熱帯に生息する生き物、といえばどんなイメージが浮かぶでしょうか。ヤドクガエル、クラウンフィッシュ、ニシキテグリ……。もちろん地味な色をした生物もたくさんいますが、熱帯の生物は動物、植物に関わらずやたらめっぽうカラフルなものが多いです。そんな熱帯に生息するカラフルな生き物にまた新しい仲間が加わりました。今度はザリガニです。

A new species, Cherax (Astaconephrops) pulcher sp. n., from Hoa Creek, close to the village Teminabuan in the southern-central part of the Kepala Burung (Vogelkop) Peninsula, West Papua, Indonesia, is described, figured and compared with the morphologically closest species, Cherax boesemani Lukhaup & Pekny, 2008.

新種のザリガニ『Cherax pulcher』

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©Christian Lukhaup/ZooKeys

例に挙げたヤドクガエルのようなド派手さは少々劣りますが、これはこれで美しい色合いをしています。ところどころに付いた薄白い斑点はどことなくいて座の三裂星雲を思い起こさせます。

もしくはアメリカン・コミックスが好きな方はスパイダーマンなどを思い浮かべるでしょうか。

いて座三裂星雲

イギリスのプログレッシブバンドKing Crimsonのアルバム『Islands』のジャケットに使われていることで有名

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pixaboy

Cherax pulcher

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©Christian Lukhaup/ZooKeys

スパイダーマン

似てる。たしかにアメイジング。

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© 2012 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. Marvel, and the names and distinctive likenesses of Spider-Man and all other Marvel characters: ™ and © 2012 Marvel Entertainment, LLC & its subsidiaries. All Rights Reserved.

この新種のザリガニはCherax pulcherと名付けられました。Cheraxは南半球で最も繁殖しているザリガニの属の名前で、pulcherはラテン語で『美しい』を意味します。ちなみに、宇宙航空研究開発機構JAXAでもラテン語のpulcherに由来した名前のプロジェクトを進められているようです。

PulCheR(プリキュア)
現在、人工衛星等に使用されている推進システムは、有毒性のヒドラジン系推進薬を高圧に加圧した状態でタンクに貯蔵してスラスタ(エンジン)に供給しており、その推薬毒性や高い圧力が作業者への危険性や作業コストを増大させています。

そこで本プロジェクトでは、毒性の低い推薬を低い圧力でタンクに貯蔵した状態でも作動が可能なパルス作動型のスラスタを開発し、「低毒」・「低圧」な推進システムを目指しています。 – 低毒性推進薬を用いたパルススラスタ PulCheR(プリキュア)

さてこのCherax plucher、新種ではありますが、実はヨーロッパや北アメリカ、あるいは日本でも2000年代初頭からペットショップの商品として並べられていました。どうして15年近くも前に知られていた生き物が今、新種になったのかというと、新種として認められるためには論文を提出し、それが認められる必要があるのですが、研究を行ったChristian Lukhaup氏は原産地を特定することがなかなかできず、論文執筆が非常に難航したためでした。結局、主な生息地は西パプア、パプアニューギニア、オーストラリアということは判明したのですが、原産地がどこかというのは西パプアらしいということしかわかりませんでした。

やはり、新種なだけあって謎の多い生き物のようです。それにしても謎といえば、なぜこのCherax plucherはこんな目立った色をしているのでしょうか。

『Cherax boesemani』

Cherax plucherと似た色をしているが別種。Lukhaup氏は形態学的に似たこのザリガニと比較して新種であることを示した。Cherax plucherの方が2倍近く小さく、縦横比を比較すると横幅が狭い。

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Cherax boesemani – AquaPortail

なぜこんな色に?

生物の色の変化は様々な理由があります。すぐに思いつくものであれば

・性的なアピール
・種の識別
・警戒色
・保護色

などが挙げられるでしょう。なぜCherax plucherがこんな色になったのか、これらに一つずつ照らしあわせて考えてみましょう。

性的アピール

派手な色の生き物といえば最初にこれか警戒色を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、性的アピールのためにあのように体色が進化したというのは実は少々考えづらい仮説です。ザリガニの話はひとまず置いておいて、一見、無駄に見える機能が性的アピールに使われていることでよく知られているインドクジャクを例に考えてみようと思います。

