横向きに寝ることは脳の『ゴミ』を除去するにあたって最も適した姿勢であることがニューヨーク州立大学ストニーブルック校の研究より明らかになりました。

Sleeping in the lateral, or side position, as compared to sleeping on one’s back or stomach, may more effectively remove brain waste and prove to be an important practice to help reduce the chances of developing Alzheimer’s, Parkinson’s and other neurological diseases, according to researchers at Stony Brook University.

脳の『ゴミ』

私たちの体と同様に、脳も絶えず代謝をおこない、産生と分解が繰り返されています。脳の中にはアミロイド(β)前駆体タンパク質(APP)と呼ばれるタンパク質があり、これは通常は神経の成長と修復に欠かせない役割を果たしているものですが、分解の際、アミロイドβと呼ばれるタンパク質を生成することがあります。

このアミロイドβが脳内に蓄積されるとアルツハイマー病を引き起こすと言われており、いわば、アミロイドβは脳のゴミともいえるものなのです。

また、アミロイドβなどの脳のゴミの多くは脳から体内に排出されるのですが、この排出が最も進むのは睡眠時であることが知られています。

動物においても最もよく見られる姿勢

研究者はMRIを利用して、アミロイドβやタウ蛋白などのタンパク質が除去される経路を調べ、仰向け、横向き、うつ伏せの三種類の寝方のどれが最も排出の進む姿勢なのかを調べました。

その結果、横向きに寝るのが最も脳のゴミの排出に適した姿勢であることがわかりました。

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アルツハイマー病は未だに原因は特定されていないが、現在、アミロイドβが原因とするアミロイド仮説が最も有力な仮説になっているが、同じく脳内に存在するタンパク質であるタウ蛋白が原因であるとするタウ仮説も存在する。

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研究者いわく、横向きでの睡眠は人間のみならず動物においても最もよく見られる姿勢とのこと。このことから人間を含めたあらゆる動物は眠る時に脳のゴミの除去に最も適した姿勢を取るように適応したのではないかと研究者は予測しています。

横向き寝をするべきか

睡眠時の姿勢によって脳の代謝の量が変わる、という研究そのものはさほど驚くに値しないことのように思えます。脳ではなく人体の代謝を考えてみると、リンパ管や血管など、様々な物質が流れる管があり、その管が圧迫され停滞を起こせば、体はあっという間に不調をきたします。脳内の物質が通る経路も同様に圧迫されれば代謝が滞るであろうと考えるのは非常に自然な流れです。ただ、横向きが最も適しているという事実は少々驚くべきことです。

というのも、横になって眠るのはあまり良い寝方とはされていないからです。

横向き寝は体の右側を下にするのならば消化に良いと言われていますが、その左右不対称性から骨盤の歪みやシワ、血行不良などを引き起こすとされており、また、うつ伏せも心臓や首への負担がかかりやすいことから、仰向けになって眠るのが良いと広くいわれています。

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ただ、仰向けでの睡眠も無呼吸症候群を引き起こしやすく、いびきが起きやすいといわれている。

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一長一短、と済ませてしまうことは簡単ですが、少しばかり気になるところです。生物が自然淘汰によって進化してきたのならば、仰向けに寝ることで体の負担を小さくしながら脳のゴミの除去も最も多くおこなえる一挙両得な体に進化した方が、よほど効率的のような気がします。なぜこのようなことが起きるのでしょう。

研究者の言葉を振り返ると、この横向き寝は動物にも最も見られる姿勢と言っているので、一旦、人間から離れて動物(哺乳類)からこの眠りの姿勢を考えてみようと思います。

動物の睡眠

まず、動物は仰向けに寝ません。

一部の二足歩行の動物を除いて、基本的に動物は自分の腹をなるべく他の動物に見られないように生活をしています。腹は、その中に内臓が詰まっているにも関わらず骨に覆われていないので、外敵に晒すと非常に危険な箇所だからです。犬は『服従』のポーズとして腹を見せることがありますが、あれは相手に対してまさに自分の命を投げ出している状態だというわけです。

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少なくともこんな姿勢で眠る馬を見たことがない。

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鹿や馬などの草食動物は横向きにも寝ますが、危険が多い場所では足を折り曲げてうつ伏せになって眠ります。そう考えると、どれだけ腹を見せて寝るかは自身の身に危険が襲いかかる不安度を表したものと取ることができます。

