帰宅して、ハエが一匹、元気に飛び回っていたら嫌なものです。蚊のように叩き殺そうと思っても新聞取ってないし、窓を開けたら出ていってくれるほど頭も良くなさそうだし、目がぎょろぎょろしていて俊敏だし……。数週間後、部屋の隅でその亡骸を見つけて胸を撫で下ろして甘んじるというのが常ではないでしょうか。そんな厄介者が人の役に立つ時代が来るかもしれないというニュース。いや、すでに役立っていますが。

ハエが国境の警備員に?

近い将来、麻薬や爆発物を探知する訓練を受けた犬に代わって、ミバエが国境で勤務する可能性があるという。

英国のエセックス大学研究員によると、近い将来、ハエが国境の警備につくかもしれないとの事です。というのも、ハエは犬よりも嗅覚が優れていて、麻薬や爆発物の発見に役立つかもしれないからとのこと。研究員によると、ハエは素晴らしい嗅覚に加え、特異な受容器を持っているという事です。受容器とは簡単に言うと、目や鼻や口の事です。ハエは2本の前脚の先にもこの受容器を持ち、味覚や匂いなどを捉える事が出来ます。また『電子鼻』と呼ばれる技術にもハエの嗅覚が応用できるかもしれないという話です。

電子鼻

オリーブオイル業界がこの鼻に期待を寄せている。というのも、オリーブオイルは同じボトルでもオリーブの生産者が違っている為に、品質が大きく異る事があるからだ。この技術がさらに進歩すれば、オイルの微妙な香りからその品質を判断できるようになるだろう。

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ハエってそんなにすごいの?

ハエの嗅覚が人々を癌から救うかもしれません。キイロショウジョウバエを利用したドイツ、コンスタンツ大学の研究において、ハエが癌細胞を発見する事に役立ったそうです。細胞が作り出す様々な分子には呼吸に混ざって出てくるものがあります。癌細胞と正常な細胞は作り出す分子に違いがあり、ハエはその微かな違いを嗅ぎ分けられるのです。同大学の研究において、ハエは1つの正常な乳腺上皮細胞と5種類の乳がん細胞を嗅ぎ分けられたとの事です。人々ががん検診の為に何匹ものハエに息を嗅がせるという時代が来るかもしれません。

アフリカオニネズミ

アフリカオニネズミは唾液の中に潜む結核菌と他の菌の違いを、86%以上の精度で嗅ぎ分けることができるそうだ。この他にも嗅覚がするどい動物としてハツカネズミ、昆虫にはハチなどがいる。

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多岐に渡るハエの活躍

生物の生態系において、ハエは重要な役割を果たします。生物学では生き物を生産者・消費者・分解者と分けていますが、その分解者の1つを担っているのがハエであり、彼らの存在無くして食物連鎖はありえません。

また、昆虫食の一種として、ハエの幼虫を食べる文化があります。エスキモーはトナカイの皮下に寄生するトナカイヒフバエの幼虫をかつて食べました。また、北米の先住民は塩水湖に発生するミギワバエの幼虫を食べたと言います。中国河北省には現在でもハエの幼虫を調理した肉芽(ロウヤー)という料理があるそうです。世界人口の増加から生じる食料自給率の低下の解決策として、ハエが私達のタンパク源になる日が来るかもしれません。

食用ウジ虫養殖キット『Farm 432』

オーストリア ウィーン在住の Katharina Unger さんは、家庭で手軽に食用ウジ虫を養殖できる「Farm 432」を開発した。この機械が普及すれば、一週間に、成人2回分の食事に相当する500グラムの幼虫が生産できるとの事だ。本当に喜んで良いのだろうか。

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『FARM 432』

癌細胞の発見以外にもハエは医療の役に立っています。マゴットセラピーはハエの幼虫を使った傷の治療法です。

まず、潰瘍部にハエの幼虫を留めておくための空気穴のあるカバーを掛けます。幼虫は腐って死んだ組織を分泌液で溶かして食べ、健常な組織は食べません。また彼らから出される抗菌物質は様々な病原菌を殺菌します。ただ、使われるハエの幼虫は無菌状態で飼育されたものでなければなりません。現在ではマゴットセラピー用のハエの幼虫を売る業者まであります。

マゴットセラピー

糖尿病患者の壊死した足のかかとを治療した後、幼虫が取り除かれている様。安価で麻酔が不要、副作用無し、とメリットも多いが、自分がすると思うと恐ろしい。

見た目にも悪く、汚らしく、うるさいハエですがもしかしたらそんなに悪くない奴等なのかもしれません。小林一茶の有名な俳句に「やれ打つな ハエが手をする 足をする」というものがありますが、命乞いするハエに歩み寄るべきは私達、人間の方かもしれません。