親が子を思う愛情は海よりも広く深い……とは申しますが、きっと人それぞれ愛情の表現方法は違うことでしょう。自分にはまだ子供がいない、という方もぜひ想像してみてください。まだ8歳の子供が、初めてのおつかいから我が家に帰ってきたとき、あなたはなんと声をかけるでしょうか。

・頭がいい、賢い、と褒める
・なかなかできることじゃない、特別なことだ、と伝える
・よく頑張ったね、と労う

Parents who believe their kids are better, more special, and deserve more than other kids can pass that point of view on to their children, creating young narcissists who feel superior to others, and entitled to privileges, according to a new study.

このたび、オハイオ州立大学のブラッド・ブッシュマン教授らの研究で、ナルシストである子供とその親の関係が明らかになりました。残念ながら上の3つの選択肢のうち、上の2つを選んでしまった方は、もしかすると子供をナルシストに育ててしまうかもしれません……。

ナルシズム/ナルシスト

ナルシズムとは、自分自身を愛し、または自分自身を性的な対象とみなす状態をいいます。また、その状態にある人をナルシストと呼びます。本来は「ナルシシズム」および「ナルシシスト」が正しいのですが、日本では「ナルシズム」「ナルシスト」という俗語で定着しました。

精神分析学者ジークムント・フロイトは、この状態を「一次性ナルシズム」と「二次性ナルシズム」のふたつに分けて説明しています。4〜5歳以前に発生する「一次性ナルシズム」は、母親との一体感に基づく幻想的万能感であり原初的なものだといいます。これに対して、異性への関心が芽生えて以降の「二次性ナルシズム」は自我に基づいているのです。

なんでもできるぞ!

思い込みです。

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ナルシストの育て方

ブラッド氏らの調査は約1年半にも及びました。7歳〜12歳の子供565人とその親を対象に、6ヶ月ごとに合計4回のテストを実施したのです。

彼らが調査対象をこの年齢層に絞り込んだのには理由がありました。そもそも、誰もが幼少期にはナルシストなのだといいます。『自己陶酔』の兆候らしきものは8歳前後で初めて発生するため、その頃まで人間が自分と他者を比べることはないようです。

ブラッド・ブッシュマン教授

「もしも5歳児ばかりの教室で算数が得意な子を尋ねたら、全員が手を上げるだろう」

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子供たちは、彼ら自身の自尊心とナルシズムを測定されています。設けられた10個の項目に「まったく当てはまらない」から「とてもあてはまる」までの4段階で回答するテストには、たとえばこんな項目があったといいます。

・わたしたち自身のことが好きだ。
・わたしのような子供は特別扱いされる価値があると思う。
・わたしは他の子供のいいお手本になっていると思う。
・わたしは、自分が信じてほしいことを人に信じさせるのが得意だ。

また、彼らの親たちも子供たちと同様のテストを受けていました。そちらのテストには、「我が子は特別扱いを受けるに値する」、「我が子に特別な才能があっても驚かない」、「むしろ普通の子供だったらがっかりする」などという項目が並んでいたようです。

愛情は時として過剰な期待に。

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親子のテストには、共通してこんな項目が用意されています。これは、親の『思いやり』を測るためのものなのです。

わたしは子供に、自分がどれだけ彼/彼女を愛しているかを話している。

わたしの父/母は、どれだけわたしを愛しているか話して聞かせてくれる。

調査の結果、ナルシズムの大きい子供が「自分は他者より優れている」という回答を多く出したのに対して、自尊心が高い子供は自分自身や自分たちの状態に満足していたといいます。

親が子供を過大評価しているほど、その6ヶ月後の調査では子供がナルシズムの反応を強く示していました。一方で、親の『思いやり』が大きいほど、子供の自尊心は高かったようです。しかし『思いやり』は、ナルシズムとは関係していませんでした。

またブラッド氏は、子供を過大評価しているほど、親自身のナルシズムも大きいという事実を明らかにしました。

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実はナルシストを育てていた?