人間の不安度の歴史

さて、人間は今でこそ他の動物と違う生物のような顔をしていますが、元々は猿から進化したもので、木の実を食べたり肉を食べたり、肉食動物に食べられたりしていた普通の動物です。猿も横になって眠るので、人間も元々、危険を恐れて横になって眠るのがごくごく当たり前のことであったと予想されます。

しかし、人間は歴史の中で安全な場所の確保のために家を建てるようになりました。現在発見されている最古の家が38万年前とされているので、多めに見積もって50万年前にでも家を建てるようになったとします。

家を建てることで多少の睡眠時の安全は確保されるようになりましたが、それでも周りには危険な野生動物に溢れており、まだまだ安心して眠るわけにはいきません。

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家があっても車が降ってきたらどうしようもない。

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動物の危険がなくなったのはいつか、と定めるのは線引が難しいところではありますが、生きていくために食べる、寝る以外のことができるようになった時期、文明が生まれた時期、さらに言うのなら小さな文明は世界各地で約一万年ほど前に見つかっていますが、安全という意味を踏まえても人口も多く農耕が盛んな都市国家の発生をその時期と考えてさほど間違ってはいないでしょう。

世界史の教科書にある通り、世界最初の都市国家はシュメール人によって作られたメソポタミア文明です。彼らは都市の中心に神殿を作り、周辺に外壁を作り、農耕と牧畜を都市の内側でおこなうようになりました。現存、世界最古の文学として知られており、旧約聖書にも多大な影響を与えた『ギルガメシュ叙事詩』もメソポタミア文明で生まれています。

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ギルガメシュ叙事詩

世界最古の文学。ギルガメシュの英雄譚、と捉えられがちだが、死の嘆きから永遠の命を探し求めるという非常に普遍的なテーマが描かれている。

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©ちくま学芸文庫

城壁によって外敵から身を守り、農耕牧畜により食が確保され、宗教や文学を嗜む余暇があるのならば、この辺りで仰向けに寝ても危険はさほど無くなったと考えてよいでしょう。そんなメソポタミア文明が生まれたのは早ければ紀元前9000年、ギルガメシュ叙事詩が書かれ始めたのは紀元前2000年ほどといわれています。

10000年ほど前に『さぁもう仰向けで寝てもいいのだよ』と言われたところで、今まで横になって寝ていた人類がそんな短期間に仰向けに寝れるように進化できるとは思えません。恐らく骨格から変化することになるので見た目もずいぶんと変わるでしょうし、あまり健康そう、あるいは異性から魅力的に見える個体になりがたかった可能性があります。さらに、そんな骨格が変わるほどの大きな変化をたった10000年の間に交配を繰り返し、種、あるいは国家全体に起こさなければならないわけですからなおさらその困難さは増します。人間が仰向けに寝ることに適応するまでは、もう少し時間がかかることのように思えます。

そう考えると、もしかしたらまだ人類は仰向けに寝るための進化の途上にいるのかもしれません。

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……と、睡眠の姿勢の話のはずがメソポタミア文明まで話が飛んでしまったので強引に筋を戻しますと、結局、気になるところはそんな壮大な歴史よりも実際にどう寝るのが一番良いのか、ということです。これには自信を持って答えられると思います。横向きに寝た方が脳のゴミの除去に向いていようがなかろうが、結局、眠れないことには除去は起きないので、自分の好きな寝方をするのがベストです。

少なくとも記者は消化に悪かろうが血行が悪くなろうが今日も体の左側を下にして自分の腕を枕にして寝ます。

REFERENCE:

Could Body Posture During Sleep Affect How Your Brain Clears Waste? – Stony Brook University Newsroom

Could Body Posture During Sleep Affect How Your Brain Clears Waste? – Stony Brook University Newsroom

http://sb.cc.stonybrook.edu/news/general/150804sleeping.php

世界史 – Wikibooks

http://ja.wikibooks.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2

メソポタミア – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/メソポタミア

脳血管内皮細胞特異的なアミロイドβ前駆体タンパク質を発見 | 理化学研究所

http://www.riken.jp/pr/press/2010/20101021/

アミロイドβタンパク質 – 脳科学辞典

http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%CE%B2%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

アルツハイマー型認知症 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC%E5%9E%8B%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87

079:アミロイドβ前駆体タンパク質(Amyloid-beta Precursor Protein) ©日本蛋白質構造データバンク (PDBj) licensed under CC 表示 4.0 国際

http://pdbj.org/mom/79?lang=ja

都市国家 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%BD%E5%B8%82%E5%9B%BD%E5%AE%B6