それ雨の日も晴れの日も、いつでも雲は空にいて、ぼんやりと、時にはっきりと私達の心情を彩ります。雨雲、すじ雲、ひつじ雲、入道雲にうろこ雲、嵐の前に空を見やれば、垂れ込める雲に息を飲みます。そして、空模様の不穏さにざわつく気分はいくつになっても変わりません。特にこんな雲だったら…

世紀末。

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21世紀なのにもう世界が終ってしまうんでしょうか。
来年11月、世界気象機関(WMO)発行のInternational Cloud Atlas(国際雲図帳)に、この異様な雲が新たな種として加わる事になるかもしれません。雲の名は『Undulatus asperatus(アスペラトゥス波状雲)』、ラテン語で『でこぼこした波』『荒波』といった意味です。

新しい雲の種類(雲形)の認定は、来る2015年までの64年間に一度もなされる事はありませんでした。実に1951年以来の出来事になります。

10種の基本雲形(うんけい)

雲はその形の特徴や組成などから10種類の雲形に分ける事ができます。その中には普段よく目にするものもあれば、見る事が非常に稀なレア雲も存在しています。

巻雲

3km以上の高高度に発生する上層雲。すじ雲。

積乱雲

集中豪雨に注意。入道雲。

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jacinta lluch valero

レンズ雲

輪郭がはっきりしている雲。山の近くでよく見られる。

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Mike Lewinski

かなとこ雲

レア雲。入道雲の頂上が平らになってできた副変種。まさに金床(鍛冶屋の作業台)。

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John Leszczynski

アーチ雲

レア雲。寒気と暖気の接する前線に発生する。雄大な曲線を描く明瞭な境界面。

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Dub

高層雲

今スマホで撮影。

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KobayashiKinya

これらの分類は19世紀の気象学者Luke Howardの命名をもとに後の有識者による協議で形成され、1897年発行の国際雲図帳初版に掲載されたものです。以降いくつかの変種、副変種が加えられて1951年、現在の分類が完成しました。以降大きな変化も無く今に至るわけですから、この時点で雲の分類はほぼ完成したと考えられていました。すでに全ての雲が観測されきっていたはずでした。

それがなぜ近年になってアスペラトゥス波状雲が注目されるようになったのでしょうか。それにはこの雲の特殊な成り立ち、レアリティの高さが関係しています。

レア雲からのレア変形

皆さんはこのような雲を見た事があるでしょうか?

ありません。

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Maira Gall

この雲は『乳房雲』と呼ばれるもので、大きなコブが天上から垂れ下がっているような形状をしているレア雲です。雲の中で発生した激しい下降気流が乱気流をともなって下部に膨れ上がり、コブ状の雲を形成しているのだそうです。特にはっきりとした形状の乳房雲は地表と上空で気流が衝突している事を示していて、竜巻がやってくる前触れです。日本ではあまり発生する事がないのですが、主にトルネードの発生地域である北アメリカ大陸を中心に見られるようです。

同様にアスペラトゥス波状雲も極めて激しい嵐の近辺で現れ、大規模な雷雨をひきつれてやってきます。詳しい形成の過程はまだよく分かっていないのですが、先の乳房雲に暖気と冷気の層をかき乱す強風が加わって変形する事によって発生するそうです。このような動きの雲は20世紀末になって観測されるようになりました。ごく最近です。それに重ねて乳房雲へ強風が発生する事自体が珍しいので、アスペラトゥス波状雲は実際に見た事のある人は少ない、レア中のレア雲なのです。レジェンドといってもいいかもしれません。

荒海を空に映し込んだよう。天地逆転の相。

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Kelly Teague

この奇怪な雲り空を見て、「この雲を新種として認定したい」と強く願う人がいました。イギリス、Cloud Appreciation Society(雲を評価する会、通称CAS)に所属するGavin Pretor-Pinney氏です。

雲にとりつかれた人々

アカデミックな世界において新種の認定を受けるには、存在を証明する十分な裏付けが必要です。形状や成り立ちを判断するために、英国気象学会は十分な数の写真試料を要求しました。なんといってもアスペラトゥス波状雲はレジェンド雲です。非常に希有なこの自然現象を撮影していく事には、多くの時間がかかるように思われました。

しかし21世紀における撮影の簡便さと情報共有の迅速化は、アスペラトゥスの雲隠れを許しはしませんでした。Pretor-Pinney氏率いるCASのメンバーはその後たった数年の間で大量の画像を集める事に成功したのです。

リーダーのPretor-Pinney氏

約37000人にのぼるCASのメンバーがフランス、ノルウェー、イギリスの各地で撮影しまくった。逃げられない。

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nature.com

Pretor-Pinney氏は語ります。
「アスペラトゥス波状雲が形作られる様は、どんな雲よりも劇的で壮大なんだ。」
日本にいる限りは見る事が難しそうで実に残念です。一生のうちに一度でいいので生の、360度のシアターいっぱいのアスペラトゥス波状雲を味わってみたいものです。

Undulatus Asperatus

伝説が終わり、世紀末が始まる…

REFERENCE:

Will this be the first new cloud type in 60 years? ‘Undulatus asperatus’ seeks official classification in international atlas

Will this be the first new cloud type in 60 years? ‘Undulatus asperatus’ seeks official classification in international atlas

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2878855/Could-new-cloud-type-60-years-Undulatus-asperatus-seeks-official-classification-international-atlas.html