ノーベル物理学賞受賞者であるリチャード・P・ファインマンは学生時代、小便は重力によって体から自然に出てゆくのかどうかということで議論になり、ファインマンは「いや、そんなはずはない!」と逆立ちしながら小便をして自説が正しいことを証明したといわれている。

なかなかに過激な実験だが、実験物理学者とは多かれ少なかれそのような者達なのかもしれない。論理的な美しい世界に対する信頼、非科学的な考えに迷妄する者達への啓蒙、そして自らの考えと世界の理に齟齬がないことを確認したい。そのような思いが彼らを突き動かしている、のかもしれない。しかし、時にそれは過激な方向に向かいすぎることがある。

北欧の国ノルウェーで、ある実験物理学者が物理学の正しさのために自分に銃口を向けて撃つ実験をおこなった。といっても、水中でだが。

Andreas Wahl fired an SIUG SG 550 military rifle at his half-naked body, in his swimmers, but survived to tell the tale thanks to the wonders of water.

実験に使われた銃はスイスはシグ社製アサルトライフル『SIG SG550』。銃口初速905m/秒、有効射程600m~700m、1983年にスイス軍制式ライフルとして採用され、現在も未だ現役バリバリの銃である。

彼はこの銃を使い水中で3メートルほどの距離からヒモを引くことで自身に向けて撃つ実験をおこなった。

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実験をおこなうアンドレアス・ワール氏

こころなしか緊張の色が窺える。

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©NRK/Andreas Wahl

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物理学者と機関銃

自分で引くためのヒモがわずかに見える。

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©NRK/Andreas Wahl

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横から

黒白の線は恐らく距離を測るためのもの。SIG SG550の銃身長が約50cmなところから目測して距離3メートルほどで黒白の仕切りが全部で30個あるので一個の区切りにつき10cmと推測される。

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©NRK/Andreas Wahl

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発射

出ている泡は火薬の燃焼時に気体が発生するため。アサルトライフルのほとんどはニトロセルロースを基剤としたシングルベース火薬を採用しているので、出ている気体は主に一酸化炭素と思われる。水中に花火を入れた時に泡が出るのも(もちろんニトロセルロース(危険物)は使っていないが)大まかに言って似たような仕組みである。

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©NRK/Andreas Wahl

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横から

発射から数十センチで銃弾が下向きの角度に変わっている。

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©NRK/Andreas Wahl

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拡大

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©NRK/Andreas Wahl

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勢いをなくして落下

見づらいので赤い◯で銃弾を囲んでおいた。

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©NRK/Andreas Wahl

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安堵するアンドレアス・ワール氏

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©NRK/Andreas Wahl

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銃弾を掲げるワール氏

実験は成功し、科学はまたしても勝利をつかんだ。

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©NRK/Andreas Wahl

なんだかわからないが実験は成功したらしい。銃弾はワール氏と銃口のちょうど中間あたり、15メートルほどの地点に落下した。

しかしなぜ空気中では有効射程600メートル以上の弾丸が水中では15メートルほどしか飛ばなかったのだろう。

ニュースサイトのDAILY STARによればこれは水の抵抗を示すための実験で、水の方が空気に比べ密度が大きいので抵抗が大きく、このような近距離で落ちてしまうのだという。

記者も一応ざっくりと計算してみたが流体力学はさっぱりわからないため合っているか自信がないので計算過程は伏せるが、水の密度が空気の密度の約800倍、SIG SG550の有効射程(実用上その威力が有効となる目安の距離)が600~700mなこと、銃弾の角度が下向きになり始めたのが60cm少し超えたあたりなことを考えると600~700m/800=75~87.5cmと雑に近似して大体密度に比例して飛距離が短くなると踏んでいいと思われる。

なぜ命がけでやる必要が

しかしそれ以上に大きな疑問が残る。なぜわざわざ自分の体を使って実験しなければならないのかということである。別にこの実験をするにあたってワール氏が、いやそもそも誰かが銃口の先に立っている必要はないはずだ。科学という絶対的な正しさに対する信仰心の表れのようなものだろうか。

詳しく調査してみたところ、どうやらこの実験は元々ワール氏が自身のビデオブログにて切ったブドウを電子レンジに入れてプラズマを発生させたり過酸化水素水にヨウ化カリウムを加えてゴツい泡を噴き出させる『象の歯磨き粉』の実験などを発表していたところその動画が人気を博し、そこからノルウェーの公共放送NRKから打診があり今回の体を張る実験をおこなったようだ。さしずめノルウェー版『大科学実験』というところだろう。

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プラズマ化するブドウ

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『象の歯磨き粉』

ちょっとしたグロ動画。

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それでもわざわざ体を張る必要はないような気がするのだが、NRKは以前12時間中8時間、ただひたすら薪が燃えているだけの映像を流したこともある超先進的な放送局なので(ちなみにその番組の最高視聴率は20%を超えたそうだ)、理由は単純に面白そうだったからだと思われる

なお、この番組はシリーズものになっており、最初に載せた動画は第三回のもので、これまでにも二回ほどワール氏は実験をおこなっている。もちろん命がけで。

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ロープの一端に鉄球を括りつけて落下する実験

求心力の実験と思われるが、ロープが切れない程度に柔らかくないと落下の衝撃は変わらないので割と危険。

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©NRK/Andreas Wahl

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水をかぶって火の中に飛び込む実験

熱伝導の実験と思われる。わからんでもないがなぜ半裸にならなくてはいけなかったのか。

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©NRK/Andreas Wahl

もう第四回は国内では既に放映されるようで、これまでの動画と同様に近いうちにyoutubeにアップされると思われる。ちなみに、番組の公式サイトには既に第七話までの予告タイトルが掲載されているのだが、第七話のタイトルが『Strikkhopp med telefonkataloger』日本語に訳すと「電話帳でバンジー」。

……どうやらもうしばらくワール氏から目が離せないようだ。

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ホームページに実際に掲載されている画像

電話帳を二冊かみあわせたものをアタッチメントにして飛ぶと思われる。

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©NRK

REFERENCE:

NRK TV – Med livet som innsats

NRK TV – Med livet som innsats

https://tv.nrk.no/serie/med-livet-som-innsats

Norwegian physicist Andreas Wahl shoots himself with rifle underwater | Latest News | Breaking UK News & World News Headlines | Daily Star

http://www.dailystar.co.uk/news/latest-news/491112/shot-underwater-SIUG-SG-550-military-rifle-Norwegian-physicist-Andreas-Wahl

Reale Triks

http://www.vitenwahl.no/reale-triks