かつて湖に沈んでしまった町が、時を超えて現代にその姿を現す――。ファンタジーやSFで聞いたことのあるような話ですが、あながち現実にはない話ではありませんでした。アルゼンチンのとある湖で、25年前に失われた町が再び姿を見せたのです。

Argentina’s Villa Epecuén, about 350 miles from Buenos Aires, once was a popular, flourishing resort town. It attracted tourists who wanted to bathe in the supposedly health-enhancing waters of Laguna de Epecuén, whose high salinity brought to mind the Dead Sea.

塩湖に面するリゾート地

その街『ヴィラ・エペクエン』は、ブエノスアイレスから南西に約600キロの位置にある塩湖・エペクエン湖の沿岸にありました。

中央アルゼンチンの低地に暮らすマプチェ部族にその名を付けられたこの湖は、当時の族長が、恋人が受けた苦痛のために流した涙でできたという伝説があります。それゆえかこの湖は、他の海に比べて約10倍、世界で2番目の塩分濃度を有しています。19世紀後半にはすでにヨーロッパ人に発見され、糖尿病やうつ病、皮膚病などの治療に利用されていたということです。

最初の住民や観光客によって、すぐに賑やかな観光地になったこの場所は、のちに鉄道でブエノスアイレスと結ばれたことで、南米をはじめ世界中から多くの観光客が訪れる場所となりました。

地図

ここにある。

日本からアルゼンチンは飛行機で約30時間(乗り継ぎ含む)。

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1960年代には、毎年25,000人の観光客が訪問。

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1970年代には300の企業と5,000人の住人が暮らした。

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突然の雨

1985年、雨が8日間降り続いたことをきっかけに、『ヴィラ・エペクエン』はその繁栄に終わりを迎えることとなります。

11月10日、エペクエン湖の水位が8メートル上昇し、町を守っていた堤防が決壊してしまったのです。それから2週間後には、路上の水位が約6フィート(1.8メートル)に達しています。洪水は、住民たちが避難するには十分な時間をかけて、しかし彼らが抗うにはあまりにも速く、その町を襲ったのでした。

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湖水がリゾート地に流入。

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水位は上昇の一途を辿った。

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1991年、ついに『ヴィラ・エペクエン』は約33フィート(10メートル)の水底に沈んでしまいました。幸いにも死者は出ず、住民たちの多くは近隣の町・カルウエに避難し、新たな生活をはじめることになります。

かつての住民、ノーマ・ベルク氏(48)は、その当時を振り返ってこう語っています。「飼っていた犬や猫が、洪水の数日前に逃げ出したきり帰ってこなかった。洪水が来ることを、彼らはわかっていたんだと思う」。

約25年ぶりの『浮上』

それからしばらく経った頃、エペクエン湖にとある変化が訪れました。気候の変化によって、アルゼンチンは干ばつの被害を被るのです。また、奇しくも同じ頃、新しい運河が湖に引かれます。すると湖の水位が少しずつ下がりはじめ、ついに2010年頃には、水面に町の一部を見ることができるようになりました。2013年頃には、町の大部分がついに『浮上』します。約25年の時を経て、かつてのリゾート地『ヴィラ・エペクエン』が、地上に再びその姿を現したのでした。

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『南米のアトランティス』と呼ばれることもある。

2011年撮影。

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灰色に積もっているのは塩。

2011年撮影。

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屠殺場。

2013年撮影。

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Traveller

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残っていたホテルの壁。

2013年撮影。

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通りに残された車の残骸。

2013年撮影。

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『ヴィラ・エペクエン』の墓地は、住民たちが家族の遺骨を持ち出すよりも前に湖水に沈んでしまっていました。『浮上』した墓地を、かつての住民たちは花を持って訪れ、新たな墓石をそこに敷設しました。不可抗力とはいえ結果的に長年放置してしまった、その謝罪の碑文が墓石には刻まれているといいます。

