テレビ、スマホ、ゲーム、本。『睡眠』を妨げるものの数々は、部屋を見回せばかんたんに見つかるでしょう。ましてや夜も更けてから遊びに行ったり、飲みに行ったりしようものなら。またあるいは、今日も今日とて働きづめで、気づけば終電もなくなる直前になっていて、あわてて退社するか、いっそ会社に泊まってしまうか……。

誘惑にしろ仕事にしろ、文化・文明の発達は、同時にわたしたちの『睡眠』を奪っていったような気がします。したいこととしなきゃいけないことが多すぎて、今日もなかなか眠れない。しかし最新の研究によれば、そんな現代人よりも、わたしたちの祖先のほうが、あまり寝ずに日々を過ごしていたかもしれません。

Although it might seem that the glowing lights from smartphones and other trappings of modern life reduce people’s ability to get a decent amount of shut-eye, scientists now suggest that people do not get any less sleep today than they did in prehistoric times.

「現代人寝すぎ……」「現代人寝すぎ……」「現代人寝すぎ……」

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3つの民族

カリフォルニア大学で精神医学を教えるジェローム・シーゲル教授は、これまで『私たちの睡眠はいかに変化してきたか』ということに関心を持ってきました。彼は今回、動物園のゾウと野生のアフリカゾウの睡眠は大きく異なることを踏まえて、「本当に必要なのは、私たちの社会とはべつの条件で暮らす人々の睡眠を調査すること」だと考えたのです。

ジェローム教授は、古代の狩猟民族に生活習慣のよく似た3つの民族(タンザニアのハッツァ族、ナミビアのサン族、ボリビアのツィマネ族)を研究対象に選びました。彼は、合計95人の成人に時計型のデバイスを装着してもらうと、彼らの就寝時間・起床時間や体温、また周囲の気温や光量など、じつに1,165日間ぶんのデータを集めたのです。それらのデータから、教授はわたしたちの『祖先』の睡眠を推測しました。

ジェローム・シーゲル教授

「こうした民族は急激に減っており、この研究は私たちの文明以前の睡眠について知る、最後の機会だと思われる」

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日が沈んでも寝ない

研究の結果、3つの民族の『睡眠』には驚くべき共通点が発見されました。彼らはみな、ほぼ同じタイミングで眠り、ほぼ同じ睡眠時間で生活していたのです。しかも彼らは、よく言われる「日が昇ると起き、日が沈むと寝る」ような生活を過ごしてはいませんでした。

なんと彼らは、日没後も平均3時間20分は起きて活動しており、そのあと一度寝てしまうと、平均6時間25分、ほとんど起きず眠りつづけたようです。途中で目覚める者もほぼいなかったことから、これまたよく言われる「狩猟民族は、夜中は交代で起きている」という説もあっさり否定されました。

狩猟民族の夜は意外と長い

食事を摂り、弓をつくり、翌日の計画を立てて寝る。

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彼らが日没後も活動していることは、電灯などの『人工の光』が人間の覚醒時間を延ばしたわけではない、ということを意味します。しかも、都市に暮らす人々は平均で1日7〜8時間眠っていることから、あろうことか狩猟民族の人々の睡眠時間は、それよりもさらに短いのです。また、それぞれの民族は異なる状況で生活を営んでいることから、ジェローム教授は「彼らの生活には『ヒト共通』ともいうべき生態が反映されている」と述べています。

ジェローム・シーゲル教授(右端)とサン族

狩猟民族の人々は昼寝もほとんどしなかった。一方で、すぐれた健康状態と体力をもつことも明らかになっている。

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睡眠をとりもどせ

ジェローム教授のいうように、そもそも人間には『共通の生態』があって、それが現代社会ではなんらかの理由で失われてしまったのだとしたら……。教授は、都市に暮らす人々と狩猟民族の『睡眠』に、ひとつだけ大きな違いがあることを指摘しています。

狩猟民族に共通する『睡眠』の特徴とは、彼らが眠っているあいだ、周囲の気温はつねに下がりつづけているということでした。そして、24時間で気温がもっとも低くなったとき、彼らは目を覚ましたのです。この現象は日が昇ったあとにも確認されており、すなわち『睡眠』を左右するのは光よりも温度だということでしょう。

「寒い……」

毎日寒さで起きてるとしたら辛すぎる。

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こうした性質を反映しているのか、今回の研究対象となった者のうち、1年のうちに不眠症とおぼしき症状がみられたのは、全体のわずか1.5%〜2.5%にとどまりました。サン族とツィマネ族にいたっては、その症状を意味する言葉すら持っていなかったのです。

ジェローム教授は、彼らの睡眠時間には夏と冬で1時間の差がみられるのに対して、睡眠薬の長期利用はせいぜい15分程度の効果しかもたない、と述べています。すなわち、あらゆる障害を含めた人間の『睡眠』を改善するには、どんな薬を使うよりも、まずは温度をはじめとした環境を改めることが重要だ、と彼は主張しているのです。

眠れない都市

しかし現代において、『睡眠』の問題はより根深いところにありそうです。サリー大学のダーク・ジャン・ダイク教授は、「私たちには多くの人工光があり、時間で定められた社会的責任があり、もはや日の出や日没はなんのタイミングにもならない。そうした自然のサイクルと私たちには、大きな断絶がある。私たちは自然の環境に照らして、仕事をふくめた社会的スケジュールを再評価する必要があるだろう」と述べています。

そうはいっても、私たちが、本当の意味で時間から自由になることはできないでしょう。では、スケジュールから逃れられないとしたら、せめて『温度』はどうでしょうか? しかし現代、温度が『人』の影響を一切受けていないという環境も非常にまれなものです。真夏や真冬に外に出れば、どこでもエアコンが動いていますし、家でもエアコンや扇風機に頼る人はきっと少なくないことでしょう。

不眠症知らずの狩猟民族たち

睡眠に関するストレスがないことが、すでに不眠症予防なのでは?

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こうなると、私たちにとって『快適』とはどういうことか、『自然な睡眠』とはどんなものかを考え直さなくてはならないような気すらします。狩猟民族、ひいては私たちの祖先が求めた『睡眠』と、私たちの求める『睡眠』で、その質がすでに異なっているとしたら……。もしかすると、今回の研究があきらかにしたのは、文明や文化の発達とともに変わってしまった、私たちの『睡眠』のあり方それ自体なのかもしれません。

REFERENCE:

Modern Hunter–Gatherers Probably Get Less Sleep Than You Do

Modern Hunter–Gatherers Probably Get Less Sleep Than You Do

http://www.scientificamerican.com/article/modern-hunter-gatherers-probably-get-less-sleep-than-you-do/

Ancestors ‘had less sleep’ than we do

http://www.bbc.com/news/science-environment-34544394

Our ancestors probably didn’t get 8 hours a night, either

http://newsroom.ucla.edu/releases/our-ancestors-probably-didnt-get-8-hours-a-night-either