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暴走するナルシズム

ブラッド氏らは過去の研究から、親が子供を過大評価しすぎたケースについて報告しています。宇宙飛行士ニール・アームストロング氏や、1945年に発表された小説『動物農場』、さらにはまったくのデタラメについても「自分の子供はよく知っている」と主張した親がいたというのです。

過大評価を受けつづけた子供は、やがて自分自身を過大評価するようになっていきます。「我が子は他の子供よりも優れている、特別な人間である」という親の見方が、いわばナルシズムの核となって子供自身にも内面化されていくのです。

親の思いは子に伝わる。良くも悪くも……。

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『自己愛過剰社会』の著者でもあるサンディエゴ州立大学のジーン・トゥエンギー教授は、ナルシズムの危うい側面に警鐘を鳴らしています。ナルシストは自分に陶酔するあまり、時として、自らの能力や実績を認めない他者を攻撃することがあるといいます。そのこと自体が、彼ら自身にとってもデメリットとなっているのです。

ジーン・トゥエンギー教授

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もちろん、調査対象になった7〜12歳の子供たちがこれからどうなっていくのかは誰にもわかりません。しかしジーン氏は、「ナルシズムは両親の育て方や周囲の環境に影響を受け、思春期を経た後の人格にも影響を与えうるものだ」といいます。

親の愛情

もちろん子供のナルシズムは、親の過大評価だけが原因ではなく、遺伝や本人の性格に左右される部分も大きいものです。しかし、なぜ親たちは我が子をそこまで過大評価してしまうのでしょうか。

フロイトは、親が子供を完璧だと思いたがる傾向には、親自身の「一次性ナルシズム」つまり一体感に基づく幻想的万能感が蘇っているのだと分析しています。『かつて自分であった』我が子への愛情には、理性ではなく原初的な何かが働いているのかもしれません。

ジークムント・フロイト

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HISTORY

一方で、精神分析学者のハインツ・コフートは、フロイトが病理的なものだと考えたナルシズムを『自己存在の積極的な肯定』として捉えました。彼は「自己愛がなければ他者を愛せない」という信念のもと、ナルシズムこそ自己肯定感や自尊心の基盤なのだと考えていたのです。

ハインツとフロイトのいう『ナルシズム』は、かたや自分と他者への愛につながるもの、かたや他者への攻撃にすらつながるものです。しかし、どちらも間違いなく人間の抱えるもので、人から人へと受け渡されているものだといえるでしょう。

親の愛情が、まったく異なる『ナルシズム』を生む。

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自己陶酔に陥るナルシズムではなく自尊心を育てるには、我が子に「きみは特別だよ」と話すことなく、たくさん愛情を伝えることが大切だといいます。我が子に対して愛情を抱いたように、我が子も別の誰かに愛情を抱けるように……。そういう方向でなら、自分の愛情の伝え方について、ナルシスティックになるのも悪くないかもしれません。

REFERENCE:

Narcissistic kid? Blame the parents, study says

Narcissistic kid? Blame the parents, study says

http://www.latimes.com/science/sciencenow/la-sci-sn-parents-narcissism-overvalued-kids-20150309-story.html

Do Parents Nurture Narcissists By Pouring On The Praise?

http://www.npr.org/blogs/health/2015/03/09/391874530/do-parents-nurture-narcissists-by-pouring-on-the-praise

How to stop your child becoming a narcissist: Don’t tell them they’re special

http://www.ibtimes.co.uk/how-stop-your-child-becoming-narcissist-dont-tell-them-theyre-special-1491187

Origins of narcissism in children

http://www.pnas.org/content/early/2015/03/05/1420870112

How parents may help create their own little narcissists

http://news.osu.edu/news/2015/03/09/little-narcissists/

ナルシシズム – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%B7%E3%82%BA%E3%83%A0

フロイト『ナルシシズム入門』を解読する

http://www.philosophyguides.org/decoding-of-freud-zur-einfuhrung-narzissmus/

自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)

http://www5f.biglobe.ne.jp/~mind/griffin/narcissistic.html