちが現れたその瞬間も、自分が置かれていた状況を理解していなかったことでしょう。さながら忍者、本人すら気づかないほどに忍んでしまったその足取りを、写真で追ってみることにします。

オンライン現場検証

彼が『忍び込んだ』ルート。

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男性はウィンザー城に、他の訪問客と同様、正面エントランスから入っています。

直進すると駐車場。右手の小さな門がエントランス。

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エントランスを抜けると、『キャッスル・ヒル』と呼ばれる通りを進んでいくことになります。すると正面に、城の象徴ともいうべき『ラウンド・タワー』が見えてきます。

『キャッスル・ヒル』の風景

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ペンギンの足跡

『ラウンド・タワー』

事件当日は女王旗ではなく英国旗が掲げられていた。

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ここで一度、ウィンザー城を空中から眺めてみましょう。写真の、赤いピンが刺さっているところが『ラウンド・タワー』です。男性はその西側、弧を描いている道を通って城の内部へ進んでいったようです。

『ラウンド・タワー』の東側に広い中庭が広がっている。北の建物が『ステート・アパートメント』、東の建物が女王の私邸、南の建物が滞在者の宿泊施設(非公開)。

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弧を描く道を進む。城壁には銃撃のため穴が開いている。

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ペンギンの足跡

中庭には入ることができない。

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ペンギンの足跡

一般公開時、『ステート・アパートメント』には建物の北側(ノーステラス)から入ることができます。人気スポット『メアリー女王のドールハウス』の入り口も建物の北側にあるようで、男性もここまでは問題なく到着しています。

『メアリー女王のドールハウス』入場の行列

このあたりは間違えようがなさそう。

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『メアリー女王のドールハウス』

すべてが本物の精巧なコピーでできた、超緻密なミニチュア。電気も水道も通っているとか。

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しかし男性は『メアリー女王のドールハウス』に入場したあと、順路にはない扉を開けてしまいました。彼はその直後、警官たちによって取り押さえられています。よほど順路がわかりづらかったのか、それとも単なる出来心だったのか……。もはや、真相は闇の中です。

大階段から女王の私室まで

男性が発見されたのは、『セント・ジョージ・ホール』や女王のプライベートルームにつながる大階段のすぐ近くでした。警官たちの到着がもう少し遅ければ、彼はこんな風景を見ることができていたかもしれません。もっともこれらは、一般公開時には普通に見られる風景なのですが……。

大階段

これは上から見た写真。

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セント・ジョージ・ホール

女王のプライベートルームにつながる約72メートルの『廊下』。事件当時は宴の準備がされていたという。

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エリザベス女王のプライベートルーム

冬季には一般公開されている。

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よりによって一般公開されていない日に足を踏み入れてしまったあたり、男性が不運だったことには違いありません。しかしウィンザー城では、建物の内部は写真撮影禁止だということです。もし一般公開時であっても、写真を撮っていた彼はきっと怒られていたことでしょう。

敷かれる厳戒態勢

ウィンザー城の警官たちは、みな武装状態にあったといいます。男性が取り押さえられる際には、もしかするとやや手荒な対応があったかもしれません。しかし王室の邸宅は「2005年重大組織犯罪及び警察法」で守られており、不法侵入は犯罪として厳しく処罰されるものです。

2011年には、ウィンザー城の塀をよじ登った男が逮捕されています。しかしその男は、女王の私邸から約18メートルの位置で取り押さえられており、建物内への侵入までは至っていません。今回の事件は、うっかりの出来事とはいえ過去最悪の事態だったようです。

2007年、日本では皇居に全裸の外国人男性が出没

むしろ多少は忍べよ。

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またイギリスでは、昨今の世界情勢を受けて、2014年8月にテロ警戒レベルを「深刻」に引き上げていました。今回取り押さえられた男性はテロリストでも忍者でもありませんでしたが、警官たちにとっては、セキュリティを突破してきた不審な男でしかなかったことでしょう。

ウィンザー城に限らず、犯罪に対する厳戒態勢は世界中で強まる一方です。自分の身を自分で守る……というわけではないかもしれませんが、観光地で浮かれてしまい、開けてはいけない扉をうっかり開けてしまわないよう、気をつけて行動したいものです。

REFERENCE:

Windsor Castle security farce as tourist wanders alone into private areas during stroll through residence sparking major alert

Windsor Castle security farce as tourist wanders alone into private areas during stroll through residence sparking major alert

http://www.dailymail.co.uk/news/article-2973869/Windsor-Castle-security-farce-tourist-wanders-private-areas-stroll-residence-sparking-major-alert.html

Windsor Castle

http://www.royal.gov.uk/TheRoyalResidences/WindsorCastle/WindsorCastle.aspx

Changing the Guard | Royal Palaces / Windsor Castle

http://changing-guard.com/windsor-castle.html

英国、テロ警戒レベル引き上げ シリア・イラク情勢受け

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0QZ4E320140829