インドクジャクの雄は長い羽を持っていて、それが雌へのアピールに使われている、と言われています。たしかにクジャクの模様は美しく、なんとなく羽が大きい個体の方が魅力的に見えます。一見もっともらしく聞こえますが、ただ単に大きくてきれいな模様を持っているだけのクジャクは外敵に襲われやすいだけで、生き残る上ではそんなものはない方がずっとマシです。

インドクジャク

生き残る上ではこんなに長い羽は不要に思える。

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もし同じだけの筋肉量を持った長い羽のクジャクと短い羽のクジャクがいたら、性的にアピールする上では前者の方が良いかもしれませんが、短い羽の個体の方が重荷を背負ってない分、断然、生き残りやすいはずです。ならば突然変異によってある雌が羽の短い雄の方を魅力的だと判断するようになったなら、羽の長さ以外の条件が全個体ほぼ同じであれば、ハンデを背負っていない分、羽の短い雄の方が、同様に羽の短い雄の方が魅力的だと判断する雌の方が遺伝子を残しやすく、長い年月をかけて個体数が多くなるはずです

ならばなぜクジャクは今でも羽の長い雄の方が雌に好まれるのでしょうか。答えは簡単で、先ほど『羽の長さ以外の条件が全個体ほぼ同じであれば』と条件付けたように、長い羽を持ったクジャクの方が短い羽を持ったクジャクよりも生き残るための能力が高い可能性があるからです。

その理由はたとえば『羽が充分に伸びるほど栄養を摂ることができる』『元々は長い羽を持っていたが何らかの理由でちぎられた場合、その個体は優れていないと判断できる』などが考えられますが、とにかく長い尾を持った個体の方が短い尾を持った個体よりも子孫を長く残す上で優れている可能性が(現時点では)高いことが既に実証されています。なぜなら尾の長いクジャクが生き残っているからです。

要するに何を言っているかというと性的アピールとしての見た目は何か生き残りやすい要因の結果として付随したものであって元々そのような見た目に進化した理由は別にあるということです。では元々の生き残る要因になったのはなんなのでしょう。

無論、『長い羽が性的魅力となる』ことがなんらかに付随したものであったにせよ、生き残る上で機能的に無駄だったとしても性的魅力として受け入れられたために羽をさらに伸ばした、ということは充分に考えられる。

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種の識別/警戒色

特徴的な見た目をしていればそれが自分と同じ種別の個体であると認識するのは容易です。これによって交配を防ぐことができ、また同種、あるいは共生関係にある生き物との連携をとることも簡単にとれるようになります。しかしこれも少しばかり疑問が残ります。ここでは海水魚ではありますが同じく熱帯に住むクマノミを例にして考えてみようと思います。

目立つ色をしていると、単純に発見が容易になります。どんなに生き残るのに有利な個体であろうと、同種の異性と出会うことがなければ子孫を残せないまま息絶える可能性があります。同種に会う可能性の低い種などでは、目立つ色を持つのは繁殖においては非常に有効な手であるかもしれません。しかし、クマノミの成体は深度60m以浅の、礁湖や礁周縁と、それなりに分布が制限されており同種の異性に出会うのにはそれほど苦労がないような気がします。

クマノミ

交配を防ぐ、ということについて。これは性的アピールと同様、元々にあった機能とは考え難い。他種との交配をすると『遺伝子的であれ肉体的であれ弱い生き物が生まれる(例:ウマとロバの交配種のラバは生殖能力を持たない)』、あるいは順序的に少し混乱するが『性的アピールのための模様を作ることができない』など、様々な理由によって交配が上手くいかなかったために、同種と交尾するように進化した生物が現在安定して生き残っていると考えるのが妥当。

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クマノミ – Wikipedia

今、クマノミは分布が制限されていると言ったばかりで全く逆に思えることを述べるのは恐縮ですが、彼らはあまり群れて暮らすようなことはありません。彼らは縄張りを持っていて攻撃的であることが知られています。これは彼らがイソギンチャクと共生関係にあること、つまり、彼らにとってイソギンチャクは限りある資源であること、から、資源を他の個体に取られぬように進化した結果と考えられるかもしれません。なので、彼らにとってあの模様は同種、あるいは同様の資源を必要とする異種に対して『縄張りに近付くな』という警告を示すための色であると考えることができます。もしお互いが目立たない色をしていてしょっちゅう縄張りが被っていたら争いばかりが起きてしまいます。争いばかりの個体は必然的に個体数を減らすこととなってしまうので、自分のテリトリーをきちんと示せる目立つ色の個体が生き残った、と考えられるでしょう。

