
大型類人猿、印象的な出来事を長期記憶できることが判明
2015/9/2422:41日常で起こった普段とは違う出来事のことを、人は長い間覚えているものです。そんな印象的な出来事を1日経過しても覚えていられるのはヒト独自の能力だと考えられてきました。しかし、実は他の大型類人猿も長期記憶を行うことができるという研究結果が発表されました。
Our results thus show that great apes, just by watching the events once, encoded particular information (location and content) into long-term memory and later retrieved that information at a particular time in anticipation of the impending events.
日常にない光景を見せる実験

モニタには2名の研究員、ここまでは知っているものと光景。赤い丸がモニタを見ている目のポイントを表している。
京都大霊長類研究所の狩野文浩・特定助教と、京都大野生動物研究センターの平田聡教授の研究グループがCurrent Biologyに発表をした実験には大型類人猿の一種であるボノボ6体とチンパンジー6体、計12体を元に行われました。それぞれがいま何処を見ているのかを確認できるアイトラッカーを用いて、彼らに日常では見ることのない光景を見せ、その反応を調べました。
まず最初に行ったのは、檻の中に2名のスタッフを配置し、このモニタを見ている彼らが普段過ごしている光景に近いものを見せ、そこから日常では起こらない出来事を発生させるものでした。

2名がめいめいに過ごしていると、左右にある入口のランプが点灯。

片方の入り口から現れたのはキングコングのコスプレをした人物。シュール。

男性の方だけを一方的に攻撃するキングコング。

逃走するキングコング、後を追う男性。
現実には存在しないキングコングという存在が現れること、それが片方のスタッフを特に理由もなく攻撃して逃走していく光景はなかなかにシュールでヒトが見ても印象的なものです。その光景を見せた24時間後、また同様に檻の中で2名のスタッフが同様に過ごしているとランプが点灯します。この時点で、モニタを見ていた12頭は以前キングコングが現れた方の入り口に注目し、同じように現れた後も男性スタッフのほうを注目する目の動きを示しました。これは、彼らが24時間前の光景を覚えており、次に起こることを予想していたということになります。
配置を変えても覚えていることも証明
先の実験では登場する場所、行動などはほぼ同じものでしたが、もうひとつの実験は記憶するものの一部の配置を変えて行われました。

女性スタッフと檻の中にいるキングコング。

檻から出てキングコングが女性を特に理由もなく攻撃。

檻の中にある道具のうちぴこぴこハンマーを手に取る女性。

キングコングに反撃する女性。
この光景も記憶に強く残りそうです。24時間後には女性が手に取る道具の配置を逆にして行いましたが、モニタを見ているサルたちは女性が選択する前からぴこぴこハンマーの方に注目していました。これは、場所だけを記憶していたのではなく配置されていたオブジェクトの特徴もきちんと捉えて記憶していたことを意味します。
研究チームはこの結果を受けて、これまでヒト特有の能力とされていた長期記憶が他の大型類人猿にも備わっていることを証明したとし、ヒトの特殊性に関して再考する必要があると語っています。
Great Apes Make Anticipatory Looks Based on Long-Term Memory of Single Events
Great Apes Make Anticipatory Looks Based on Long-Term Memory of Single Events
http://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(15)00946-X