人間は成長するにつれて、あまり子供の頃にしたような怪我をしなくなっていくものです。たとえば道端で転ぶことも少なくなれば、頭を打つこともなくなります。ですから時たま、うっかり自宅で頭を打ったりすると、もちろん打ったところも痛ければ、頭を打ったという事実がもはや痛い、ということもあるでしょう。

しかし、気をつけなければなりません。ペンシルベニア州立大学で行われた調査によると、どうやら『頭を打つのは危ない』のだそうです。

Skull fractures can lead to an early death, even if the victims initially survived the injuries, according to a new study that looked at skulls from three Danish cemeteries with funeral plots dating from the 12th to the 17th centuries.

頭蓋骨は語る

このたび、ペンシルベニア州立大学のジョージ・ミルナー教授によって行われた調査は、デンマークで12世紀から17世紀に埋葬された男性の頭蓋骨を比較するというものでした。この調査は男性の早期死亡のリスクを推定するために行われましたが、このようなケースで古い頭蓋骨を使用したのは初めてのことです。

調査の結果、頭蓋骨を折ったことのある男性は、折ったことのない男性よりも早く死亡する可能性が6.2倍以上高かったといいます。一度頭蓋骨を折ると、長期的にリスクを抱える可能性があるというわけです。

完全にやっちゃっている。

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現在、疫学(集団における、怪我や病気の発生と分布、その原因に関する研究)の研究においては、多くの場合、その時に生きているサンプルが利用されます。今回の調査は、骨折の形跡のある古い頭蓋骨が、現代の高血圧や高コレステロール患者と同様、病気の発症率や死亡率を測定する指標として使えることを示したものです。

ミルナー教授は、デンマークで行われた建物開発で見つかった頭蓋骨をすべて調査しました。見つかった男性の頭蓋骨は全部で236個、そのうち骨折が治癒していたものは21個です。

骨折しても生き延びた21個の頭蓋骨と、骨折しなかった頭蓋骨の対決。

骨折が治癒しないまま、すぐに死亡したと思われるものは除外された。また、骨折した女性の頭蓋骨もその数が少ないため除外されている。

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頭蓋骨の骨折は、作業中の事故や暴力、もしくは戦闘のなかで起きた可能性が高いといわれています。

また、骨折が治癒した21個の頭蓋骨のうち19個には、打撃痕がひとつだけ確認されました。しかし残りの2つには、頭の両側、また正面と側頭部に、2ヶ所の打撃痕があったといいます。

もちろん、最終的になにが彼らの命を奪ったのかはわかりません。外傷性脳損傷が寿命に影響を与えたと推定される一方で、骨折や短命がライフスタイルのなかでもたらされた可能性もあるからです。日頃から喧嘩っ早い男性もいれば、まったく別の原因で頭蓋骨を骨折した人もいたかもしれません。頭蓋骨とは関係なく、病気で亡くなった方もいたことでしょう。

現在、外傷性脳損傷による死亡率は当時の約半分になっています。今でこそ医療や社会支援が手厚い世の中ですが、ミルナー教授いわく、当時の治療は『家で寝ることくらいだった』のです。

風邪じゃないんだから。と言いたくもなりますが、当時は本当に為す術がなかった。

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どんな時代だったの

そもそも12世紀から17世紀のデンマークはどんな環境で、どんな社会だったのでしょうか。ひとことに『頭蓋骨骨折』もっといえば『頭を打った』とはいうものの、現代、自宅の2階建てベッドで頭を打つのとはさすがに状況が違うはずです。

12世紀から14世紀にかけて、デンマークは王位継承問題に揺れ、安定と混乱を繰り返しながら、バルト海へとその勢力を進出させていきました。

その後、16世紀には、内乱『伯爵戦争』(1534〜36年)、『北方七年戦争』(1563〜70年)が発生しています。つづく17世紀に至っては『三十年戦争』(1618〜48年)への参戦や『トルステンソン戦争』(1643〜45年)の発生、『カール=グスタフ戦争』(1657〜60年)の発生と、ひっきりなしに戦争が続く状況だったのです。

国が置かれていた情勢が情勢ですから、抜き差しならない状況で、個人の性格云々に関係なく、彼らは暴力の渦中に巻き込まれていたのかもしれません。

『トルステンソン戦争』で片目を失った当時の国王・クリスチャン4世。

それぞれの戦争は非常に複雑な状況のもと発生した。

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こうなると、『頭蓋骨骨折』自体がどこまで寿命に関係あるのかは未知だといっていい気もしてきます。しかし、それでも関係がないとは言い切れませんし、むしろ彼らは、想像以上に危険度の高い状況に置かれていたことでしょう。

リスクが下がったとはいうものの

現状、そのように危険な状況に私たちは立たされているわけではありません。しかし、それでも当然のことながら『頭を打つのは危ない』のです。わざわざ言うまでもありません。たとえ頭蓋骨が折れていなくても、内出血や脳震盪などによる重症のケースも少なくはないのです。

脳震盪
頭部に衝撃を受けた直後に発症する、一過性および可逆性の意識や記憶の喪失を伴う症状。頭部・顎付近に対する衝撃により、神経伝達物質が過剰に放出されて起きる。症状に、めまい、ふらつき、頭痛、意識喪失、記憶喪失がある。
脳震盪 – Wikipedia

脳が完全に回復する前に再び脳震盪を起こすと、『セカンド・インパクト・シンドローム』を発症し、脳に重篤な障害が残ったり、死亡する場合もあるといいます。ミルナー教授の調査でも2つの打撃痕がある頭蓋骨が見つかっていますが、彼らにも同じ症状が出ていたかもしれません。

サッカー日本代表・香川真司氏。

昨年2度脳震盪を起こし、その危険性が話題になった。

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プロレスラー・三沢光晴氏(左)。

リング上でバックドロップを受け頭部を強打、頸髄離断のため死去。

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それでもぶつけた時のために

どれだけ気をつけていても、人は頭を打ってしまいます。しかし、自分が頭を打ったときに何もできないとしても、もしも誰かが目の前で頭を打ったとき、慌てなくて済むようにしておきたいものです。

・頭を高くして寝かせ、冷やしたタオルなどで頭を冷やす。
・脳震盪でも軽度ならば数分で意識は戻る。
・頭痛の悪化、吐き気や嘔吐、痙攣、耳や鼻からの出血、瞳孔の左右の大きさが違う、意識を失っている場合は、病院へ搬送するか救急車を要請する。
・頭皮などの出血は、圧迫して止血する。
・強く打った場合は念のため専門医へ。

さすがに頭蓋骨まで折れていたら、私たちの力ではどうすることもできないでしょう。しかし幸い、いまは12世紀でも17世紀でもありません。とりあえず家で横になる前に、近くの病院へ行ってみるほうが安心というものです。もっとも、頭を打たないで済むなら、それが一番なのですが。

REFERENCE:

Medieval Skulls Reveal Long-Term Risk of Brain Injuries

Medieval Skulls Reveal Long-Term Risk of Brain Injuries

http://www.livescience.com/49580-medieval-skulls-head-injuries.html

デンマークの歴史 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

脳震盪 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E9%9C%87%E7%9B%AA

家庭でできるケガや病の応急手当

http://www.homemate.co.jp/useful/oukyu_teate/howto/atama/

頭を打った/脳神経外科 山本クリニック 大阪市住吉区

http://www.yamamotoclinic.jp/dir3/