なぜクマノミはイソギンチャクに刺されない

ハタゴイソギンチャクは水中のマグネシウム濃度が低くなると毒針を出すのだがクマノミは体の周りにマグネシウムを多く含んだ粘液をまとっているので他の生物と違い刺されることがない。この事実は2015年2月、愛媛県立長浜高校の山本美歩氏、重松夏帆氏によって発見された。二人はこの研究により第58回日本学生科学賞の中央審査で、最高賞の内閣総理大臣賞(高校の部)を受賞、米国の「国際学生科学技術フェア」(ISEF)にて動物科学部門の4等に入賞した。なお、カクレクマノミは『ファインディング・ニモ』の主人公のニモに非常によく似た見た目をしているが、違う種類である。

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しかし、目立つ色を持った個体は同種への認知を容易にしますが、同時に捕食者へ自分の場所を報せることとなります。天敵に自分の身をさらしていては個体数は増えません。やたらと派手な色というのも一長一短といえるでしょう。

保護色

最後に考えられるのは保護色です。さきほどのクマノミを再び例にあげますが、一説によるとクマノミはイソギンチャクやサンゴ礁などの色鮮やかな場所に住んでいるために、逆に地味な色の方が目立つと言われています。なるほど、それではサンゴ礁に住む熱帯魚を見てみましょう。

……。

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目立つような、目立たないような、という感じです。これなら地味な色の方がなんらかの理由でサンゴ礁から離れた場合、あるいは色の違うサンゴ礁に住む羽目になった場合を考えると幾分マシに思えます。少しこの説は無理があるでしょう。

あるいは、あの模様は天敵に対して『自分は毒がある』ことを示すという意味での警戒色、あるいは『毒があるように見せかける』という種類の擬態色も考えられるかもしれませんが、あのように多種多様な色の魚をどれもこれも毒だと判断して警戒していたら捕食者も餓死しかねません。無論、海にはもっとたくさんの生き物がいるのでわざわざ不思議な色の魚を食べる必要もないかもしれませんが、それならばあらゆる生物が食べられないようにカラフルになっていてもおかしくはないはずです。それと、ある種の模様を持った熱帯魚が毒性を持っているかしないと擬態色にはなり得ません。熱帯の海水魚の毒性について明るくはないのでこれがもっともらしい理由かは判断しかねるので、違う理由を考えてみます。

もし警戒色として役に立たないのであれば、クマノミは派手な色をしているよりも地味な色をしていた方が目立たなくてよいような気がします。ですが、それは人間の目から見て、の話です

先ほどの画像をモノクロ化したもの

サンゴの手前にいる個体はぱっと見ではよくわからない。

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実は海に生息するサメやアザラシ、イルカ、クジラなどの捕食動物のうちの多くの種が色盲であることが知られています。つまり、派手な色であろうとなかろうと、クマノミにとっては危険性はあまり変わらないということです。

もちろん、色覚を持った生き物の中にもクマノミを食す種は存在するでしょうが、かなり厄介な要素は取り除かれることはたしかです。また、クマノミは危険が迫った時にはイソギンチャクの中に身を隠すことで、派手な色をしていようと簡単に所在をバレづらいようにし、しかも身を守る盾まで作ることができます。そういった関係により、総合してクマノミは同種の仲間の見分け、あるいは性的アピールなどのために派手な色をした方が(ちなみに多くの熱帯魚はきちんと色覚を持っている)他種の生き物に襲われる心配をして地味な色をしているよりも有利であったためにそのように進化したと予想することができます。

ならば色覚を持ったサメが現れても良いのでは?

という考えも浮かぶかもしれないが、たとえば二色の色覚は『薄暗がりでは良く見える、空間的な視覚に優れる』など、三色の色覚よりも優れた点があることが知られている。サメやアザラシの場合、色覚を持って熱帯魚を襲うよりも色覚を持たずにいるおかげで有利に働く点を活かした方がより子孫を残しやすかったのだろう。

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さて、クマノミの話ばかりになってしまいましたが、本筋はCherax plucherです。先ほどの例と照らし合わせCherax plucherがあのようないろに進化した理由を考えてみようと思います。