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2013年撮影。

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残る者、訪れる者

パブロ・ノヴァク氏(85)は、現在『ヴィラ・エペクエン』に暮らす唯一の住人です。

洪水のため、10人の息子と3人の娘を連れてカルウエに避難したパブロ氏は、町の『浮上』後、自らの家に戻ってきました。学校に通い、青春時代を過ごし、家族を持った『ヴィラ・エペクエン』に戻ることは、彼にとってはいたって普通のことだったといいます。「はじめは慣れなかったが、やがて静けさを楽しむようになった」そう語る彼は、町の黄金期を想いながら、たったひとりで日々の生活を営んでいます。

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パブロ・ノヴァク氏。

「この町で生まれて、きっとこの町で死ぬだろう」

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パブロ氏は、かつての住民の所有物を持ち主に返却したり、『沈没した町』にやってくる観光客たちを道案内する試みにも取り組んでいます。近頃は、観光目当てでこの町を訪れる人々も再び増えてきているのです。

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パブロ・ノヴァク氏が町と自分自身について語る。英語字幕付き。

痕跡を旅する

パブロ氏は、街を訪れる観光客と話して日中を過ごしています。パブロ氏は現在の生活に充実を感じているようで、たったひとりの生活に孤独や恐怖を感じないか、と尋ねられると、「感じないが、夜は少し退屈だ」と述べるのです。また彼は、自らの故郷に客人がやってくることを喜んでもいます。「廃墟を人が見に来るということは、この町に人がたくさんやってくるということだ」「私の町に来てくれてありがとう」

一方で、カルウエの歴史博物館のディレクターであるガストン・パルタリュー氏は、廃墟と化した『ヴィラ・エペクエン』を観光地にすることに危惧を覚えています。町の現状を直視できない、かつての住民たちの苦痛を慮っているのです。しかし彼も、『沈没した街』の魅力を否定するわけではありません。「人々がここを訪れたい理由はわかります。しかし、すべてを失い、いまも強い感情を持っている方がすぐ近くにいることに注意するべきです」

2013年撮影。

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ダークツーリズム
戦争被害、死、あるいは自然災害などに関する体験や、人類の負の歴史などを対象にした観光。本来、観光は楽しいものという考えが一般的であるが、ダークツーリズムでは、観光を学びと反省の機会とみなす傾向が強い。また、ダークツーリズムを通して、被害を受けた場所や人々の復興を助ける力になるという考え方もある。

災厄の起きた場所、そのエネルギーに惹かれるときに私たちが感じているのは、そこに人が暮らしていたという『痕跡』の力なのかもしれません。人の営みがその場所に残したものを簡単に消費してしまわないよう、くれぐれも気をつけなければなりません。

1970年代の写真と2013年の風景の比較。

忘れないことが大切。

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REFERENCE:

This Town Sank, Then It Rose Due to Climate Change

This Town Sank, Then It Rose Due to Climate Change

http://news.discovery.com/earth/global-warming/this-town-sank-then-it-rose-due-to-climate-change-150121.htm

This Argentinian ghost town resurfaced after spending 25 years underwater

http://inhabitat.com/take-a-virtual-tour-of-an-argentinian-ghost-town-with-its-last-remaining-resident/

Atlantis of the pampas

http://www.traveller.com.au/atlantis-of-the-pampas-2q5sh

Return of the town that drowned: Ruins of real-life Atlantis emerge 25 years after floods

http://www.mirror.co.uk/news/world-news/villa-epecuen-ruins-real-life-atlantis-1772272

The ‘real life Atlantis': Eerie photographs capture Villa Epceun – the Argentinian town that spent 25 years underwater

http://www.independent.co.uk/news/world/americas/the-real-life-atlantis-eerie-photographs-capture-villa-epceun–the-argentinian-town-that-spent-25-years-underwater-8539322.html

Strange Argentina ghost town that was underwater for 25 years re-emerges as tourist attraction

http://www.nydailynews.com/news/world/photos-ghost-town-argentina-re-emerges-article-1.1340247

Villa Epecuen: The Town That Was Submerged For 25 Years

http://www.amusingplanet.com/2012/12/villa-epecuen-town-that-was-submerged.html

The Ruins of Villa Epecuen

http://www.theatlantic.com/photo/2011/07/the-ruins-of-villa-epecuen/100110/