ザリガニもなわばりを持つ生物なので、クマノミと同様に同種の区別を付けるためにあのような色に進化したことは充分に考えられます(ザリガニの多くは二色以上の色覚を持っています)。加えてそれが性的アピールにつながった、ということも、充分に考えられます。ザリガニは藻などに含まれるカロチノイドを摂取することで体色を赤くすることが知られています。二色に分かれる理由の説明にはなりませんが、体色に赤色が含まれていることは『きちんと栄養を摂取できる』という証拠として魅力的な見た目と判断された可能性はあります。

ならば危険性の方は、といえば、ザリガニは主に捕食側に回る生物ですが、一般的に天敵としてナマズなどが挙げられます。そしてナマズは視力が著しく低く、ヒゲによって水の振動などを捕らえて獲物を捕らえているのでザリガニがどんな色をしていようが知ったことではありません。

Cherax pulcherの画像を再掲

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©Christian Lukhaup/ZooKeys

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ついでに一応モノクロ化

モノクロだと二色には全く見えない。

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©Christian Lukhaup/ZooKeys

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ならばCherax plucherも同じような理論で説明がつきそうなのですが、他の天敵、たとえば亀などは多くの色覚を持っている種が数多く存在します。だとするならCherax plucherがあのような模様をしていることの説明ができません。先ほどからの条件のバランスの結果、あのような色を持つことができた、と結論づけるのは簡単ですが、それではあまり納得は得られないでしょう。もう少し詳しくCherax plucherの生態について詳しく調べる必要がありそうです。

それではCherax plucherがどこでどのように淘汰から生き延びてきたのかを調査してみよう……と思ったのですが、Cherax plucherは新種であるために原産地さえ特定できていないのでした。これではどんな外敵がいるかもわからず、これ以上の議論が進めることができません。Cherax plucherがなぜこのような色を取ったかは、このレベルの推測が限界のようです。

Cherax pulcherの雌

雄よりも地味な色合いをしている。ちなみに青い体色はカロチノプロテインによって作られる。雄が二色に分かれたのは『バランスよく栄養を摂取している』証拠を示すためという理由もあるかもしれない。

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©Christian Lukhaup/ZooKeys

と、そのようなわけでこの不思議を解明するためにもさらなる調査を待望されるCherax plucherですが、その色合いの美しさからどんどん人間によって捕らえられ販売、あるいは現地の人々によって食用として利用されているので、近年、非常にその個体数を減らしております。もしCherax plucherが絶滅することとなれば、この不思議な色合いの謎は永久に閉ざされたままとなることでしょう。せめて、この淘汰が生み出した神秘を解明するまでは、どうか生き延びてほしいと願うばかりです。

REFERENCE:

Cherax (Astaconephrops) pulcher, a new species of freshwater crayfish (Crustacea, Decapoda, Parastacidae) from the Kepala Burung (Vogelkop) Peninsula, Irian Jaya (West Papua), Indonesia

Cherax (Astaconephrops) pulcher, a new species of freshwater crayfish (Crustacea, Decapoda, Parastacidae) from the Kepala Burung (Vogelkop) Peninsula, Irian Jaya (West Papua), Indonesia

http://zookeys.pensoft.net/articles.php?id=5220

Weird and wonderful colourful crayfish species discovered in Indonesia [Photos]

http://www.ibtimes.co.uk/weird-wonderful-colourful-crayfish-species-discovered-indonesia-photos-1501255

The newest crayfish species looks like a Lisa Frank creation – The Washington Post

http://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2015/05/14/the-newest-crayfish-species-looks-like-a-lisa-frank-creation/

クジャク – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AF

クマノミ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%8E%E3%83%9F

サメには色覚がない、網膜分析で判明 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3693/

2色性色覚が有利になるとき | Jabion

http://www.bioportal.jp/ja/news/40

鳥たちが見る色あざやかな世界 | 日経サイエンス

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0610/bird.html

人はなぜ色彩を認識するのか、その起源と色彩効果

http://www5e.biglobe.ne.jp/~t-hys/chapter-8.html

小山慶一郎が見た…女子高生のクマノミ研究 | 日テレNEWS24

http://www.news24.jp/articles/2015/02/20/07269633.html

学生科学賞、歓喜のダブル受賞に沸く高校 : 教育 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20150119-OYT8T50184.html

長浜高コンビ4等入賞 国際学生「科学のオリンピック」 | 愛媛新聞ONLINE

http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20150517/news20150517489.html

リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子 』(2006),日高 敏隆,岸 由二,羽田 節子,垂水 雄二訳,紀伊國屋書店